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零ノ十一 放課後-先輩=義妹と遊ぶことになりました


 ああ、今年もこの日がやって来てしまった……



 それではどうぞ~



「なあ、妹ちゃんと喧嘩でもしたのか?」


 学生が一番に楽しみにしていると言っても過言ではない時間――昼休み。


 その昼休みに食べる弁当に箸を伸ばしていると、いつも一緒に食べている(こよみ)――ではなく、一人で弁当を食べていた俺の前に座り惣菜パンを頬張る西戸(にしど)砦羽(さいば)が唐突に言ってきた。


「いや、喧嘩じゃねえから」

「ならなんであんなにお冠なんだよ。あそこまでへそ曲げてるの初めてみるけど」


 西戸が指を()す方を見れば、クラスメイトと楽しそうに話しながら弁当を食べている暦の姿が。

 暦は俺の視線に気付くと、一回びくっとなった後にキッと俺を睨んでまた女子の会話に混じる。

 睨まれても迫力無いから怖くないけど。


「なにがあったかは知らないけど、早く謝っちまえよ」

「待て、なんで俺に問題が前提あるような口調なんだよ」

「じゃあ理由言ってみ?」

「先輩とお茶飲みに行って、そんで家に帰ったらあいつが半ギレだった」

「それはお前が悪い」

「なんでだよっ!? 俺の話し聞いてたか?」

「いや~、妹ちゃんの身にもなってみろよ。遅い遅いと不安になりながら待った帰りを待っていた兄(男)が、他の女といちゃいちゃしてたらそりゃ怒り爆発だろう。拗ねただけラッキーだと思わきゃ」

「むしろ心狭いだろ。てことは、俺はこの先一生女子と遊べないじゃないか」

「遊びたいのか?」

「いや、まぁ、うん、そうだな……」


 クラスのどこからかプラスチックの箸を真っ二つに折れたような音がしたが俺は何も知らない。見てない。聞こえない。


「じゃあよ、零樹(れき)くん、そんなお前に耳寄りな情報なんだけど……」


 そう言って西戸はクラスのみんな――というより暦に聞こえないように、俺の隣にこそこそと寄ってきて小声で言ってきた。


「合コンに行ってみないか?」

「合コン?

 確かほぼ面識がない状態の男女のグループが一緒に食事をしたりミニゲームで親睦を深め、あわよくば恋人を見つけようっていうあの合コンか?」

「まさか合コンって単語を出しただけでそんな説明文が出るとは思わなかったが、まあその通りだな。

 いやな、セッティングはできそうなところまで行ってるんだが、人数が集まってなくてさ」

「別に男が少なくとも問題ないだろう」

「問題あるんだよっ!」


 小声で怒鳴(どな)るという芸当を見せた西戸。


「いいか、合コンの中でどちらも『本当の当たり』は一人ぐらいなもんだ」

「いきなりひどいな」

「だからこそ、競争率の高いのを敢えて外して『当たり』よりもまだマシな、そこそこいいのを選ぶのが本物の合コンなんだよ」

「なぁ、これまだ続くの?」

「その中でっ、当たりよりもワンランク探すのも一苦労なんだよ。それなのに人数が規定数揃わないとか言語道断だろっ」

「もおいいから要点だけ言ってくれねえか」

「つまり、人数が揃い、()ついい素材を見つけておかないと女の子側のテンションを下げるんだよ。

 そんなことなら当然盛り上がることはなく、春も来ないままただ飯を食うだけになるんだよ!」

「なに、お前そんな彼女欲しいの?」

「そんな哀れみを込めた目で見るなー!!!」


 最後のフレーズだけ絶叫しやがったせいで、耳元がキーンとなり思わず両耳をふさいだ。

 周りも何事かと西戸を見たが、奇声を上げた本人は全く気にせず続けた。


「で、合コン来るのかっ、来ないのかっ?」

「あー、パスで」


 俺の返答を聞くと西戸はへなへなとうなだれて『はぁ、天宮(あまみや)にでも聞いてみるか……』と呟くと食事を再開した。

 俺も弁当に箸を伸ばし、おかずを食べながら西戸の落ち込み具合を見て合コンに行っても良かったかなと考えた。

 あまり経験できることでもないし。


 でも、彼女とかを作りたいわけじゃないんだよな~。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「兄さん帰ろう!!!」

