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くよくよしない錬金術師、エリザ・シュターテット。  作者: 水乃ろか


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第11話 果物と練成

 学院に入学して、二日目の朝。

 

 私は文無しだ。だから、今日もまた食事目当てで学院に来てしまった。

 

 メグと研究室に来たけれど、フェルさんはまだ居ないようだった。

 私とメグは学院のローブに身を包み、お目当ての場所へと向かう。

 

 ……ええ。食堂です。他でもない、朝ご飯が食べたいのです。


 そして、メグと食事を終え、研究室に戻るとフェルさんがいた。


「おはよう」


 フェルさんの挨拶に、私もメグも声を揃える。

 

「おはようございます」

「おはようございます!」


 メグは窓際で本を読み、私は昨日教わった通り、水晶に魔力を通す練習をした。学院長に言われた通り、ちゃんと片手で。

 だけど、水晶に光が思うように灯らない。魔力が安定して流れていないようだった。


「最初はそんなもんだよ。焦らず、毎日やるといい」


 私の様子を見ていたフェルさんが、そう言ってくれた。


 焦り、か……


 魔法の練習以外に、私には焦りがあった。

 早く働かないといけないという、大きな焦りが。


 学院で無料で食事ができるとはいえ、先立つものが何もない。

 それに、メグのお父さんからもお金を借りている始末だ。このままではいけない。

 

 そんな事を考えていたら、集中できず、全く水晶に光が灯らない。しょげるばかりだ。

 

「エリザ。そう肩を落とさないで」

「はい……ありがとうございます」

「数日練習すれば、たぶん平気だよ」


 ……数日? 数日通わないといけないのか。

 食費が浮くのは嬉しいけど、私の今の優先順位は、学院じゃない気がする。


「あの、フェルさん。すみませんが、当分学院に来るのは控えようと思います」


 そう言うと、フェルさんが丸い目をしていた。


「どうして? 何かあった?」

「あの、私、働かないといけなくて。今、無職なんです」

「……そうなのか。どこか、働く伝手(つて)があるのかい?」

「いえ、それが。探すのもこれからでして……」


 自分で言っていて情けなくなる。すると、フェルさんが思案を巡らせていた。

 しばらくして、フェルさんがハッと何かを思いついたようで、私に語り掛けた。

 

「そうだ。エリザ、魔法の練習がてらに売れるものを作ったらどうだい? 錬金術なんて、基本は商売用の魔法だとも言えるし。それにエリザは店が既にあるのだから、ちょうどよくないかな?」

「売れる物、ですか?」

「ああ、初歩的な物であれば、治療薬かな? 今、材料を調合してみようか」


 フェルさんはそう言うと、棚から瓶詰の乾燥させた植物の根の様な物や木の実などを取り出した。それをすり鉢で細かくすると、瓶に入れ、液体を注いだ。


「この状態で練成するんだ。見ててごらん」


 フェルさんが液体の入った瓶に手をかざした。すると、フェルさんの服や髪の毛がふわふわと浮きだした。液体に魔力を詰められているのか、液体がどことなく光り輝いていた。

 そして、しばらくすると液体の輝きが消えてしまった。


「完成だ。これは経口の、傷や病気を治す薬のようなものだよ。といっても、劇的に回復するものではないけどね」


 フェルさんが、その液体を一口、ゴクリと飲んだ。


「……うん、練成はちゃんと成功している。液体に微量の魔力が伴っている」


 フェルさんはそう言って、持っていた液体の入った瓶を私に差し出した。


「エリザも飲んでみるといい」

「……え? あ、あのっ……!」

「魔力が体内に巡るのを感じるのも、練成に役立つはずだ」


 フェルさんは私に良かれと思って言ってくれているのは分かる。

 だけど、そうじゃない。そうじゃないんだ。

 

 私が気にしているのは、フェルさんが口を付けた瓶の飲み物を、私が飲んでしまっても良いものなのだろうか、ということで……私が考えすぎなのだろうか?

