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【9】兄妹



――――地球で生きていた頃、俺には実の妹がいた。そう、亜璃子だ。それから異母弟の麗人。


俺は実の妹の亜璃子にも麗人にも兄として分け隔てなく接してきたつもりだった。


でもある日を境に亜璃子が行方不明になった。どれだけ捜しても遺体は見付からなかった。だが一向に見付からない亜璃子を捜す俺に麗人が言った言葉だけは忘れない。


『もう亜璃子なんてこの世にいないんだ!ぼくだけを見てよ……!』

まるでそれを分かっているかのように麗人は嗤ったのだ。


それは俺が麗人に疑念を持つようになったきっかけだ。それでも……麗人の身の不遇に同情し、俺が麗人を見捨てれば麗人は身寄りもなくひとりきりになってしまうと思ったから……。

隠れて亜璃子の行方を捜しながらも、普通に接しようと努力をした。


でも考えてみれば麗人には……俺なんていなくてもたくさんの親派がいたんだよな。

俺を刺してくるほどに狂人じみたファンまでいた。


「お兄ちゃん、まずは聞いて欲しいの。私は眷属神としての記憶は地球に転生した余波か、よく覚えていないんだけど」

アリスもなのか?つまりはいずれ思い出すのか。


【それはない】

アルベロ……?


【アリスの精神は俺たちのように分かれてはいない。この世界で肉体を失ったアリスは人間側に分かれたお前が地球に連れていったから】

は……俺が……っ!?


【その際に一切の記憶を封じた。主である俺が封じたのだ。一生目覚めることはない】

何故封じたんだ?


【彼女は原生種だ。ここで記憶を共有すれば分かってしまうかもしれない】

原生……種?また聞き慣れない言葉だ。魔族の種には変わらないんだろうけど。


「私は地球からこの世界に転移したの。そうしたらここで待っていたもう一人のお兄ちゃんに会ったよ」

それがアルベロの神としての精神体ってことか。


「こちらの世界では私はお兄ちゃんの眷属神に戻ったから、見た目がこんな風に変わったの。顔と年齢はあの時のままだけど、変な色になっちゃって……ごめんね……?」

「変なんかじゃない……!また会えてよかった!」

生きて会えて……っ。そっとアリスを抱き寄せれば、とても懐かしい感覚を覚える。前世どんなに捜しても見つかることはなかった妹をアルベロがこの世界で見付けてくれたから。

【当然だ。今度こそ守ると誓った】

まるで守りきれなかったことがあったかのような言い方だな。


「でもどうして異世界転移だなんて。召喚されたってことなのか……?」

「お兄ちゃん……そのことなんだけど、言っておかなくちゃならないことがあるの」


「……何だ……?」

「私はね……あの麗人に殺されかけたの」

麗人に……っ。いや、分かっているはずだ。前世の疑惑はアルベロの神眼によって暴かれた。


「私、ずっとあいつのこと怪しいと思ってた。お兄ちゃんにはいい顔をするけど、私と2人っきりになったら性格が豹変するの」

アリスがふるふると身体を振るわせる。


「違う……お兄ちゃんのいないところでは……いつも、みんなに……自分の親派にもだよ。だからひとりだけ、麗人に優しい顔を向けてもらえるお兄ちゃんを……周りは憎んでいたけど、麗人がコントロールしていたんだよ」

麗人は俺が想像するよりもはるかに手管を回していたのか。もしかしたら公爵邸でも……。


「でも何で俺だけ……?」

「分からない。あいつ、異常だよ。お兄ちゃんへの執着、恐いほどだった……っ!お兄ちゃんに真実を告げようと私は証拠を集めていたけど、あいつに勘づかれた。親派を使って私を山奥に監禁して……それから……崖から突き落としたの」

麗人は何てことを……っ。

「ごめんな……気付いてやれなくて……っ。アリス……恐かっただろう……?」

アリスの身体を再び抱き締め、優しく頭を撫でる。


「でも、今はお兄ちゃんがいるもの。あとね、アルベロお兄ちゃんもいるから、今のお兄ちゃんは最強なんだよ」

確かにアルベロがいるからな。


「むしろ敵うのは創世神くらいよ」

レティシアが微笑み、シルヴァンとアベルもそうだと頷く。

本当にアルベロってチートだな。

【チートじゃない。神なのだから当然だ】

確かに。飛べる種族も、飛べるスキルを持つ種族も。みな、地に足をつけねば生きてはいけない。その身体のエネルギーとなるものは地に芽吹き、そして俺たちはそれを食べ生きて行く。肉になる獣だって、その餌もまた大地から作られるものたちだ。

アルベロは全ての生命の根源のような存在なのだから。


「あ……でも、アリス。大丈夫だったか……?召喚か転移ってことは、まさかあの女神に会ったんじゃ……っ」

ヒト側だけの俺の魂に女神は気が付いていないようだったけど、アリスは地球ではヒトとなった……原生種の魂と半神の魂が分かれてはいない。


「私は落とされた先が大地だったから。私の寿命以外の命の危機に地が触れているなら、アルベロお兄ちゃんがこちらに来られるようにあらかじめ地球の神と契約していたようなの」

【まぁ、お前もだが】

それで……刺されて殺されて、こちらに魂が戻って来たのか。刺されたのは外だ。俺は地面に横たわったはずだ。


【まぁ、間に合わなくて魂だけがこちらに来たから、その場合はそのまま肉体を持ってくれれば、後は俺とひとつになるだけで済んだんだが……光の女神があのレナードっつーガキに色目を使って不遇な立場に貶めた。それでも俺の片割れだから、地底種の血筋のある場所に導かれたようだが、元はヒト族の側面もあるから、そちらの影響も出た】

それで俺は母さんの息子に転生したわけか。

あれ、待って。麗人は俺が殺された後ってどうなったんだ。


【お前を追ってこの世界にまで追って来たんだ。あれ自身も元はこの世界にゆかりのある魂を持つ】

麗人がこの世界に……。しかし一瞬脳内に浮かびかかったイメージを慌てて抑え込む。


【そうだ、それでいい】

アルベロの言葉はどこまでも正しいような気がしたのだ。

【でも、安心しろよ】

アルベロ……?


