【7】魔王
――――ここは地底種たちの地下都市と違い、窓がある。金色の窓枠の隙間からは光が射し、美しい。
「どこ?ここ」
アルベロの転移で一同ここへと運ばれたあと身体の主導権は俺に戻ってきて、姿も元に戻ったのだが。
「魔王城です」
しれっと告げるアベルも、今はヒト型に近く、巨腕や剣はしまっている。
そしてここが、魔王城。
「ラスボスの城ぉっ!?」
古今東西の異世界冒険ファンタジーにおける、ラスボスの居城である……!何で!?俺勇者でももちろん聖女でもないのにいいぃっ!!!
【いや、ラスボスは確実に俺らだろう】
ぐはっ。確かにアルベロはそうかも。何たって神話に出てくる魔神であり、母……ではないが地上の住民たちがその身をを預ける大地の神なのだ。
【お前も俺の一部なんだから、そうだぞ】
弱々ですが。
【俺と同期したことで今は魔鋼種よりも頑丈だ、安心しろ】
マジかよ。更なる事実に驚愕していれば。
「ねぇ、ティルちゃん」
「か、母さん!?」
「ティルちゃんったら、今15じゃなかったかしら……随分と大人びちゃって……!大きくなったわね~」
ドテッ。やはり自分の母親の目は騙せない。実はアルベロが成長速度を高めたことを素直に白状した。
「あら、そうだったの?でも、ティルちゃんはティルちゃん。お母さんの息子には変わらないわ。もちろんアルベロちゃんもね」
アルベロにちゃん付けできる母さんもすごすぎるけどな!?
「今まで迎えに行けなくてごめんなさいね……。ティルちゃんと離ればなれになってグロリアス王国を出たあと、デンドロン皇国に連れてこられて……そこでお忍びで来ていたあの王に見付かったのよ。ほらあの王、クズだから」
母さんの顔が真顔になる。うん、それはとってもよく分かる。ん……あれ……?連れてこられた……?少し気になるが、今はとにかく。
「でもアルベロが怒ってくれたから、もう大丈夫かな……?」
「そうね、アルベロちゃんもだけど……ティルちゃんもよ」
「いや……俺は……」
たいしたことやってないし。
【お前がいなけりゃ俺もあそこには行かなかった。導いたのは紛れもない、お前だよ】
アルベロ……。
「それに……ティルちゃんがシャーナちゃんをお嫁さんにだなんて、お母さん嬉しいわ……っ!」
そ、そう言えばその問題が……っ!
「ご、ごめん……嫌なら……その、アルベロに撤回させるから……!」
【おいおい、神託撤回させんなー】
神託っていいものだったのか……!?
【当たり前だ。神の言葉だからな……!】
うぅ……。とは言えシャーナの気持ちは……。
「その……レベッカさまの……ご子息なら……よ、喜んで……っ!」
はい……っ!?
「私も……レベッカさまの義娘になれるのなら……っ」
え……?そりゃぁ結婚したらシャーナはレベッカこと母さんの義理の娘になるが……。
「シャーナちゃんったら。今までもこれからも、私はシャーナちゃんのお母さん代わりよ?」
「レベッカさま……っ」
手を取り合うふたり。思えば……今までもそう言う関係だったのかな……。
母さんはあのクソ王の……妃のような立場に無理矢理つかされてきたのだろう。そしてシャーナは王の娘であったから。義理の母娘……だったんだな。
だとしたら……。
「そう言えばあの時シャーナはどうして逃げ出そうと……?」
「あ……それは……」
「シャーナちゃんは見た目がもう年頃でしょう?あの王……シャーナちゃんに手を出そうとしてたのよ」
母さんの言葉に戦慄する。
【殺しておいた方がましだっただろう……?】
確かに……。殺しを正当化したいわけではないが……あの時アベルを止めて良かったのか、今さら迷ってしまう。
【案ずるな。魔王も俺たちを貶したあの王を許しはしない。死んだほうがましだと言う目には遭わせてくれるだろう】
そう……なら、いいけど。
【案ずるな、自身の眷属神を信じよ】
眷属神……?監督してくれるってことなのかな……?その時。どこか懐かしい風が知己の魂の気配を運んでくる。
「お帰り、アルベロさま。そして肉体を持った姿は初めましてだね。ティルさま……でいいのかな?」
いきなり、フランク!?でも見上げたその顔は、強烈な記憶の反動をもたらす……!
