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零ノ三 義妹×先輩=俺置いてけぼり(涙)


 今回はサブタイ通り(?)三人が一度に顔を合わせます


 それではどうぞ~




「ふぅ」


 4時間目の授業も終わり、昼休みの時間へ。それは長い間空腹を耐えた生徒にとってまさに至福の時間だ。


「兄さん兄さん。今日の弁当はなに?」

「そんなにはしゃぐなって。別に大したもんは入ってないんだから」

「ううん、私にはわかってるよ。目には見えないけど、私への愛情がたっぷりと入っていることを」

「俺がこの弁当に注いでるのは、妹が早く自立して欲しいと思う心だけだ」


 余談だがドジなせいで生活能力が乏しい(こよみ)に反比例し、俺は一通りの家事や炊事はこなせるのだ。というかこなせるようになった。そうでないと、こうやって昼飯もまともに食べれなくなるからな。


「あ、そうそう。昨日のチャーハンだが――」

「う、うんっ」

「――あんま美味しくなかった」

「そこは美味しかったよって言うべきでしょ!!」

「俺に嘘をつけと?」

「え、冗談抜きでまずかったの? さすがにへこむよ、一生懸命頑張ったのに……」

「まあ、お前のその頑張りはすごく伝わったよ。……あんだけキッチンが荒れてたらな」

「そ、それは、ちゃんと後片付けしようと思ったもん。でもやる前に疲れて寝ちゃって……」

「どこの世界にチャーハン一皿作っただけで寝ちまうほど疲労困憊になる女子高生が居るんだよ」

「うぅ~」


 暦は目尻に涙を貯め、むくれたように頬を膨らました。小動物かお前は。


「ほら」

「え」

「え、じゃないよ。お前の弁当」


 俺は自分の鞄からピンクの布でくるまれた弁当箱を取り出し暦に手渡した。


「えへへ~」


 ご機嫌斜めな雰囲気はどこへやら、弁当箱を満面の笑みで開けて箸を手に取る。

 女心は虚ろい易いみたいだが、こいつはちと虚ろい過ぎやしないだろうか。


「なんやなんや、相変わらず仲がええな~」


 俺達に関西弁で話しかけてきたのは、ショートカットの女子生徒――篤兎(とくと)(みやこ)だった。サバサバした性格で男女共に仲良く、両性別からも人望がある。ついでに貧乳。


「いたっ」


 頭を叩かれた……。


「余計なこと考えるからや」

「今のは兄さんが悪いよ」

「何故お前らはそんなわかったような顔してんだよ」

「そんなもん、顔に書いてあるわ」

「愛する兄さんのことだもん。手をとるようにわかるよ///」


 篤兎の理由はともかく、お前のは理屈じゃ通らないぞ義妹(いもうと)よ。


「まったく本当に仲良い兄妹(きょうだい)やわ」


 篤兎も適当な席に座り、弁当箱を開ける。家庭スキルは一通り持ってはいるらしいが、正直俺は篤兎の作る料理を食べたいとは思わない。


「~~♪」

「よくそんな真っ赤なもん食べれるな……」


 篤兎は大の辛党で、弁当箱は見ているだけで目が痛くなるぐらいに鮮やかな赤色。

 食紅ではなく、唐辛子などの香辛料からくる色というのがすぐわかる。

 それなりに料理ができる身だが、どうしたらこんなにスゴい色になるかわからない。


「別におかしなことはないやろ。ウチの弁当箱には辛味が、あんたら兄妹のには愛情が多めに入っとるだけやん」

「さっすが~、京。わかってるぅ~」

「変なこと言うなよ。別にんなもん入ってねぇよ」

「照れへんでもええやん。二人とも血い繋がってないんやろ?」


 うっ。第三者に言われると、なんだかグサッとくるな……。

 暦は俺達に血の繋がりが無いことを知ったゴールデンウィーク明けの登校初日、大声で堂々とそのことをクラスの連中に言い放ち、数分後には学年中に広まった。まあ、つい昨日のことなんだが……。


