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【11】古代の記憶



――――それはまだ、人類と魔族が同じ大地で暮らしていた頃の記憶。

数ある種族の中で最弱とされるヒト族はほかの種族よりも過酷な環境に追いやられていた。それでも神はそんな中でも生き抜かんとするヒト族に慈悲を与えた。


ヒト族の腹から生まれたそれは、半身が神であった。つまりは生き神である。大地の(デラフィト・)創生樹(ファヌアルス)と呼ばれた。

時にヒト族に生き抜く知恵を与え、時には必要な試練を科す。ヒト族が自ら繁栄し、進化し、厳しい土地で生き抜いていくために。


それは彼の創造主の願いでもあったから。


そんなある時、彼はとても懐かしい存在と出会う。


それは原生種と呼ばれるもの。


創世神はまず自らを象徴する空を創った。

そして次に生物が息づくための地上を創った。

さらに生物たちに必要な糧を恵む海を創った。

そこから生命がほとばしり始めた。


その時に生まれた、肉体を持たぬ生命だけの存在。しかし意思と感情を持つ精神体。それを神々は原生種と呼んだ。


やがて海は川となり、湖となり、生命の活動に必要な糧を届ける。

生命は陸上に上がり、原生種は肉体を持ち暮らし始めた。


そこからヒト族、エルフ族、獣人族、地底族と、数多くの種族に分かれて繁栄を迎えるように。


多くの原生種は肉体を持ち、数多の種族に分かれていった。

だからこそ、未だ原生種のままだと言うのは珍しい。


「お前はひとりなのか……?」

そう問えば。原生種がその意思を伝えてくる。原生種は言語を持たない。その感情を、そのまま脳に響かせてくるのだ。

そう言えば……言語を持ったのは原生種が肉体を得てからだったな。


「寂しいのなら、共にいるか……?」

生き神は孤独だった。多くのヒト族に囲われ、慕われようとも。彼は神であったから。


原生種は生き神と共に在ることを選んだ。そして創世神はその役目ゆえに孤独な我が子に同じ半人半神の妹を与えた。


生き神はヒト族を見守りながら、妹神と共に穏やかに暮らしていた。

だが、ある時。


他種族よりも確実に数を増やしつつあるヒト族に、未だ未開拓の原生の荒野の開拓をし、自らの居住を広げるようギフトを与えることとした。

ギフトは全ての種族に与えられ、レベルの概念は全ての生物に与えられた。


ただし種族の差を広げないように、それぞれの種族に応じたギフトを。その役目を与えられたのは光の女神である。


そしてさらに世界の繁栄と危機への対処のため、地上に別の世界からの勇者が召喚された。別の世界から招けば、この世界に順応するために、より強大なステータスアップが見込めるから……と言うことであった。


そしてこの世界に勇者と対になる【聖女】と言うジョブを持つ少女も現れた。

これらはヒト族やその血を引く者に与えられる専用のレアジョブとされ、聖女は地上の神である生き神に毎日祈りを捧げた。


しかしこの世界に招かれた勇者は、生きていくための魔物や獣の殺生を厭うた。


その頃の生き神には理解ができなかったが、今ならば分かる。世界が召喚する勇者と言うのは、主に戦後から現代日本人。それを時空の狭間を縫って召喚してくるのだから。

その勇者に魔物や獣の殺生を任せるのは無理があったのだ。しかし生き神は聖女に諭され、まずはこの世界の見識を広めるために勇者に学ばせた。


ヒト族たちは過酷な原生の荒野を切り開かんと戦い、生き神はその祈りに答え、必要な知恵を与える。

繁栄のために。進化のために。創造主の願いのために。


そんなある日のこと。


突如として妹の魂の悲鳴が上がったのだ。そして聖女が泣きながら生き神にすがった。


生き神が急いで駆け付ければ……。そこには半身の尊厳を傷つけられ果てた妹の姿があった。自ら望んで誰かを傷付ることをしなかった子だ。


半神としての本能か。庇護の対象であるヒト族の聖女を逃がそうとした。だが……勇者は、初代勇者はその気持ちをも踏みにじり、与えられた多大なる光の女神の加護を使い、妹をこんな姿にしたのだ。


「あぁ……生き神さま……っ」

醜悪に嗤うそれは……既にヒトの姿でもない。ただの人間が神の力を過剰に摂取し、平気でいられるはずがない。


その顔は溶け、皮膚は焼けただれ、身体からはヒトではないものになりつつある。

光の女神は何を考えている。色欲に呆け、そして道を誤った。


勇者に加担したのだろう。ヒト族を嫌煙し、自らの土地に入れなかったエルフ族や獣人族もいるのか。


だが……全て……許さない。


「お前たちを許さない……!俺の大地から出ていけ……!」

地に足をつけねば生きられないものたちが、大地から追放されたのならどうなるのか。


それを知らないわけではない。


「何故……ナゼ……あなたをぼくのものに……デキるはズ……だったのに……っ」

何を……言っている……?


「ふざけるな……っ!」

何故そうならねばならない。

俺はいつだって……創世神の御使い。俺をどうこうできるのは世界でたったひと柱の創世神だけだ。


「出ていけ……っ!」

怒りに満ちたその言葉と共に、ヒト族の生き神の姿は捨てた。その姿はまるで地底族のようであったが、そもそも神の側面はこちらである。地底族は大地の神に似通った姿を持つ、世界で最も強い種族であった。


その姿に、勇者が連れてきたクズどもが驚愕しながらその存在を肉体ごと消失される。

その肉体はどこへいくのか。

地に足をつけねば生きられない生き物がその大地を失ったのなら、逝く末は、地底よりもさらに底。

地底族たちが守る冥界の門のさらにその向こう。


そして冥界から伸びる巨腕が勇者の成れの果てを掴もうとした時、光の女神の力が降り注ぎ、勇者を元の姿に再構成したのだ。


「は……?」


《勇者さまはわたくしが助ける》

そして勇者は光の女神の言葉でその場から……離脱したっ!?


