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【2】頼れる半身



前世での記憶。

地球と言う別の世界で生まれ育った記憶だ。


俺の実家は裕福で俺は正妻の長男であったが、父は当然のように愛人を作り生まれたのが麗人であった。


愛人が亡くなり、麗人はうちに引き取られたが当然のように麗人にとっては針の筵。だが麗人に罪はない。

だからこそ使用人たちが麗人を虐めたら叱ったりもしたし、麗人が飯を抜かれれば俺が作ってやったりもしたけど……。


「だから兄さん……!また一緒に暮らそう……?」

「……いや、やめとく」


「……は?何で……?ぼくは勇者になったんだよ?地位も名誉も、それからお金だって思うがまま……っ」

「思うがままなら、どうしてさっき俺が母さんからもらったペンダントを奪われるのを黙って見ていたんだ……?」

お前はもう、勇者だろう。

「……」

麗人は答えない。

こいつが前世の異母弟のままならばその理由が分かった。


――――母さんは俺が守らないと。


「ごめん、今の俺はお前を弟だとは思っていないよ」

今生で兄弟だったことなどない。前世では兄弟だっただろうがな。


「ど、どうして……!だって兄さんは和人兄さんのはずでしょう!?」

「俺は……俺はティルダ・フェヌアだ」


「そんなの兄さんらしくない……!」

まぁ確かに女名前ではあるが。お前はまた俺自身を否定するのか。やっぱりコイツとはいられないな。


「そんなのは知らない」

母さんが付けてくれた名。苗字は母さんが生まれ育った境界の土地の名。

それが俺を構成する全てだ。それを否定されたら俺は俺ではなくなる。


「さよならです、勇者さま。お元気で」

踵を返し立ち去ろうとするが、レナードがその手首をガシッと掴む。


「い……行かないで……っ!」

「俺にはここにいる理由はありません。お放しください」


「兄さん!何でそんな話し方するの!?和人兄さんなのに」

「だから俺は……」

今は和人じゃなくてティルダで……。


「そんなの認めない!」

レナードが俺の手首に力を込める。


「い゛……っ」

「地を這わせてでも連れていく!ぼくのものにするんだ……!」

はぁ……っ!?前世では俺の前でだけはイイコちゃんだったが……今生では隠しもしない。いや……前世は俺がコイツの目の前でコイツのストーカーに刺されて死んだから……?

今生ではなりふり構わなくなってる……っ!?


――――何でそこまで俺に固執するんだよ……!


「最初からこうすれば良かったんだ……今のぼくは最強だ……勇者であり、魔力無限供給、ブースト、魔力反射。スキルを3つも与えられ、女神から特別な加護を賜ったぼくは身体能力も腕力だって桁違いだ……!」

「あう……っ、あぁ……っ」

レナードは強引に俺を引っ張り、俺が地を引きずられようとも構わず進もうとする。

コイツは本当に……自分が満足することしか考えていない。俺のことだってコレクションだとしか思っていないのだ。


「無能な兄さんには……逆らうことすら不可能だ……女神もたまには役に立つ」

まさかとは思うが……コイツ、女神にそうするように唆したのか……?

女神もコイツの前世の親派と同じようにコイツに心を奪われている?そしていいように使われた。そしてコイツは女神すらも使ったとしたら。


――――何のために。


俺を使うために。


「うぐ……っ」

身体にゴツゴツとした石が当たり、頬が切れて血が滲むのが分かる。再び地面に打ち付けられても、レナードは止まることはない。


「いた……っ」

土が傷に入り、痛みを誘発する。


【……しい】


今、声がした……?


【いつ……に、還……った……?】


還った……?


女神……なわけないよな……?

声は男のものだ。


【一緒にするな】


今度は低い声でハッキリと聴こえた。

えと……ごめんなさ……っ。


【その手首のは、不快だ】

手首の……?


俺の手首を掴んでいるレナードか……?