「何食べながら、うなだれてるん?」

「かわいそうな兄さん。きっとなにか原因不明なことで心を病んでしまったのね。私が癒してあげるっ」

「わーっ、こら抱き着くな暦!!」


 駄目だっ。適度な強さで腕を絡みつけられ離れやしない。


「ほんとっ、仲ええな~。……義妹ってみんなこうなんか?」

「なんだよその言い方。それじゃあ、お前の知ってる別の義妹もブラコンかのように聞こえるぞ。ええい、いい加減離せ!」

「兄さんが(ぬく)い~♪」

「隣のクラスにもウチの知り合いの義妹がいるんやけど、そいつもまあブラコンやろうな。暦に負けず劣らずの」

「それって、(あきら)のクラスの()? くんかくんか」

「そうや。そう言えばあの刃物女も料理部入ってる()うてたな」

「匂いもかぐっ、なっ!」

「ふぎゅっ」


 なんとか自力で暦の呪縛から逃れ、無理やり暦を椅子に座らせる。


「もうっ、兄さんたら強引なんだから……///」

「なんで頬染めて手を当てて視線を若干斜め横に向けてるの!? 今のやりとりでどうしてそうなったっ」

「イチャつくのもええけど、もう少し静かにしてえな。食事中なんやから」

「イチャついてねぇっ。でも騒いだことに関しては申し訳なかった、ごめんなさい」

「もう、しっかりしてよね。それでは兄さんは反省の証として、ここで義妹に愛の告白をして」

「お前が一番反省しろ!」


 元凶にして悩みの種が一番しれっとしているのはいかがなものかと。

 まあ、篤兎の言うことも一理(どころか全部)あるので、俺達兄妹も普通に静かに座って食事を再開することにした。

 ……何故さっきまではこれができなかったのだろうか?

 その後も時折談笑を織り混ぜながら、昼飯の時間が過ぎていった。俺はこのまま昼休みが終わると箸を動かしながら思っていたのだが、ここで予期せぬ来訪者が現れた。


零樹(れき)くーん、居るー?」


 なんと教室の扉から時任(ときとう)先輩が顔を覗かせたのだ。

 無視するわけにもいかないので、先輩に手を振って居場所を知らせるとニコニコ顔でこちらへやって来た。


「え、時任先輩、どうしたんですか?」

「はい、これ渡しに来たの。昨日間違って私の筆箱に入れてたみたいで」


 そう言って時任先輩がポケットから取り出したのは、俺が愛用している赤いインクのボールペンだった。


「あ、先輩が持ってたんですか。いやー、家に忘れてたと思ってました。わざわざありがとうございます」

「ううん、こっちこそごめんなさい。授業で不自由しなかったかしら」

「いえ、特には――」

「――大丈夫でしたよ。先輩がしゃしゃり出てくる必要が無いくらいに」


 俺の言葉を遮りながら、暦が俺と先輩の間に素早く割り込んでいた。


「……あなた誰かしら? 私は零樹くんとお話ししてるんだけど」


 普段は温厚な先輩も突然な暦の行動にイラッと来たのか、口調が少し剣呑(けんのん)な気がする。そしてそんな先輩の心情を表すかのように、いつもは緩やかなカーブを描いているトレードマークのアホ毛が稲妻のようなジグザグになり攻撃的に見える。

 ……というか、アレって形変わるものなのか?


「はじめまして先輩。私は有里暦。零樹兄さんの妹です」


 義理のですけど。

 そう付け加える暦は単に名乗っているだけなのに妙な迫力があるのは何故だろうか。


「ッ! そう、あなたが零樹くんの……」

「そうですよ先輩。いつも兄さんのかわいい寝顔を堪能しながらおはようのチューをして、朝は兄さんの愛情たっぷりの朝食を食べて一緒に登校して、同じ教室で時折憂い気に窓の景色を眺める兄さんを視界に捕らえ、お昼も兄さんが用意してくれた愛妹弁当をあーんして食べさせてもらって、放課後は夕日に照らされた廊下や帰り道を影と影がくっつきそうなほど近くで寄り添いながら家まで歩いて、晩御飯は二人では狭いキッチンの中でお互いに笑顔で調理して、入浴の時は兄さんに髪や全身をくまなく綺麗に洗ってもらって、日付が変わりそうになる前に二人で一緒のベッドに入って指と指を絡めながら目を閉じて眠りにつく一日を毎日送っている義兄(にい)さんの最愛の義妹――有里暦です」

「長ぇよ!!!

 どんだけ長文!? お前って早口言葉だったり、長い間喋ってると途中で舌噛まなかったっけっ。どこに行ったいつものドジな暦は。

 それよりもなんなんだ今の自己紹介。いや、自己紹介でもねえよ。飯のところ以外はお前の妄想日記、事実無根のでっち上げじゃねぇか!

