【3】脅威の古代魔法
紡がれるのはどこか懐かしいその詩だ。
【創世神はまず自らを象徴する空を創った。
そして次に生物が息づくための地上を創った。
さらに生物たちに必要な糧を恵む海を創った。
そこから生命がほとばしり始めた。
海は川となり、湖となり、生命の活動に必要な糧を届ける。
やがて生命は陸上に上がり、肉体を持ち暮らし始めた。
そこからヒト族、エルフ族、獣人族、地底族と、数多くの種族に分かれて繁栄を迎える……はずだった】
「ヒト族に伝わる神話では地底族なんてのはないし、数多くの種族なんてのもないな」
今は再び身体の主導権が戻ってきている。身体の傷も全て治ってるのは、アルベロの神の力が満ちた時に自動修復されたためらしい。
身体の動きを確かめていれば、アルベロがそんな神話を呟いて来たのだ。
【それらが今は魔族と呼ばれる俺の信徒たちだ】
「人類が人類のくくりから追い出したんだ。でもどうして?」
【地球にだって似た考えがあるだろ?自分たちと違うから、自分たちとは異なる大きな力を持つから、自分たちよりも豊かだから……簒奪したんだよ】
「最低だな」
【ふん……そんな奴らばかりではないが、そう言う奴らもいる】
「だからアルベロも」
魔界の神になったのか……?
【主に信仰されるのがそちらだってこと。俺は今でもこの世界の大地の神だ】
それなのに……ヒト族の神話では地の神デラフィト・ファヌアルスが語られることもない。
【別に俺を呼ぶ信徒たちは魔界にいるのだからいい】
割り切ってるなぁ。そう言うところは俺もだから分かるけど。
【――――んで、お前はファヌアに行くんじゃなかったのか、ティル】
アルベロからは、どうしてか【ティル】の愛称が定着している。まぁ、母さんも呼んでたし、アルベロだからいいけど。
「行くよ……?でもその前に、母さんにもらったペンダント、取り戻したい。できるかな……?」
【余裕余裕。俺がサポートしてやる】
それなら安心か。
【だが……あれを横取りしようとするとは……クックックッ】
「何か知ってるのか?」
【見た方が早い】
そ……そう?
道中はアルベロから魔法の指南をしてもらいながら、俺は再び屋敷に戻ってきた。
「貴様!のこのこと戻ってくるとはどういうつもりだ……!」
まぁ、そうなるよな。俺の姿を認めるなり、門番たちが槍を向けてくる。
「アルベロ、できれば殺したくないのだが」
【んぁ……?仕方がねぇな。んじゃぁほれ、手出して。このイメージ】
あの、アルベロさんや、少々指示が抽象的すぎやしませんかね?元々はひとつだったから分かるには分かるんだけど。
「はい」
アルベロの言う通りに手を差し出し、そしてイメージ通りの文字列を浮かべる。
完全には思い出せないが、懐かしい文字だ。
【これは古代語だな。今から放つのは古代語で詠唱する魔法だ。エルフ族を除く人類は忘れ去ってしまったが、魔族たちはよく使う】
へぇ……何か凄そう。俺、詠唱してないけど。
【無詠唱ってやつだ】
あ、なるほど。でもイメージは古代語なんだ。
でも……今度からはせめて事前に現代語訳だけは聞いておこうと思った。
だって……。
ゴオオオオオオォォォォォォンンンンッ!!!
ものすごい突風と共に、門から屋敷もろとも吹っ飛んだぁぁぁぁっ!?
門番たちは……気絶してる。
「生きてる……よな?」
【死なない程度に脳に衝撃波を入れた。ほかの奴らも】
チートすぎないかそれ!てか恐すぎる!何その恐怖魔法!!
