始
――話は七年前に遡ります。
当時私は、あの人――弘明さんと、古いアパートで暮らしておりました。
あの人は大学生、私も大学に入ったばかりでしたから、二人ともお金はありませんでした。
それでも――幸せに暮らしていました。
弘明さんは、真面目な人でした。浮気とかそんなことで疑ったこともありません。
本当に真面目で、優しい人でした。
けれど――いなくなってしまったので御座います。
――いいえ、その日もいつもと変わらない様子でした。ただ、用事があって帰りは少し遅くなると言っていました。でも本当に変わったところはなくて、いつもと同じように笑顔で出て行ったのです。
それっきり、帰ってきませんでした。
先程も言った通り、弘明さんを疑ったことなんてありません。だから、その日も行き先も聞かずに送り出したのです。
今考えれば――聞いておけばよかったと、後悔するばかりなのですが。
それでも、二日待ちました。事故にでも遭ったのなら報せがあるだろうし、本当にあの人を――馬鹿みたいに信用していたので、絶対帰ってくると思っていました。
けれど、あの人が丸一日帰ってこないことなんてそれまで一度もなかったので、嫌な予感はしていたのです。
三日目に、警察に電話しました。流石におかしいでしょう。だから、捜して貰ったんです。
でも――彼は何処にもいませんでした。
彼の行きそうなところも全部探したけれど、何処にもいなかったのです。
それで――気づけば七年が経っていました。
今回こちらに来たのは、その――
――実は来月で、ちょうど七年目なのです。
あと一ヶ月で、彼は≪無条件で死んでしまう≫のです。
いえ――この場合は、≪私が殺す≫ことになってしまうのでしょうか。
でも、そうするしかないのです。このまま待っていても――きっと帰って来てはくれないでしょう。
ですからせめて、残り一ヶ月の間捜してみようかと思いまして。
それで、こちらにご相談にあがったので御座います。
無事に暮らしているなら暮らしているで≪殺さずに済む≫し――≪既に死んでいる≫のだとしても、
遺体のない葬式なんて、嫌ですから。