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【6】地底種



アベルが捕まえた女の子は地底種だ。そしてアベルの巨手の中で踠く。


「は、離してくれ!私は逃げなくちゃいけないんだ……!」

「逃げるとはどこへ?この一帯、地底種が取り囲んでいるようですが。あとスキルや魔法でもなければ地底種は飛べません」

そうなのか。確かに探索マップ上は……見事に取り囲まれているな。

そして俺が飛べるのもまさしく飛行スキルのお陰である。


「それは……っ」

女の子が俯いたその時、草を掻き分ける音が響き、俺たちの周りに地底種たちがが姿を現した。


「貴様は魔鋼種……それから、エルフ族……?それとも混血か」

地底種の中のリーダー格が声を上げる。俺の場合は……どっちも合ってる。エルフ族と地底種どちらの血も引いているからな。


「悪いが、我らの姫さまを返していただこうか」

「返せだなんて……私は自分でここを出ていくと決めたたんだ!」

つまりは……家出姫さま!?


「なりません!」

「私が決めたことだ!」


「王はそれを許しません」

つまり、彼女の父親……。


「それは……っ」

彼女がふるふると震えている。どうしてか……それが胸を討つ。


【また魂を見ているな】

え……?


【【まぁいい、ちょうど王には挨拶をするところだ。ついでにこの姫を連れて行くとしよう】】

アルベロ……?


《承知しました、アルベロさま》

俺の中にアベルの声が響いてくる。


「聞いているのか、この魔鋼種め!」

リーダー格が叫んだ瞬間、アベルが腕を全て展開し、剣の切っ先を地底種たちに向ける。


「我はデラフィト・ファヌアルスさまの眷属神が1柱、アベル。この我を前に随分な言いようだな」

アベルの纏う雰囲気がまるで変わった……?アベルの声がまるで重金属のように重たくのし掛かるような……。


「あぐ……っ」

「ひぃ……っ」

――――と、思えば周りの地底種たちが一斉に地面に倒れ伏してるっ!?


【重力操作だな】

そんなことまでできんの!?

【やりてぇんなら付けてやろうか?重力操作】

またそんな簡単に……。

【簡単だが?】

そうだった。


「た……助け……」

目の前の地底種が呻く。


「アベル。彼らも仕事なんだから」

「……分かりました」

アベルが圧を解けば、地にひれ伏した地底種たちが呼吸を楽にする。

そして女の子はぱちくりとアベルを見ている。


「ほ……本当に……あの、アベルさま……っ!?」

やはり古代神なのか、アルベロの眷属神なのか、魔族たちはアベルのことをよく知っているらしい。


「疑うのなら貴様も地にひれ伏すか」

「いや、やめなさい、アベル」

本気で彼女に手を伸ばしたアベルを即座に止めた。


そして地底種たちの案内に添い、地底種の地下都市へと足を踏み入れる。


中は窓がないだけでまるでお城のように広々としており、白地に金や銀の紋様の壁や天井が広がっている。


さらには緑まである。日の光がないのにどうやって育つんだ……?


【魔鋼石ライトだよ。そこら中を照している】

あの蛍光灯みたいなやつか……。ハイテクだな。いや、魔族って大概ハイテク魔法派なのかも。


【はっはっはっ!違わねぇな】

アルベロは俺の中で愉快そうに笑うが、反面不安げに歩く姫さまが気になる。


【任せておけよ。策なら考えてある】

策……?まぁアルベロが言うなら信じるけど。

【うむっ!】


「こちらが王の間でございます」

地底種たちに案内された先で荘厳な扉が開かれる。そっか……そもそもここは王の城だったな。


しかし開かれた扉の先であり得ない人物を見た。いや……偶然……?他人の空似……?しかしどうしてか、胸元の魔鋼石が熱を帯びているような……。


アベルと共にゆっくりと玉座の間に足を踏み入れ、王の座する玉座の手前にたどり着く。そして王の隣に立つ女性を見る。


俺と同じく黒髪、エメラルドグリーンの瞳をしている。顔つきは俺とは違い絶世の美女だ。耳はエルフ族のような長さだが、地底種とエルフ族が合わさっている。


その女性は俺と目が合うと、そっと目を背ける。俺の疑問の答えを象徴しているように……。しかし何故母さんが王の隣にいるんだ。そして王の鋭い瞳が俺たちを捉える。


「ようこそ、アベル殿」

王がアベルを見据え、不穏な笑みを浮かべる。しかし……ほかの地底種たちは【さま】を付けていたのに【殿】……?王だからか……?


【まさか】

俺の中でアルベロが嗤う。その意味をアベルも気付いているのか、眉間の皺が深くなる。

【神に対する不敬に他ならない】

だよな?神より偉い王なんて何者だって話だ。

【神である王もいるがな】

へ……?

どんな王かと聞こうと思えば、再び王が口を開く。


「しかしどうやら、部下の教育がなっていないようだ」

は……?部下……?


「私は王である。誇り高き地底種の血に卑しき人類の血を混ぜた混血が、頭が高い」

は……?それってまさか……俺のこと!?


「地底種の王たる私の力を見せつけてやろうか」


王が立ち上がり、そして俺に掌を向けようとした時……!


「やめて……っ!」

母さんが慌てて取り押さえようとするが、王はそれを容赦なくはね除け母さんを突き飛ばす……!


「きゃ……っ」

「母さん!?」

俺のその言葉に王がほくそ笑む。


「やはりお前の母親とお前が混ぜた卑しき奴婢か」

ぬひ……って何……?

【召し使い、奴隷、人権ないヒト族、そんな意味だ】

んな……っ、ひっど……っ!?