「部活だ」


 放課後も終わりバンドの練習に行こうとする俺を、今日初めて口を聞いてきた(無愛想な挨拶を除く)義妹の暦は眼前に立ち塞がり行く手を阻んだ。


「てかお前も部活はどうした?」

「私は今日休みだよ」

「俺はあるんだよ」

「別に今日は練習出なくてもいいんじゃね?」


 そう言ってきたのは同じクラスのバンド仲間だった。


「いや、そこはお前が言っちゃダメだろ」

「でも今日は時任(ときとう)先輩も用事ができたから部活来れないって言ってたし、一年(俺達)だけで集まってもそこまで意味ないだろ」

「そりゃあ、そうかもしれんけど……」

「なら早く行こうよ!」


 暦はそう言うやいなや、俺の手を取り走りながら教室から廊下へ駆け出した。


「おい、廊下は走るなよ」

「なに、兄さん今さら優等生面(つら)?」

「違う。お前が廊下を走ったたら基本こ――」

「ふぎゃっ」


 暦は何もない、強いてあげるなら掃除が行き届いた綺麗な廊下を暦は突然横に転んで、手を握られたままの俺は壁に勢い良く叩きつけられた。


「………………不満があるなら受け付けるけど?」

「わ、わざとじゃないって。ほら、兄さんも私のドジっ娘なのは知ってるでしょっ?」


 こいつ、とうとう自分のことをドジっ娘と言いやがった。

 いつもは俺が言っても否定するくせに。


 …………はぁ。


「ほら」

「へ?」


 床に座りこんでいる義妹に俺は手を差し出すも、当の本人はポカンとした表情を浮かべた。


「遊びに行くんだろ? そんなとこで座ってないで、速く行こうぜ」

「うんっ」


 暦は満開の花のような笑顔で頷くと、俺の手を強く握り返した。


 その後俺達はカラオケに行きそれぞれジャンルの違う曲を熱唱し、ゲーセンで普段やらないUFOキャッチャーで失敗したり一緒にプリクラを撮ったりして楽しんだ。

 最後に暦が行きたい場所があると言うので着いて行ったが……。


「ここ、か」

「そうだよ。ここね、今うちの学校の生徒の間で人気の喫茶店なんだ。私も行きたかったけど中々来れる機会がなくて。

 ……兄さん、どうしたの?」

「えーっと、綺麗な店だなぁって。確かにうちの生徒が来たがるのも納得だな、うん」

「でしょでしょ」


 上機嫌で入っていく暦に引っ張られ、俺も学校で話題になっているらしい場所に入店する。


 ていうか、


 ここ、


 昨日俺と先輩が話してた店じゃないか!!!


 ……これってヤバくないか。

 先輩に義妹とはいえ、立て続けに違う女性と同じ喫茶店に入るなんていかがなものだろうか、うん。

 おい、あの店員昨日も居たぞっ。俺見てニヤニヤするな!


「兄さん、何頼む?」

「じゃあ、ホットコーヒー」

「……メニュー見ないの?」


 いけねっ。無難に昨日頼んだやつ言っちまった!


「コーヒーって店によって結構違うし、新しいところなら飲んでみたいじゃん」

「ふ~ん」


 暦はそういうものかという顔でメニューとにらめっこしている。

 店員、あんたもそうだなって顔してるんじゃねえよ!


「じゃあ、私はこれにしようかな。デラックスチョコレートパフェ!」

「それ食いきれるのか?」

「別腹別腹♪」

「言うと思ったよ」

「それでも食べ切れなかったら兄さんが食べてね」

「そこは自分で完食してくれよ」


 まあいいけど。

 甘い物は嫌いじゃないし。

 俺をニヤニヤしながら見る店員のお姉さんに注文をし、出された水を口にして待つ。


「私達、恋人に思われたかな?」

「……そうかもな」


 せめてニヤけ顔止めろ店員! クレーム着けるぞ。


「ねぇ、兄さん」

「なんだ?」

「私ね、…………部活やめよっかなって思うんだ」

「やめれば」

「うん、私ももう一回考え直して、――って、そこは止めないのっ」

「やめたいならやめるばいいだろ」

「だからそこは理由聞いたり、何か悩みは無いのかと聞く場面でしょうが! なんでいきなりGOサイン出すのよ!?」

「また失敗したのか?」

「失敗する前提っ? いや、まぁ、確かに失敗続きではあるけどね」


 暦は息をハッーと吐き、水を一口流しこんだ。


「そのね、私が部活をやめて早く家に帰って家事とかしたら、兄さんの負担も軽くなるのかな~って」

「お願いします、マジ部活続けてください」

「そんな露骨にイヤって意思表示しないでよ!」


 暦が家事?

 そんなの俺の仕事が2倍、いや5倍増えるだけじゃねえか。


「というかお前、料理の腕は少しでも上達したのか?」

「う、まだだけど……」

「なら、途中でやめないでもうちょいトライしてみろよ。せめて焦がさないレベルにはなっておいた方がいいぜ」

「………………」

「俺に美味しい料理作ってくれるんだろ?」

「……そうだね、うん、そうするよ」


 暦は何か吹っ切れたような笑顔で頷くと、店員がデラックスチョコレートパフェとコーヒーを持って来た。

 このタイミング、絶対話し聞いてただろ! いい加減にしろよ、真面目に仕事しろ。


「わーぉ、これ美味しい!!」

「良かったな」


 人の気も知らない暦は美味しそうにバカでかいパフェをどんどんたいらげ、俺はその様子をコーヒーをちびちび飲みながら見ていた。

 時おり、スプーンをこちらに差し出し『あ~ん』をして来たから無視したりしたので、時間をくい喫茶店を出る頃には日が沈んでいた。

 ちなみに俺のおごりになっていた。

 いつの間にか。


「今日は楽しかったね~」

「そうだな」


 まあ、いい気分転換にはなったよ。


「兄さん」


 家の前で来ると、突然立ち止まりクルリとこっちを向いた。


「私ね、部活をやめようと思ったのは兄さんが原因なんだ」

「人をやめる口実に使うなよ」

「そうじゃなくて、部活やめるって言ったら兄さんが私のこと心配してくれるかもって思ったり、お互いに部活入って会える時間減ってるなって感じて」


 確かに毎日顔を合わせてるとはいえ、二人で話す時間は結構減ってるかもしれない。


「でもね、やっぱりここが兄さんの帰る場所だもんね。

 そこはどんな変化があっても――ずっと変わらないもんね」

「ま、変わりようがないからな。自分のベッドで寝なきゃ落ちつかんし」

「私のベッドに来る?」

「野宿した方が安心だ」

「ひどくない!」

「妥当だろ」


 くだらない会話しながら、俺達は鍵をあけ靴を脱ぎ、帰宅した。

 いつもよりちょっと違う日常。


 たまにはいいかな、こういうのも。

 たまには。




 読んでいただきありがとうございました。


 サブタイがネタバレでしたでしょうか?


 前回に続き三角関係ぽくない。

 的を絞るのも難しいですね。



 次もいつ投稿できるかわかりませんが、待っていただけたのでしたら幸いです。


 伝助でした。

 さようなら~


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