 本当嘘だから。嘘だからみんな引かないで変態(シスコン)を見るような目でみないでっ、俺ら友達だろっ? って、篤兎っ、いつの間にそんな離れてたの、さっきまで一緒に昼飯食べてたじゃん!」

「兄さんのツッコミも長いよ」

「誰のせいだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 さすがにキレそうになった。

 俺のツッコミ(魂の叫び)をものともせず――というか完全な無視――に、自分より少しだけ身長が高い時任先輩を見据える。睨み付けているわけではないのだが、やはりどこか強気と言うかいつもと違う(妄言はいつものことだが)暦に多少なりとも困惑してしまう。

 威勢のいい暦に対して時任先輩はどこか悔しそうな、納得がいかないような表情をしている。

 こちらも理由はわからない。

 けれど時任先輩にも引けない何かがあるのか、その瞳に強い光を宿すと暦をまっすぐ見つめビシッと指さした。ついでにアホ毛もまるで意思を持つかのように、ビシッと暦にその先端を向けた。


「さっきから聞いてればあなた、私生活が零樹くんに依存しているばかりじゃない。もう少し零樹くんの苦労を考えたらどうなの?」


 おおっ、さすが先輩! 言うことがやはり違う。ちゃんと俺のことを理解、と言うよりブラコン呼ばわりしないとは。今まで出会ったひとはみんな俺のことを『ブラコン、ブラコン』言ってきたからな……。やっぱり先輩は頼りになる人だ。

 いいぞ、もっと言ってやってください先輩!、と俺は心の中で先輩を応援した。


「それに零樹くんは世話のかかる妹よりも、包容力のある人を望んでるはずよ」


 そうそう、そんな感じで…………、ん?


「確かに男の子は少し無防備な女子に惹かれることはあっても、それは第三者を守ることで一時の独占欲を満たそうとしているにすぎないわ。最終的には真の安らぎを誰か、包容力のある女性に求めるものなのよ。どんな時でも癒し暖めてくれる……。

 そう、()のような存在を!!!」


 ちょっ、何を言い出しましたか先輩っ。暦に感化されて頭のねじが数本外れてしまわれたのだろうか。もしそうなら、すぐにでも探さなくては。


「フッ、何もわかっていないですね先輩。日本男子は古来より自分が仕える主君を探してはその命を預け、主君を守るために散っていきました。自分の命を他人にゆだね、時には捨てさるという一見愚かな行為は大切な存在はつまり~~~(常人には理解できないような、哲学めいたことを長々と語る暦)~~~というわけで、妹萌えこそ至高なのです!!!」

「お前も何言ってんの!? というわけ、じゃないよっ。頼むからこれ以上身内の恥をさらさないでくれっ」

「そうよ。零樹くんは血の繋がっていない他人で、それでいて身近で支えてくれる人。お姉さん気質な先輩こそ素晴らしいと考えているの」

「ごめんなさい。俺、先輩の発言にもあまり賛同できません」


 なんだろう、今日の先輩は二桁単位で頭のネジを落としてしまったのだろうか。もしそうなら、急いで探さなくては。

 その後も二人は常識人(俺を含む)には理解不能な論争を繰り広げ、気付けば昼休みを終える放送が流れていた。

 って、俺弁当あんま食べてない!


「ほぉら、昼休みが終わりましたよ、時任先輩。二年生は自分の教室に帰らなきゃですよ」

「くっ……!」


 余裕を通り越してニヤニヤとした笑顔を張り付ける暦に対し、時任先輩はあたかも悔しそうというかどこか悲しげな表情。アホ毛も力なく垂れている。……本当にどうなってんだ、あれ?


「……そうね。もう時間になるし、教室に帰るわ。じゃあね、零樹くん。ついでに有里さんもお元気で」


 俺にはドキッとするような笑顔で、暦には仮面を着けたような無表情で別れを済ますと廊下へと消えていってしまった。

 後に残ったのはクラスメイトの好奇の目線、閉まった扉に向かって猫のように『フー、フー!』と威嚇する暦。そして、乾いた笑いをする俺。

 あー、めんどうなことになりそう。





 読んでいただきありがとうございました。

 いかがでしたでしょうか?


 今回は特に動きはないです。顔を合わせるだけ。さて、どのように転がすか(汗)


 今後もよろしくお願いします。伝助でした。さようなら~


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