「貴様同様、たっぷりと仕置きをくれてやる……!」

「やめて……っ!」

母さんご抵抗しようとするが、王は構わず俺に手を向ける。


「や、やめてくれ!王……!」

その時姫さまが口を開く。


「誰に向かって口を利いている……!」

「ひ……っ!?」

「姫さま!?」

姫さまに向かって魔力波が放たれる……っ!?そう思った瞬間、アベルの剣が魔力ごと一刀両断する……!すご……っ、その剣……!そう言えばアベル今まで何で黙っているんだ?


「アベル殿……っ!これは我が地底種の問題だ!手を出さないでいただこう!」

「……さまに……」


「は……?」

アベルは今、何て……?


「ティルさまに……卑しい、奴婢、仕置きを与える……?」


「はぁ……?ティルと言うのか、その小僧は……!そうだ。地底種の王として、その生意気な小僧に制裁を加えてやろう……!」


「貴様ごときがティルさまの名を呼ぶな……っ!!」

アベルが顔を上げ、怒気をあらわにした瞬間……。


「がはぁ……っ」

俺たちに傲岸不遜な態度を取っていた王が……吹っ飛んだ。

アベルの巨大な拳を撃ち込まれたのだ。それも、拳4つ分の上に……6つの剣で容赦のない串刺しいいぃぃっ!?ちょ……あれ、さすがに死ぬんじゃぁっ!?

【仮にも王を名乗る地底種。そんな簡単には死なんが、あれは殺す気】

「ちょぉっ、それなら止めなきゃ……っ」

【何故?あれは俺たちをばかにしやがったカスだぞ?】

「それでもまだ、聞きたいことはたくさんある!」

姫さまのこと、そして母さんのこと。


【仕方ねぇなぁ。そんじゃ、俺と交代な】

そう言った瞬間、身体の主導権が入れ替わり、アルベロの姿が現れる。


「誰……?」

姫さまが不思議そうに俺……いや、アルベロを見る。


「気が付いているとは……これも魂の導きか」

アルベロの言っている意味は分からないが……しかし今はアベルである……!素早くアベルの傍らに移動したアルベロは、そっとアベルの肩に手を……。


パシィンッ


――――と、思ったら違ったぁ――――っ!?思いっきりアベルの頭叩いたよ~~っ!?


「こら、アベル。そこまでだ。殺すな」

「ですが、アルベロさま……っ」

そして怒りの形相からうってかわるようなアベルのそのうるうる顔、何ぃ~~っ!?いや、確かに仔犬みたいでかわいいけど本性は俺たちを悪く言われてぶちギレる狂犬なのもう知ってるぅっ!


「さぁて、王、そして諸君らよ」

かろうじてこちらを睨む王は……神に本気で殺される危機でもやはり多少は丈夫にできているようだ。そして王はアルベロの姿に驚愕する。


「我はデラフィト・ファヌアルス。我に対し、随分な言いようだったな。実に面白かったぞ……?」

そのアルベロの言葉に周囲の空気が凍り付く。


「我はこの身体の母なる女性を目の前で痛め付けられ、貴様らにとても怒っている。この場でアベルに殲滅させてもいい」

「ハァ……ハァハァ……アルベロさま……どれからやります……?」

ちょ……アベルううぅぅっ!?キャラ変わってない!?何か嬉々としてアルベロの腕にすがり付いてない!?アルベロも悠長に頭なでなでして……っ!やらせたらダメだからな!?


「わぁってるって、ティル」

アルベロが嗤う。


「【魔王】にはよく伝えておく。覚悟しておけそして……二度目はない」

その言葉に、王の顔が真っ青に染まる。やっぱり魔族がいるんだもの。魔王もいるよな……?


「たとえティルが止めても、息の根を止める」

ひぃーっ!?ちょ、えげつないこと言ってない!?


「ならばティルよ。コイツの魂をちぃと覗いてみよ。ちょっとキツいがな」

キツい……?その時、脳内に何かが入ってくる。これは……王の、記憶……?


姫さまによく似たヒト族の女性に無理矢理迫る様子。姫さまを庇った母さんに手を上げ、嫌がる母さんにまで……っ。

まるで吐き気がしそうな……っ。そして心の底から魂の底から沸き立つような……この憎悪は何だ……?


「だが、ティルの精神を崩壊させたくはない。だからこのくらいにしといてやる。何を……と言う顔だな?決まっているだろう。仕置きだ」

アルベロに守られている気がした。優しく抱き締められて、頭を撫でられているような感覚を覚える。

そして気が付いた時には……王が白目を剥いて気絶していた。


何……したの……?


「二度と女に手を上げられない下半身にしてやったまでよ」

ひ……っ。途端に股間に手を伸ばしたい気分に苛まれた。


「さて、ティルの母君よ。そなたも俺と共に来るがいい」

そして母さんの手を取って見つめ合って何してんの……!!

「その……ティルちゃん……の、身体だけど、あなたは……デラフィト・ファヌアルスさま?」

「ティルは俺の半身と言ったところだ。アルベロでいい」

「あら……っ、じゃあ、アルちゃんも私の息子ね。よろしくねぇ」

母さん――――っ!?相手魔界の主神なのにそれでいいのぉっ!?


「素晴らしいお母君だ」

母さんんんっ!


「それと、そこの姫よ、名は?」

「えと……シャーナ……です」


「そうかそうか、ではシャーナ、そなたも来るといい」

「えっ!?その、デラフィト・ファヌアルスさまと……っ!?」

「アルベロでいい。それともちろん俺と来い。そなたは……この身体の持ち主、ティルの花嫁になるのだからな……!これが、策だ……!」

何つー策じゃそらぁ――――っ!!?





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