【そう言う名前か。興味はねぇけど……】

……?


【放せ……っ!】

声が怒気を帯びた瞬間、不快な手首の圧が外れる。


「わあぁぁぁぁぁ――――っ!!?」

そしてすぐ側でレナードが悲鳴を上げて地面に転がり回る。


【まるで俺の腹の上で転がり回られているみたいだ、気持ち(わり)ぃ】

何故そんな感覚を……。


【まだこちらのことは思い出さないか?】

こちらって……地球の記憶しか……。


……。


いや、何だ……?今何か、浮かんだかも……?それは、地球の記憶ではない。


まだ、ヒトであった頃の記憶……?


【半分だけだ】

じゃぁ、後の半分は。


上半身を起こし、地に掌を当てる。あぁ……これか。


【……】

謎の声は正解と言わんばかりに微笑む。だから俺の血が地面に吸い込まれ、俺の中にその一部が触れたことで、目覚めたんだ。


【久方ぶりの肉体だ】

何をするつもりだ……?


【任せておけよ。今のままじゃあの勇者からは逃れられねぇぞ?】

あなたなら逃げられるのか?


【そんな他人行儀な呼び方をするな】

あぁ……そうだ。レナードは血は半分繋がっていても、他人に近い。けど、あなたは……違う。


分かる気がする。


「デラフィト・ファヌアルス」

魔法の呪文かな……?

【違うわっ!】

いや、でも長……っ。


【その昔、神の名を直接呼ぶことを畏れたものたちは俺の名を別の言葉で呼んだ】


「アルベロ」

【……とな。何だ、少しずつ思い出してきたか……?】

いや……ほんと断片的にだ。


【それでいい。じゃなきゃ鈍器で撲殺とか、馬車で突っ込んでぶっ飛ばさなきゃならん。そのくらいの衝撃が必要なんだ】

何その鬼畜異世界転生。もっと普通に思い出させて。


【なら少しずつでいい。ほら、早く俺に任せな?復活したぞ?】

アルベロの言葉にハッとして顔を上げれば、レナードがヨロヨロと立ち上がっている。


「そんな……バカな……ぼくには魔法は効かない、物理攻撃もブーストの身体強化で効かないはずなのに……スキルもない、魔力も一切ない兄さんが……どうして」


「教えてやろうか……?」

もうひとりの俺が言葉を紡いだ瞬間、レナードが驚愕に満ちた表情を浮かべる。何となく知ってる。俺の身体の主導権を握れば、髪はアルベロと同じはずだから変わらないはずだ。


――――けど。


「どうして、目が赤く……!?それに……角……っ!?」

そうだな。赤い瞳に頭から黒く歪んだ2本の角が生え、頬には紋様が現れているはずだ。それは確か……地底種のもののはずだ。


「正解だ」

アルベロが俺の口で答えるものだから、レナードが訳が分からないと言う表情を浮かべる。


「そうだな……俺たちを分かったように語らんことだ」

アルベロがニヤリとほくそ笑む。


「さっきと、そして今から。てめぇを襲うのは魔法でも物理でもねぇ……」

アルベロに主導権を渡した俺の手から、神々しい光が溢れる。あの時水晶玉から溢れたものとは違う、温かい生命の溢れる光。


「当たり前だろ?そして……」

それが突如禍々しい色に変色した……!?ちょ……アルベロっ!


(わり)ぃことしたら、まずはお仕置きだろうが……!てめぇも手ぇ抜くな!」

――――と、言われても。日本ではできることに限りがあるし、証拠もなかった。


「今なら見れるぜ……?俺の神眼がある……!」

そう言った瞬間、アルベロがそれを思いっきりレナードにぶつける。


そして俺の脳裏に浮かんだのは……。そうか、そうだよな。やっぱりお前だったのか。亜璃子(ありす)を殺したのは……。


「……泣くな。その魂ならこちらにある」

アルベロ……?それは……。


「地に足着けて生きる限り、俺に分からんことなどない」

そっか、そう言う存在だから。


「さっきから兄さんの口で何を言っている……!お前、兄さんに取り憑いているのか!?とっとと出ていけ!」

「俺のことも分からねぇやつが、コイツを兄だと呼ぶな。反吐が出る……!」

その言葉はまるで地鳴りのように地の底から沸き立つ。


そしてアルベロが禍々しいそれをレナードにぶつけた……!