「てめぇ、光の女神……!」

すぐに女神を地に引きずり落とそうとしたが、創世神の意思がそれを諦めさせるしかなかった。


「それで許されるのか……!?あれのやったことが……っ!」


もう一度だけ……チャンスを与えるだと……!?

別の世界から招かれただなどと、構うものか……っ!あれは許されないことをした……っ!


しかし慟哭は虚しく天空へと溶けるだけだった……。だが、震えながら寄り添う精神体に気が付いた生き神は優しく手繰り寄せる。


一同神の側面を持ったその原生種はもう、ただの原生種ではない。


生き神はそれを自らの眷属神とし、そしてその凄惨な記憶を硬く封じたのだ。




――――大地の神は聖女の魂と共にヒト族の元を去り、ヒト族の姿に戻ることはなく、地底深くの門に姿を消した。


その後生き神を失い、希望をなくしたヒト族は、原生の荒野の開拓を諦めた。


しかし勇者には手を貸したエルフ族も獣人族も勇者がいなくなり、聖女もいなくなったことで手のひらを返しヒト族を自らの住み処には入れなかった。


――――そんな中余裕のあった地底族や魔竜族たちはヒト族を受け入れた。


だがヒト族たちは生き延びていた勇者の唆しに乗りエルフ族と獣人族を使い、地底族たちを魔族と呼んだ。卑怯にも人質を取りその土地を奪い取り、魔族たちを後の魔界と呼ばれる原生の荒野に追いやったのだ。


「生き神……!地底族を殺せば今度こそアンタを……っ」


眷属たちにまで手を出すだなんて……どこまでもクズだろうが……っ!


「生かしておく価値もない!」

俺の声に答えた冥界の神が再び地の底より巨腕を伸ばし、勇者を地の底に引きずり込もうとする。


「い……イヤだ……っ!いやダ……っ、地獄はイヤだあぁぁあ――――――っ!!」

勇者が抵抗する。地獄とは、何だ……?お前が堕ちるのは……冥界だ。


しかし勇者の身体が引きずり込まれたその瞬間、魂が抜き取られ、はるか天空へと消え行く。


「光の女神……っ!」

冥界神の仕事を邪魔する意味を分かっているのか……っ!


だが同時に創世神の意思も伝わってくる。光の女神のやり過ぎた所業については反省させるが、もとはこちらで勝手に元の世界から切り離した存在。


魂をまっさらにして、その魂だけは元の世界に返すと。



生き神は再び慟哭した。怒りに身を任せ地上を蹂躙した。


自らの身体に杭を打ち立て、ひび割れながら、火を噴いた。


地上を焼き、海の女神が涙を流す中、古代神と呼ばれた眷属神たちは主の慟哭のままに暴れた。


「ヒト族など全て……滅びてしまえばいい……!」


「もう……やめて……!」


地の神を抱き締め、止めたのは……。


飽きただなんて、アルベロったら……。


創生樹(アルベロ)を呼ぶのは、聖女と、聖女の身体に宿り言葉を借りた……



――――アリスだったんだな。



そして地の神は鎮まった。自らの眷属たちが逃れた魔界の大地に眠りについた。


その眷属たちが生き行くために、竜神は魔界を善く治め、繁栄させた。

竜神は花神たち眷属と共に人類のくくりから外れてしまった魔族たちにギフトを授けた。


再び目を覚ますであろう地の神と共に。


《絶望してしまったのか》


そう問いかけるのは誰かなんて、分かってる。


《ならば、見てくるか。あの勇者の故国だが、あそこには人間の存在する世界。ヒト族は愚かな進化の道を進んでしまったが、大切な我が子には変わりはしない。私はそれでも……我が子たちを信じている》


創世神……。


《少しお眠り。この世界の大地そのものである神の部分は連れていくことができない。だが、半身のヒト族の部分なら》


そうして、俺たちは2つに分かれたのだ。


《あちらでも寂しくないように多少は魂を循環させよう》

それで……アリスが……あちらに。それに、ほかにも。


2()人とも、俺のせいで……。アリスは殺されそうになり、もうひとりは死んだ。葬儀の金は出してもらえた。でも……俺は最後のお別れすら言えなかったんだ……っ。


「あの勇者が、魂をまっさらにされてもなお、クズだったと言うだけだ」


アルベロは納得しているのか……?


「今の俺は、神としての側面でしかない。人間らしい感情なんてのは、お前の領域だ」

……あぁ、だから。


アルベロは代わってくれたのか。


「だが、お前の感情も伝わってくる。そうしなけりゃ俺には分からない。でも……神は時に無慈悲だ」

慈悲は、俺の方。


「今度は跡形もなく、間違いなく冥界に引きずり込む」

本当に、アルベロは最強だな……?だって、冥界まで……。


「あそこは地の底の、さらに底。広義的に言えば俺の一部だが、管理を冥界神に任せているだけだ」

そうか……。あそこへ堕ちるのなら……少しはましになるのだろうか……?


「さぁな……?死後の裁判次第だ」

つまりそれを受けずにチートして元の世界に戻ったのか。魂を真白にして。

それでもダメだった。


「なら、何度でも。魂の消滅が下る時まで」

容赦ないな。

「それが俺の役目だ。それに……お前は少し休んでろ。身体は俺が運んでおいてやる」

……うん。

古代の記憶は辛く、苦しく、ヒトの感情があるからこそ、激しく慟哭せざるを得ない。


俺はアルベロの地の底に沈み込むように……意識を手放した。


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