 

「さあ、どうぞ。飲んでみて?」

「あの……えと……はい……」

 

 断り切れず、瓶を手に取り、一口飲む。

 すると……


「うっ……にが……」

「あはは。まあ、美味しい物ではないからね」


 思った以上の苦さだった。あまりに苦さに自分の顔が歪むのが分かる。

 いっそ、吐き出してしまいたい気持ちになったが、フェルさんの言う通り、魔法を体内で感じ取るために飲み込んだ。

 

 この苦さは、材料の植物の味だろうか、植物特有の濃い苦みが充満している。

 薬といえば、それらしい味とも言えるかもしれないけど。

 そして液体に宿った魔力だけど、なんか分かるような分からない様な……


「これは液体の薬で『ポーション』と言ってね。一定の需要があると思うし、調合は簡単で材料も安い。初歩的な商売は出来るんじゃないかな?」

「あの、これって学院で作ったものを勝手に売ってもいいものなのでしょうか?」

「たぶん、平気じゃないかな? 僕も気になるし、学院長に聞いておくよ」

「あ、ありがとうございます」


 果たして、この不味い飲み物が本当に売れるのだろうか? 都会の人は、変わったものを欲しがるのだと感じた。

 どうせなら、もっと美味しかったらいいのに。これって勝手に味を足したらダメなのだろうか?


「フェルさん。この薬を作るうえで、調合する材料を足してもいいのでしょうか?」

「材料を足す? 何をする気だい?」

「いえ、もっと美味しい味付けが出来ないかなと……」


 それを聞いたフェルさんは、多少驚いた顔をしていたものの、優しく説明をしてくれた。


「錬金術は、素材や、その分量などが細かく決まってるんだ。もちろん、自分なりに改善してみるのも良いんだけど、効果が薄れたり、違う効果になってしまったりするからね」

「そうなんですか……」


 錬金術というものは、私の想像以上に奥が深いものらしい。


「錬金術は料理のレシピとは異なるからね。材料が変わる事で、効果が変わる危険性を伴う。まあ、ポーションくらい単純なものだと、危険性はないけど。どうせなら、色々と試してみるといいよ」


 フェルさんはそう言うと、ポーションの基本的な材料と、その分量と調合方法を教えてくれた。と言っても、先ほど見た通りの手順だったので、材料を用意するくらいだったら私にも簡単に出来た。

 フェルさんは私がすることを興味深そうに見ている。


 私は棚に置いてある、様々な材料をひとつひとつ確認した。

 ……と言っても、どれもこれも、よく分からない。いっそ、果物とかあればいいのにな。

 

 ……果物? たしか、あったな。食堂に。


「フェルさん、私ちょっと食堂に行ってきます!」

「え? どうしたの、いきなり」

「待って! あたしも行く!」


 そうして、メグとフェルさんも、急に立ち上がった私に続いて食堂に着いて来た。


「なるほどね、果物を入れて甘くするのか。まぁ、やってみるといいよ。何事も試すことが肝心だ」

「……あの、もしかして果物を入れたものって、すでにあったりするんですか?」

「無いけど、作られた事はあるね」


 作られた事があるのに、無い? なんで? 美味しい方が絶対に良いと思うんだけど。


「どういうことです? なぜ、無いんでしょうか?」

「果物を入れるとね、途端に術式が複雑化するんだよ。おそらく糖分……甘い成分が関係していると言われているけど、実態は分からないんだ」

「甘味が……ですか」


 うーん。そういう事もあるのか。でもまぁ、練習という事で、少しばかり果物を分けて頂いて持ち帰った。

 メグはいつの間にか箱に食べ物を詰めていた。


 研究室に戻ると、私はさっそく果物にを細かく切り、ポーションの素材と液体と混ぜた。どのくらいの分量を入れるべきか分からなかったので、これでもかというくらいに、果物はかなりの量を入れてみた。

