表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くよくよしない錬金術師、エリザ・シュターテット。  作者: 水乃ろか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/25

第14話 宣伝と誤解

 あれから、私はせっせと果物ポーションを作り溜め、私とメグは商業ギルドに商会設立の申請をした。


 そして本日、ついに『シュターテット商会』が晴れて開業の運びとなった。

 

「ててーーん! エリザ、がんばろうね!」

「うん! なんだかわくわくするね!」

 

 お店の棚やショウウィンドウには色とりどりのポーションを並べ、お手製の看板『シュターテット商会』を誇らしげに掲げた。


 ……しかし、現実はとても厳しかった。

 

 人通りがある通りとはいえ、誰一人お客さんは来ない。

 そりゃそうか。考えてみれば当然かもしれない。

 飲むお薬なんて、いきなり需要があるものでもないのだろう。必要に応じて買うのだから。

 

 それに美味しい飲み物が欲しければ、普通にジュースを買った方が安いし美味しい。

 自分のあまりにも甘い考えと商才の無さに、私は思わずに頬に一滴の涙がこぼれるのを感じた。

 

「お店ってさ、そんなもんだよー。あたしが店番やってるときだって、誰も来ない日なんてしょっちゅうだったし」

「そう、なんだ……お店を経営するのって、こんなにも難しいんだね」


 ただお店に立っているだけでは、そわそわして、居ても立ってもいられない。

 誰もお客さんが来なくて、このままおばあちゃんになっちゃったらどうしよう。


「ねえメグ。何かできることってないかな? 立ってるだけじゃ落ち着かなくて」

「ん~? まあ、人の居る所へ宣伝しに行くとかかなぁ?」

「宣伝? そうか……宣伝か!」

 

 そしては私は店番をメグに任せて、三本の果物ポーションを手に広場へと向かった。

 果物ポーションは、赤と水色と紫色の三色にした。


 広場に着くと、たくさんの人が行き交い、活気に満ちていた。

 屋台も並び、噴水前の椅子には座って休憩している人もいる。


 これだけたくさんの人がいれば、きっと良い宣伝になるに違いない。

 私は意を決して、声を出して宣伝することにした。

 

「果物ポーションいりませんか~? 美味しいポーションはいかがですか~?」


 ……見向きもされない。

 時折、ちらっと私の方を見る人はいるけれど、すぐに視線を外してしまう。

 

 いや、これでは駄目だ。もっとちゃんと売る努力をしないと!


「ポーションいりませんか! 美味しいポーションはいかがですか!」


 声を張り上げ、遠くの人にも聞こえるようにする。

 だが、やはり足を止める人はいない。


 今頃、もしかしたらお店の――メグの方にお客さんは来てたりするだろうか。

 もう引き返してもよいだろうか。

 

 ……いや、そんな弱気な事を考えてはだめだ。


 私は声が枯れるほど、大きな声を出し宣伝を続けた。

 だけど……


「……やっぱり、だめかぁ」


 誰にも見向きもされないのは、とても心が折れる。

 だけど、どうしても売りたい。

 

 頑張って作ったポーションに、頑張って作ったお店なのだ。

 ……いや、お店は貰いものだけど。

 

 しかし、もっと効果のある宣伝方法はないものだろうか。

 そんな事を考えながら、噴水の前の椅子で休憩していると、一人の男性が声を掛けてきた。


「なぁ、あんた。ポーション売ってるんだよな?」


 ついに、お客さん!? 私は反射的に立ち上がった。


「はい! 苦みを抑えた、甘くて美味しいポーションを売っています!」

「まぁ、味はどうでもいいんだけど、さっき街の入り口で怪我をした冒険者たちがいてな。もしかしたら、あいつらならポーションが必要なんじゃないか?」


 怪我人? 怪我をした人にポーションってどのくらい役に立つんだろうか? 学院長が、ポーションでは劇的な回復はしないって言ってたけど。

 それでも、怪我で困っている人に、私が作ったポーションを役立ててもらえるなら、それはそれで嬉しいことだ。


「ありがとうございます! すぐに行ってみますね!」


 私は男性にお礼を伝え、街の入り口を駆けだした。すると、すぐに人だかりが見えた。

 人だかりから、何やら大きな声が聞こえてくる。


「ボス! おい! しっかりしてくれ!」


 見ると、三人の男性がいて、皆怪我をしていた。

 そのうちの一人の男性が地面に倒れている。

 お腹の辺りには大きな切り傷があり、そこから大量に出血していた。


 布で止血をしているようだったけど、すぐに血に染まっていく。誰が見ても分かる。……重傷だ。

 正直、私が作ったポーションではどうにもならないと思う。

 

