ネックレス
二人で兄貴を待つ寒い日の夕方。
君の首元で光る、見覚えのないネックレス。
なぁ、俺はいつまで見守っていればいい?
「綺麗なネックレスだな」
「綺麗だよね」
「誰かから貰ったん?」
「苫兄」
「へー。苫兄洒落てんなぁ」
苫兄センスいいからねー、なんて笑う君の顔は俺を呼吸困難にさせるほど苦しめる。
だって君の無邪気な笑顔は、なんだかすごく嬉しそうだったから。
「お前、好きな奴とか居ねーの?」
「うん、いないよ?」
本当かよ、ほんとは苫兄が好きなんじゃねーの、なんて絶対に言えない悪態を心の中で吐いてみる。
溜め息まじりに吐いた白い息を、袖に積もった真っ白な雪に吹きつければ、あっという間に溶けてしまった。俺の気持ちもこんなふうにすぐに溶けてしまえばいいのに。
「苫兄遅いねー」
「そうだな」
「なんか今日冷たくない?」
「別に?早く帰りたいだけ」
寒いもんね、なんて笑う君を見ないようにマフラーへ顔を埋める。
本当はさ、苫兄のこと好きなんだろ?
好きじゃないよ、なんて言葉、嘘だってすぐに分かる。
だって俺はずっと君を見てきたんだから。苫兄よりずっと。
好きだと言えば全てが崩れそうで、胸の奥にしまった気持ちが抑えきれなくなっていた。
いつまで見守っていればいいの?
いつまで見守っていれば、君は俺を見てくれるの?
「ネックレスってさ」
「へ?」
「独占欲の印なんだって」
「…」
黙るなよ。
「だからもしかしたらさ、」
黙るなよ。なんか言えよ。
俺が全てを言い終える前に。
「苫兄、お前のこと好きなのかもな」
俺って馬鹿だよな。
いつもこうやってお前の背中をおしちゃうんだから。
伝えたらもう逢えなくなるの?
それなら俺は、お前の特別じゃなくていいから傍に居たい。
永久に来るはずのないチャンスを待って、君の傍に居続けたい。
こんなに弱い俺じゃ駄目かな?
君の顔を見るのが怖くて、よりいっそう深く顔を埋める。
「ほんとに…」
ね、ききたくないよ。
もう、言わないで。君の答えは知っている。君の言葉は決まってる。
君の顔なんて見なくたって分かってる。
嬉しそうに、恥ずかしそうに、俺に向けない顔をきっと今の君はしてるんだ。
「ほんとに苫兄、私のこと少しでも特別って思ってくれてるのかな?」
「大丈夫。自信持て」
「えへへ、ありがとう」
見上げた君の首元に光るそれを、俺はどんな気持ちで見ればいいんだろう。
今まで作った大切な思い出を全て壊すくらいなら、俺はこの気持ちを隠しきろうと思うんだ。
好きだと言えば全てが崩れそうで。泣き出しそうな俺の心を必死に取り繕って、君に笑ってみせた。
「そんなに綺麗なネックレス貰ってんだから、自信持てよ」
「うん!あ、苫兄だ!おーい、苫兄ー」
苫兄のほうへ駈けていく君。遠さがる背中は君の気持ちと同じだね。
好きだと言えば全てが崩れそうで、伝えたいのに伝えなかった。
君の特別になりたいなんて、臆病な俺は言えなかった。
こんな弱い俺じゃ駄目だよな。
難癖つけて君への気持ちを、雪にでも隠してしまおうかな?
「かえろー」
「…おう」
伝えたらもう、逢えなくなるの?
伝えたらもう、逢えなくなるの?
だったら俺は…
突破的なのでいつも以上に内容がありません。
スミマセンでした。