 これで苦かったら意味がないもんね。


 そして、さっそくポーションに魔力を注ぐ練成を行なう。

 手をかざし、魔力が流れこむ様に、頭の中で思い描く。


 すると、魔力を注ぐべき術式がふわっと頭の中に浮かんでくる。そして見えてきたのは、凄く長い木に、数え切れないほどの枝が派生しているような、複雑かつ、膨大な量が要求される術式だった。


「こ、これは……」


 術式のあまりの複雑さに、つい声が漏れた。


「言った通りでしょう? できなくは無いけど、これをちゃんとやるとなると、費用対効果が悪すぎるからね。誰も商売としてやりたがらないのさ」

「な、なるほど。たしかにそうですね……」


 んむむ、言われていたけど、たしかにこれは大変だ。

 ひとまずは魔力の流す練習という事もあるので、私はこの美味しいと思われるポーションの練成を成功させるべく、魔力を注ぎ込む。

 

 魔力を通す道に、水――魔力が溢れないような細心の注意を払う。

 手前の方は簡単だけど、奥に続く路が長くなるほど、魔力を通すのが難しくなってくる。

 

 焦っちゃダメだ、そう自分に言い聞かせる。


 それから練成を開始して、どれくらい時間が経ったのだろうか。集中状態が長く続いている。だけど、嫌な感じではない。

 むしろ、集中しているのが心地良く感じる。


 そして、やっと術式に魔力が行き渡った。

 感触としては、おそらく問題ないと思う。


 こうして、私の初めての練成が終わった。いきなり大変なものを作ってしまった。

 最初はもっと簡単なものを作るべきだったと、作り終えてから気づいた。


「エリザ、お疲れ様。見た感じでは、ちゃんと出来ていると思うよ。でも飲んでみないと分からないけどね」

「では……飲んでみますね」


 私がそう言った、その時だった。

 突然、研究室のドアが開いた。学院長が訪れたのだ。


「やあ、こんにちは皆さん。エリザさん、もう練成しているのかな?」

「こんにちは。はい、フェルさんに教えて頂いたので、たった今、初めて練成を試してみました」

「ほう。何を作ったのかな? これは……ポーション? すこし変わった見た目をしているね」


 学院長がポーションの入った瓶を興味深そうに見ていた。


「はい、果物を入れて見ました。その……ポーションが苦かったもので」

「ふふ、皆が最初に通る道だね。そして、複雑な術式を見て、驚くと言うところまでが良くあることさ」


 皆、やっぱりそう思うのか……

 

「それで、味はどうだったのかな?」

「ちょうど、これから試飲してみようかと思っていました」

「ほう、私も頂いていいかな? ちょうど、良い物がありますよ」


 学院長はそう言うと、棚から4つの小さなグラスを取り出した。

 それを机に置き、私が練成したポーションを注いでくれた。

 なんだか、おしゃれな飲み物になった。


「それでは、マーガレットさんにフェルさん。そして、エリザさん。グラスをお持ちください」


 私たちはポーションの入ったグラスを持った。


「では、エリザさんの初めての練成成功を祝って、頂きましょうか。乾杯」

「エリザ、おめでとう。乾杯」

「かんぱーい!」

「ありがとうございます! 乾杯!」


 そして、私たちは果物を入れたポーションを飲んでみた。

 

 …………こ、これはっ!?


 ブー!! っとメグが盛大にポーションを口から吐き出した。


「なにこれ!? げきまずっ!?!?」


 メグが大声で叫んだ。

 

 フェルさんも顔を青くしていた。

 だけどポーションをすでに飲み込んでいたのか、フェルさんの身体が小刻みに少し震えている気がする。

 

 そう、私が作った果物入りポーションは、にがあましぶからい味になっていたのだ。

 簡単に言うと……すごく不味い。想像を絶する不味さだ。


 私は余りの不味さに頭痛がしつつも、なんとか飲み込んだ。せっかく作ったんだし……


 だけど、学院長だけは表情が変わっていなかった。

 ゆっくりと、激マズポーションを飲み込んでいて、小さな声で学院長が呟いた。


「これは……?」


 

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