 あんなに怪我で困っている人たちに、役に立たないポーションを売りつける勇気も、そんな傲慢さも、私には無い。


 申し訳なさを覚えつつ、私は静かにその場を去ろうとした、その時。


「なぁ、あんた! それ、ポーションだよな!?」


 背後から、大きな声で呼び止められた。

 振り向くと、先ほどの三人のうちの一人が、焦った顔で私に声を掛けたのだ。


「それを譲ってくれないか!?」

「え、えと……その……」


「なぁ、頼む! 今、手持ちのポーションを切らしてるんだ!」


 周りの人たちも、私の方を見ている。『なんで売ってやらないんだ?』という、責めるような目線に私は動揺した。


 いやでも、これを飲んだ所で、そんな怪我が治るわけがない。

 でも、もしこれで譲らなかったら、私は怪我人を見捨てた悪人の様にも思われてしまう。


「あの……お譲りするのは構わないのですが……そんなに役に立たないと思いますけど……」

「ああ、分かってる。だけど、今はもうどうしようもないんだ。頼む!」

「じゃあ、あの、どうぞ……」


 私はおずおずと、震える手で三本のポーションを差し出した。

 冒険者の一人が受け取ると、そのうちの一本のポーションを倒れている重傷の人の口に急いで流し込んでいた。

 息も絶え絶えで、なんとか飲めているようだけど、果たしてどのくらいの効果があるのだろうか。

 

 そして、残り二本のポーションは、二人の怪我をした人たちがそれぞれ飲んでいた。


「……なんだこれ? 甘いな。ポーションなのか?」

「はい。果物で甘味を付けたポーションになります。……効果は普通のポーションと変わらないと思いますが」


 二人も充分に傷だらけだ。だけど、やはりポーションによって回復している素振りは全然無い。


 その時だった。

 

「うっ! ゲホゲホっ! なんだこれ!? めちゃくちゃまずいな!!」


 倒れていた、一番重傷だった男性がいきなり大声を上げた。


「おい! 大丈夫か!? ……って、お前、それ、どうしたんだ……?」

「ん……? なんだ、これは……」


 一番重傷だった人が、むくりと上半身を起こし、自分の身体を凝視していた。

 血だらけの服をめくると、先ほどまであったはずの大きな傷口が、どこにも見当たらずキレイさっぱりと無くなっていた。


 三人の冒険者、それを囲んで見ていた人たち、そして私。

 このあまりにも非現実的な状況に、その場にいる全員が静寂に包みこまれた。


 そして、突然、爆発的な歓声が上がった。


「すごいな姉ちゃん!」

「なんだ!? 奇跡でも起こしたのか!?」

「お前ら、このお嬢ちゃんに感謝しないとな!」


 いきなり私の肩をバシバシと叩くおじさん。

 頭をグシグシと撫でてくるお兄さん。

 私の手を握ってきて、涙ぐむおばちゃん。

 

 何が起こったのか全く理解できず、私はただおたおたするばかりだった。


 いや、ありえない。これはもしかして……

 シシィさんが何か仕組んだのでは? なんとなく、シシィさんならやりかねない、とふと思った。

 きょろきょろと周りを見渡すが、シシィさんの姿は見当たらない。


 すると、三人の冒険者の人たちが声を掛けてきた。


「お嬢ちゃん、本当に助かったよ。とんでもないポーションだな!」

「あれ? でも俺らの傷は治ってねえな?」

「ボスが治ったんだから、いいじゃねえか!」


 凄く喜んでくれている冒険者さんたちに、私は何て返答すればいいのか分からないくらい混乱していた。

 

「いや、あの……あはは……あの、その……失礼します!」


 いたたまれなくなって、私はその場から逃げ出してしまった。

 だって、どう見ても私のポーションの恩恵ではないのだ。

 

 それをさも、私が治しました。なんて厚かましい顔は、私には到底できなかった。



 ◇◇◆◇◇◇


 