「ふがぁっ!!」

レナードが容赦なく吹き飛ばされる……!


「神の力は別枠ってのがセオリーだろうが」

そのセオリー、もしかして俺の前世の記憶から引っ張り出してきた?


「まーな」

はぁ……俺はできないけど、アルベロからは自由自在なのか。


「はっはっは。そう言うことだ。何せ……神だからな」

うん。……レナード、完全に気絶してるけど。女神からたくさん加護やスキルをもらったって言うのに。


「そう言うものだ。加護やスキルだけで神と並び立つだなんて烏滸がましい」

烏滸がましい……は女神にも言われたな。


「この俺の肉体に随分なことを言ってくれた。覚えておけよ……?女神」

アルベロの笑みが黒い……気がする。


でも女神はアルベロのことに気が付いていなかったんだ……?


「人間の側面の時はあくまでも人間だ。俺たちは分かれたからこそ、人間の時に俺の力は基本出ない……が」

が……?


「俺が代わりにギフトをくれてやろう。女神がつけたジョブとスキルの【なし】はいらない。ほら、せっかくだから創世神に送ろう」

アルベロが何か見えないものを上空に放るような動きをする。【なし】とは言え、ギフトはギフトなんだな。


ん……?


創世神?


「世界で一番偉い、世界を創った神だ」

「そんなこといって女神に贔屓したりは……」


「ははは、まさか。女神のやらかしにはいつも怒ってるから、きっと今回の件もだ。スキルを過剰付与されてるやつもいるしな……?」

女神、ほかにもやらかしてんだ。


「だが俺の側はスキル数制限無し。お前は俺だから全部馴染むはずだ。だから少しずつくれてやる。何が欲しい?」

何がって……いきなり!?そして、アルベロもギフトを与えられるんだ。


「じゃなきゃ、魔族には誰がやるんだ?」

そうか……ずっと疑問に思っていたけれど、アルベロが……。でも、どうして女神は魔族には与えないの?


「あいつは【人類】に与える義務を持つ。人類から外された魔族は対象外なんだ」

まるでかつては魔族も人類だったような言い方だ。


「……そうだな」

アルベロが寂しそうに漏らす。どうして魔族は人類の輪から外れてしまったんだ。


「追い出されたんだ」

誰に……いや、人類か。


「そう言うこと」

だからアルベロがギフトを与えてきた。


「まぁある程度委託はしてるけど」

できるんだ、委託。


「眷属神にある程度はな。女神もある程度はしてると思うぞ」

じゃぁわざわざ俺に話し掛けてきたのは……。


「当て付けだな」

女神ムカつく。


「当たり前だろ?てなわけで、俺に何を望む……?」

何って……取り敢えず今は母さんに会いに行きたいから、飛べると便利かな。


「なら、お前へのギフトは風魔法の加護……いや全属性にしておくか」

はい!?


「スキルは飛翔。後からまだまだ付けられるぞ」

いやいや、その前に加護何!?


「あった方が便利だろうが」

そりゃそうだけども。

……あ、そう言えばジョブは?こっちも複数とか言わないよな?


「それはひとつだけ。そう決まってるから、さすがに俺も創世神に怒られる」

そ、そりゃそうか。

「だがジョブはもう決まってる」

俺は何になるんだ?

「決まってる。生き神。これなら地上の民にも付けられる。半分神であれば付けられるジョブだ。昔からな……?」

はい――――っ!?何かものっそいジョブ付けられたぁ――――っ!




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