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3話

そして、運命のXデーが訪れた。 国会議事堂周辺は、かつてないほどの厳戒態勢が敷かれていた。警視庁、警察庁、陸上自衛隊の精鋭部隊に加え、同盟国B国から極秘裏に派遣された特殊部隊、さらにはCIAやFBIの諜報員までが動員された。


各国の情報機関が総力を挙げてヤマトタケルのプロファイリングを試みたが、結論は「不明」。過去の痕跡が一切存在しない、文字通りの「亡霊」であった。 唯一の共通見解は「奴は必ず議場に現れる」ということ。 その一点に賭け、議事堂内部は要塞と化していた。傍聴席や通気口、あらゆる死角にスナイパーが配置され、数百の銃口が演壇に向けられていた。


午後一時。本会議が開会される。 議題など存在しない。ただ「ヤマトタケルを待つ」ためだけの儀式。 議長が震える声で開会の挨拶を終えた、その瞬間だった。


「……!」


何の前触れも、音も、気配もなく、演壇の中央にヤマトタケルが現れた。 あの白と赤の覆面。漆黒のスーツ。


『撃て!』 現場指揮官の絶叫と同時に、数十発のライフル弾が発射された。 乾いた銃声が議場にこだまし、硝煙が立ち込める。すべての弾丸が正確に標的を捉えた――はずだった。


煙が晴れる。 ヤマトタケルは、傷一つなく、微動だにせずそこに立っていた。


「事前の配備、ご苦労」 いつものように、マイクを通さずとも議場の隅々まで響き渡る、威厳に満ちた声。 「しかし、私にそのような攻撃は無意味だ」


そう言いながら、彼がゆっくりと手のひらを広げる。 カラン、コロン。 乾いた音を立てて床に落ちたのは、ひしゃげた数十発のライフル弾だった。


スナイパーたちが息を呑む間もなく、第二陣が動いた。 「突入せよ!」 ジュラルミンの盾を構えた機動隊の精鋭数十名が、肉の壁となって演壇へとなだれ込む。


ヤマトタケルは、ため息交じりに首を振った。 「何度も忠告している。もう警告はない。私の志を妨害する者は、命をもって償ってもらう」


抜刀の動作すら見えなかった。 銀色の閃光が、機動隊の列を横薙ぎに走り抜けた直後。 十数人の屈強な警官たちの体が、盾ごと上下に両断された。


鮮血の噴水が上がる中、第三陣が動き出す。B国軍特殊部隊による、重火器の一斉掃射。 アサルトライフル、機関銃の轟音が議場を揺るがす。数分間にわたる絶え間ない銃撃が、演壇を蜂の巣にした。


射撃が止み、静寂が戻る。硝煙の向こう側は、瓦礫の山と化していた。 「やったか……」B国兵士の一人が呟く。


だが、煙が風に流れた先には、衣服すら乱れていないヤマトタケルが佇んでいた。


「……バケモノか」 誰かの呟きが漏れた。これは人間ではない。人智を超えた存在だ。


ヤマトタケルは静かに刀を構え、宣告した。 「これから三つ数えるうちに、この場から去る者は見逃す。残る者は、覚悟完了した兵士と見なす」


「ひとぉつ」


その声に、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す者がいた。恐怖のあまり腰を抜かし、その場で失禁する者がいた。 だが、命令に縛られ、あるいは恐怖で動けず、その場に留まった者たちもいた。


「みっつ」


カウントが終わった瞬間、議場は再び血の海と化した。 部屋に残っていた兵士、警官、諜報員は、例外なく「肉塊」へと変わっていた。


静寂を取り戻した議場で、ヤマトタケルは生き残った議員たちを見下ろした。彼らは皆、恐怖で魂が抜けたように座り込んでいる。


「この過剰な『歓迎』は、私の要求に対する拒否回答と受け取ろう」 ヤマトタケルの声は、感情の色を見せない。 「だが、その回答に対する私の回答の前に……本日、出席しなかった者がいたな」


今日の本会議は、ヤマトタケルを罠にかけるための囮として、全議員に出席命令が出ていた。しかし、恐怖に負け、あるいは高みの見物を決め込み、欠席した者が多数いたのだ。


「敵前逃亡は、万死に値する」


ヤマトタケルが懐から何かを取り出し、議員席に向かって放り投げた。 ゴロ、ゴロゴロ。 血濡れたボールのようなものが、絨毯の上を転がる。 それは、本日欠席した有力議員たちの、切り落とされた生首だった。


「ひぃいいっ!」 悲鳴すら上げられず、泡を吹いて気絶する議員が続出する。


「それでは。要求を受け入れなかったということで、本来ならこの場の諸君を殲滅したいところだが……もう一度だけ、温情をかけよう」


ヤマトタケルは、血に染まった刀をゆっくりと納めた。


「来月三十日。再度、回答を待つ。受け入れられない場合は……そこに転がっている首が、諸君らの未来だ」


「それでは、来月を待っている」 そう言い残すと、ヤマトタケルの姿は陽炎のように揺らぎ、掻き消えた。


後には、数百の死体と生首、そして精神が崩壊した政治家たちが残された。


この日、この瞬間。 日本国民全員が、心の底から理解した。 「ヤマトタケル」という名の、現代に蘇った荒ぶる神には、いかなる武力も、権力も、絶対に通用しないのだと。

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