【大丈夫か?】
うん、何とか。彼も……眷属神だよね。
【そうそう、神話の古代神がひとり。そして魔王】
「は……っ!?魔王!?」
しまった、つい声に!?しかし、目の前の魔王はへにゃりと笑む。
「中のアルベロさまからの情報提供かな?いかにも、俺が魔王・シルヴァン。そしてあなたさまの、従順なるしもべ」
ひぁ――――っ!?しれっと跪いて俺の手を取るな~~っ!?どこの王子さまぁっ!?王だけど……!!確かに外見は……少し幼さの残る顔立ちだが、イケメンだ。白銀の髪に赤い瞳。黒い魔族角に、白銀の鱗の竜のような尾が伸びている。
俺の視線に気が付いたのか、シルヴァンが続けてくれる。
「ぼくは魔竜種。竜の翼も出るよ」
マジかよ!?そして竜系の種族、魔族側にいたんだ……!か、カッコいい……。
【お前それ、ほかの眷属神の前で言うなよ……?確実に喧嘩に発展する】
何でだよ……っ!?
【はぁ……無自覚って恐いねぇ】
どういう意味ぃっ!?
「それからアベルと、お客人も連れてこられたようで……」
と、シルヴァンが母さんとシャーナに目を向けた……その時。
「あなたは……っ!この竜の血の高ぶり……あなたこそが俺の番……っ!」
「え……?私……?」
シルヴァンは、俺の目の前から一瞬で移動し、母さんの手を両手で包んでいる……っ!?
ええぇぇぇっ!?何この展開いいぃっ!?
「ちょ、シルヴァン!?俺の母さんなんだけど!?」
「ティルさまの……お母君……何と言う運命……是非俺と結婚して欲しい」
さらに乗り気になったぁ――――っ!?
「てか、何これ一目惚れぇっ!?」
俺の叫びに、アベルが説明してくれる。
「魔竜と言うのは、運命の番と言う本能があるので、運命の番を見付けると離れられなくなるほど燃え上がるのです。シルヴァンは古代神ですが、半身は魔竜なので例外なく反応したようです」
何いいいぃぃっ!?
そして母さんまで頬を赤らめて……っ。
「でも……その……ティルちゃんは、新しいパパに……どうかしら……?」
母さん――――っ!?
「いや、その前に、シルヴァンってまだ16歳くらいの見た目では!?」
「俺は童顔と呼ばれるが、古代から生き続けているがゆえ、既に1000歳を超えている」
ものっそい年上……っ!?
【精神体面で言えば、俺の方が年上だ】
そりゃぁアルベロはそうだね!?
「そして俺と番えば俺と共に永遠を生きることとなる」
そんなことできるの!?
【神だからな】
神何でもありすぎる!?
「そう……ね。私はティルちゃんたちの成長を見守れるのなら……」
母さんも案外乗り気!?
「シャーナさまもティルさまの伴侶となれば共に長い時を生きます。途中で離縁すれば止めた年齢から、寿命まで生きますが……魔族は寿命が長いので」
アベルの言う通り魔族は寿命が長いのだ。エルフ族も長命だがな。寿命は大体300~400歳。
まぁ、大体成人年齢と言われる18~20歳くらいまではどの種族もヒト族と同じような速度で成長して、その後青年期が長めの緩やかな成長になるわけだ。
いくら強い種族でも早く己の身を守れるようにならないと大変だし、赤ちゃん10年以上とかだったらお母さんもお父さんも子守り大変じゃん?そこら辺は身を守る術の確立と、両親の負担を鑑みた世界設計になっているらしい。
もちろん混血であっても成人するまでは同様だ。
「でも私は半分はヒト族だから、通常の寿命よりも短い……だけど……ティルと生きてみたいとは思う」
「シャーナ……でも、会ったばかりなのに、いいの……か?」
「私も……その、一目惚れと、言うやつだ」
はいぃっ!?
「俺、普通の顔だけども」
一目惚れされるほどのイケメンではないし。
「好みは好みだ……!よかろう……!」
割りとぐいぐい来る子だな!?いや、いいけど……!
「ティルさまは最高です!」
アベルまで何を……っ。
「もちろん。ティルさまは俺たちにとって至高の存在」
イケメンに言われてもぉ――――……。
「……そうだ、パパって呼んでもいいよ?」
何言ってんの!シルヴァン!?
【【オイ、コラ。シルヴァン。俺たちの創造主は創世神だ。だからパパは創世神だけだ……!】】
いや、どーっでもいいことを俺の中から念話で発するな~~っ!
【どうでもよくねぇわ!大事なところだよ!!】
「申し訳ありません、アルベロさま、ティルさま。出すぎたまねを」
しかしシルヴァンが即座に頭を下げてくる。
「ですが……お母さんはお嫁さんにください!!」
「やだ……っ、んもぅ……っ」
しれっとそこぶつけてきたぁっ!?譲る気は早々ないと見える!そして母さんも嬉しそうに……。
「母さんがいいなら……いいよ……?」
そして母さんまで再婚することになった。