【【アリスをこの世界に迎えたのは、ずるをした光の女神じゃない】】

あのムカつく女神は光の女神だったのか。大層な冠詞が付いているが色事に呆けた女神の間違いじゃないのか……?

【それも違いない。あいつの特性は光……だが空は創世神の領域だ。太陽もな。だからあいつは所詮、創世神の下で地上の人類に関する役割を与えられているにすぎない】

思ったよりも女神の権限は狭いのか。


【広くするはずもない】

そりゃそうか。


「そうだよ。お兄ちゃん。私の時は海の女神さまが代行していたんだ。だから私のこと、お兄ちゃんたちの妹だってすぐに分かってアルベロお兄ちゃんの元に導いてくれたの」

【大地と海はある意味運命共同体みたいなもんだからな】

それは確かに。

【あと、そっちも妹だし】

言われてみればそうである。海の女神も創世神が産み出したのならばアルベロの兄妹。だから海の女神も俺たちの妹のアリスには優しくしてくれたんだね。

【あぁ】

アルベロが満足そうに頷く。やはり海の女神との関係は良好なようだ。そもそも海と陸が喧嘩されても困るしな。

――――あれ、そう考えればアルベロも光の女神と兄妹ではと思うのだが。

【あれは別枠だ】

うん、俺もそれでいい。


「……でも、せっかく謹慎が解けて復帰した光の女神はまたおいたをしたようだね」

シルヴァンが微笑む。わぁ……黒い笑みだ。


「あれではさすがに創世神からも……」

アベルも苦笑いである。

「そうだねぇ。一度授けちゃったギフトは創世神管理のステータスに紐付けられて外せなくなっちゃうから……あのグロリアスの勇者は未だかつてない快挙として人類に讃えられるだろうね」

そっか……あれ、外せないのか。なら弱点は神の力だけとなる。

でも……俺に与えられた女神のクソギフトは外せたんだよな……?

【光の女神ごときが俺の肉体にギフトなんぞ付けられるはずもない】

確かに……アルベロの方が上位の神だもんな。だからこそ出来たのだろう。


そして……ふと、アリスが呟く。

「ねぇ、そのグロリアスの勇者って……」

そうだ……アリスはまだ知らないかもしれない。


「アリス、そのグロリアスの勇者・レナードが……麗人だよ」

「……えっ」

アリスが驚愕する。


「相手も前世の記憶がある」

「そんな……っ、どうして私たち兄妹の平穏を乱そうとするのっ!?」

本当だ。あの子は……俺が見捨ててしまえば天涯孤独になる。父親はろくな父親じゃなかったし、麗人の世話は使用人に任せっきり。使用人も愛人の子の世話など嫌だと職務を放棄しても、あの父親は放ったらかした。情けをかけたのが間違いだったのか。

【ずっと知っているだろう……?】

アルベロの言葉は、古代俺たちがひとつだった頃に散々味わっただろうとでも言いたげだ。


【それでもお前は……人類に慈悲を与えた】

だからこそ大地の神を魔神と呼び人類の敵としても、人類は大地の上で暮らすことを未だ許されている。デンドロン皇国以外は大地の神のその加護を充分に与えられていなくとも。あの土地を大地であり続けさせていたのは……俺の側の、慈悲だった。


【慈悲すらも取り去ってやってもいい】

そうしたら海の女神に迷惑がかかるのでは……?

陸地が崩壊すればそのまま海に呑み込まれていくのではなかろうか。


【あー……それは怒られるかもな】


「でも……俺たちの平穏を掻き乱すのなら魔族の地……魔界と、それからデンドロン皇国に手を出すなら、今度はみんなの力を借りたい」

眷属神と言えどどうしてか弟妹みたいな存在だ。レティシアはお姉さんっぽいけど。


【当然だ。俺が引き込んだ古代神たちだ】

アルベロにとっては兄妹とも呼べる存在なんだな。

【お前にとってもだぞ?】

それもそうだ。

――――そして。


「もちろんだよ。そのためにもぼくは魔王国のドンでいるからね」

シルヴァンが頷く。


そしてアベルも。

「お任せください。ティルさまに不敬な態度を取るやからどもはこの俺が殲滅します」

「いや……殲滅は……その、時と場合によりけりだ」

やっぱりアベルの発言は節々に黒々としたものを感じる……!シルヴァンも黒い笑みを含ませるけど、アベルは直で言うからな……?


「もちろん、私もよ」

レティシアは黒くない……?


「ティルさまとアリスちゃんの間を引き裂こうとするなら、魔性花種の私がたぁっぷりいたぶってあげるっ!」

いやいや違う!このひと笑顔でドSの女王さま発言するひとだった……っ!


「お兄ちゃん……!」

「うん、アリス。今度こそ、絶対に一緒だ」

アリスだけはいつまでも純粋でいて欲しいなぁ。そんな願いを込めてアリスの頭をなでなでする。本当に懐かしいな。


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