「はぁはぁはぁ……」

「あれ? エリザ、おかえり~。宣伝はどうだった? お店にはお客さん、だれも来てないよー」


 つい、お店まで走って帰ってきてしまった。


「あ……お代、もらってなかった……」


 三本のポーション。値段としては三万。

 なんてことだ……私は宣伝や販売さえ、まともにできないのか。


 ……いや、だめだ。こんなことで、くよくよなんてしていられない。

 これも練習と思って、また気持ちを切り替えて頑張らないと。


「エリザ、どうしたの? 顔色悪いよ。大丈夫?」

「う、うん。走って帰ってきたから、ちょっと疲れちゃったみたい。少し休憩するね」


 そうして、私はカウンターにある椅子に座った。

 メグも隣の椅子に座り、二人でぼーっと店の扉の方を見ていた。

 

 お店のガラス越しに、通りを歩いている人が見える。


 時折、ちらりと店のショウウィンドウに並んだ色とりどりのポーションを見る人はいるけど、足を止めたりはしない。

 

 だけど、ついに店の扉を開いて、入店するお客さんが来た。

 

 そのお客さんは……なんと、さっきの三人の冒険者たちだった。


「よう! お嬢ちゃん、さっきは本当にありがとよ。店を探すのに苦労したぜ」

「あっ……い、いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませ!」


 全く予想していなかった来客だった。

 本来であれば嬉しいはずの初来店のお客さんだけど、さきほどの混乱が再び私の頭の中を支配する。

 

「さっきの代金を払ってなかったからな。いくらだい?」

「えと、一本一万になります……」

「そんなもんなのか? 随分と安いな。じゃあ三つで三万だな。あと、ここのポーションをさらに三本欲しい。全部で六万でいいかな?」

「は、はい! ありがとうございます」


 ついにポーションが売れた。

 だけど、その前にちゃんと説明しないと。


「あ、あの、さきほどのポーションの効果なんですけど、あれはポーションの効果じゃないと思います。だから、その、ここのポーション、そんなに凄いものではないんですけど……」


 私の必死な説明に、冒険者たちはキョトンとした顔で聞いていた。


「あっはっは! そりゃ、俺たちだって分かってるさ! ポーションにあんな効果は無い、だけど回復はした。俺の普段の行ないが良いのか、それともお嬢ちゃんが幸運の女神だったのか、どちらか分からんが命は助かったんだ。どちらにせよ、礼くらいはさせてほしい」


 それを聞いて、私は少し安心した。

 ポーションを買ったのに、全然回復しないじゃないか!なんて言われた日には、どうしていいのか分からないし。


「しかし、こんな所にポーション屋があったなんてな」

「あの、今日開業したばかりなんです」

「そうなのか、じゃあ仲間にも宣伝しておくよ。とんでもないすげぇ店があって、かわいいお嬢ちゃん二人が経営してる、ってな」

「あ、あの……はは……」


 冒険者たちは、そう言い残して店を後にした。

 私はなんだか、どっと疲れた。




 

 そして昼頃、お昼ご飯のため、看板を一度片付け、ドアに鍵をしてカーテンを閉めた。

 

 先ほどポーションが売れたお金で、メグが屋台のご飯を買ってきてくれたので、それをメグと一緒に食べていた。

 

「エリザ、さっきのお客さん。なにがあったの?」

「うんとね……」


 私は、街の入り口であった出来事をメグに説明した。


 怪我をした冒険者たち。私が持っていたポーション。そして、信じられないことに重傷が治った人。お代も貰わずに逃げるように帰ってきた私……


「あー、なるほどね。でもさ、ポーションで治ったんじゃなくても、結果的に治ったんだから、それで良くない?」

「そういうもんかな?」

「そういうもんだよ」

 

 メグが屈託のない笑顔でそう言ってくれると、理屈抜きに納得できた。メグの言葉は、なんだか私の心を安心させてくれる。

 

 お昼ご飯を食べた後に、私の心も落ち着いたところで、お店の再開の準備のため、店のカーテンを開けた。

 

 ……すると店の前に、わんさかと大勢のお客さんたちが並んでいた。

 慌てて、メグと一緒に店の外に出て、並んでいる人に尋ねた。


「あの、みなさん、どうしたんですか?!」


 並んでいる男性が、私の問いには応えずに言葉を返した。


「ここって、あの噂になってるポーション屋だよな?」

「噂……ですか?」


 なんの噂だろう。やはり、あの街の入口で起こした一件のことだろうか。


「ああ。めちゃくちゃ不味いけど、とんでもなく回復するポーション屋、だろ?」


 ……いや、逆なんですけど。

 ここは美味しいけど、そんなに回復しないポーション屋なんですけど……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