【ふむ……これは人類が肉体を持ったがゆえに生まれた弱点だな……!】
嫌な弱点抱えたな。俺も気を付けないと。
【何言ってんの。この俺がいるんだから、んなことさせるわけないじゃん?】
「まさか……ものっそいチート!?」
【チートじゃねぇよ。お前は俺自身なんだから、正当な力だ】
「そりゃまぁ……そうかも」
てか、とっととペンダントを回収しなきゃ。まさか一緒に壊れたりは……。
【するわけねぇじゃん。あれ、アダマンタイトやダマスカス鋼よりも硬ぇ魔鋼だぞ?】
何か想定するよりも意外な名前が出てきたんだけど……まぁ、大丈夫なら。
【ほら、手、出してみ】
アルベロの言う通り掌を広げれば、そこに半透明なモニターが出る。
「これは……?」
【魔族が使うツール。人類は……境界以外は知らねんじゃね?】
魔族がチートすぎる……!
【自分たちが足を付けてる大地の神をしっかりと崇めている正当報酬だろう……?土足で踏み荒らしといて崇めないやつらが悪い】
確かにそうだけどぉっ!
【ほらほら、いいから。これが探索マップ。現在地がここ、ペンダントの位置がここ】
「わぁ、便利」
色々と崩壊はしてるけど、マップがあれば便利だし進もう。因みに瓦礫は近付くと霧散した。アルベロ特典かよ、優秀だな……っ!?
そして辿り着いてみれば。
「き……貴様……何故」
生物上の父親がいた。
【あー……確かに生物上はだな?でもお前の生命上のパパは創世神だ。何せ俺を産み出したのは創世神だからな】
いや……それいいのか?不敬にならない?
【むしろ思ってやらないとパパ寂しくて泣いちゃうぞ?何せ女神がクズだからな】
何か創世神も大変だな……。
【分かったなら、お前のパパは創世神だと思っておけ】
そうしようかな……前世の父親もろくな父親じゃなかった。いっそその方が救われる。
【はっはっはっ!】
そんなわけで……このひとは確か役職的には公爵だ。かなり偉いが、今や俺からペンダントを奪い取って追い出したただの泥棒である。
そして横で苦しみ呻いているのは正妻。公爵夫人だな。しかし何故……?
【あのペンダントは地底種お手製。その持ち主が認めた以外の者が身に付ければ、ああなる】
なるほど。泥棒にはいい罰である。
「それ、返してください」
俺と母さんのなんで。
手を伸ばせば、ペンダントが正妻の首から俺の手にサッと転移する。
「便利だな」
これが返ってくればもうここに用はない……が。正妻はまだ苦しんでいる。しかも首もとには紫色の禍々しい痕が……。
「あの、こう言うのって外したらあぁいう痕って消えない?」
【そんな都合よく消えるはずねぇじゃん?】
まぁ……そうか……?
【ま、大地の神の神殿で自ら毎日祈りを捧げるなら考えてやってもイイケドッ】
「因みにそれはどこに?」
【魔界と……あとは境界かな】
わぁ、鬼畜。そして正妻がやるわけない。
まぁ力を貸してやる義理もないけど。
【そう言うこった】
クスクスと嗤うアルベロ。
一方で。
「何をひとりでぶつぶつと……っ、今のは!?お前はジョブなしスキルなしの能無しのはずだろうっ!?」
「それなら俺の神さまにもらったので」
【まぁ俺のでもあるがな?】
しれっと主張してくるな……?いいけど。ペンダントを首にかけ、今までの魔法のようにイメージをすれば、翼もないのに俺の身体が浮き上がる。
「こんな感じで。それじゃぁ今まで……クソみたいに扱ってくれてありがとう。これはせめてものお礼です」
敷地内の崩壊なんかじゃ足りないけど。呆然とする公爵をよそに飛翔し、宙を駆ける。
もう公爵家の敷地など大分小さくなった。こんなにも簡単に出られるだなんてな。
「なぁ、どっちに行けばいい?アルベロ」
【さぁ……知らん】
「はいいぃっ!?母なる大地どうしたぁっ!?」
【何、母って。俺ぁ男だ】
「それは知ってるけどおぉぉっ」
つか、こちらの世界だと母なる大地じゃなくてお兄さんなる大地だったんだけど。
「場所分からないの?」
【人類の土地なんてあんま来ねぇんだもん。でも、眷属神のひとはしらに迎えに来るように行ったから合流すればいい。眷属神の居場所なら分かるから……そこ向かって行くぞ。あちらだ】
また空間モニターが開くので、ナビに沿って向かうこととした。




