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3章ー17:紺鱗の追放者

 パレードに乱入してきた紺色の地竜ドレイク、ギレスは、なんと僕の兄だった。


 そう言われてみれば、顔がどことなくルータスに似てる気がする。


 紺色の身体も恐らく父からの遺伝だろう・・・。


 あれ?


 でもちょっと待って。


 ギレスが兄なら、跡目を継ぐのは彼のはず・・・。


 どうして僕が嫡男扱いされるんだ?


「可愛い弟?そんなこと微塵も思ってないくせによく言うわ。とっくに野垂れ死んだとばかり思っておったが・・・どこで嗅ぎ付けた?」


 険しい表情を崩さず問いただすルータスに、ギレスはヘラヘラしながら答える。


「オリワ領がミーノ領との同盟を担保するために差し出した子が、向こうの殿様に気に入られて旗本に成り上がったと聞きましてね?どんなヤツか拝みに来てみれば・・・」


 ふざけた態度の裏に敵意を感じた僕は、とっさに身構える。


 コイツ・・・目が全然笑ってねぇ・・・!!


「鱗の色は母上譲りですか。たてがみは生えているが、腰抜けの顔・・・。よくこんなヤツが、かの飛竜ワイバーンの強国に気に入られたもの・・・」


「それ以上近づけば片目を失うことになるぞ」


 敵意をムンムン出して僕に近づくギレスの前にルータスが立ち塞がった。


無辜むこの民を戦禍に巻き込もうとした貴様を、息子なぞととっくに思うておらぬ。即刻立ち去れっ!!」


 ルータスの気迫に圧され、ギレスは渋々踵を返した。


「すぅ~・・・!!未だに取れておらぬな。弱国の悪臭が」


 その捨て台詞を残して、ギレスは城下町を後にした。


 予期せぬ来訪者の登場に、辺りは言い様のない不安感に包まれた。


「我らは城巣に戻る。あとは皆で、遠慮なく、じゃんじゃん騒いでくれよぉ!」


 ルータスが白けた場の空気を再び盛り上げて、僕らは城巣に帰ることにした。


「リオル、着替えが済んだら俺の部屋に来い。家族でお前に話したいことがある」


 それはちょうど良かった。


 僕も気になってたところだ。


 ギレスが・・・こっちの世界の僕の兄に何があったのか。





 ◇◇◇





 城巣に帰った僕は着替えをして、ルータスの部屋に来た。


 僕の後にハーリアもやってきた。


 緊急の家族会議に、ハーリアはそわそわしていた。


「お前様、何かあったのですか?予定を切り上げてお帰りになられるなんて・・・」


「・・・・・・ギレスが来た」


「っ!!?」


 ハーリアが驚いた顔をした。


「そうですか・・・。あの子が・・・」


 そして悲しそうな表情をする。


「父上。教えてくれませんか?ギレス・・・あの者は本当に僕の兄上なのですか?」


 僕の質問に、ルータスは重く頷いた。


 それからルータスは、ギレスについて僕に話してくれた。


「奴が生まれたのは今から十年前・・・。つまり奴は、お前の五つ上にあたる。気が強くて自信家だったが、その分、上昇志向が高く、地竜ドレイクが他の亜竜族サーペントに蔑まれ、見下される現状を憂い、怒りを覚えていた。年を重ねるごとにその怒りは増し、オリワ領を強い国にするという妄執に取り憑かれていった・・・。そして五歳になった奴は、とんでもない法案を考えた」


「とんでもない法案?」


「戦える見込みのある者は女子供であっても戦場いくさばに送ると言い出しおった」


 おいおい待てよっ!!


 それって完全に国家総動員法じゃねぇか!!!


 戦国時代でもそんなアホなこと言い出すやついねぇよ!!!


「当然俺は反対した。しかし奴は「オリワを強き国にし、他国を攻め落とすには兵だけではなく民にも一丸となってもらうしかないっ!!さもなければ地竜ドレイクは永劫に蔑まれたままだ!!!」と言って、頑として考えを曲げなかった。そこから俺とギレスは激しく言い争ってな。結果、オリワの現状に呆れた奴はこの国を出ていき、俺は奴を勘当した・・・」


 こんこんと語るルータスの横で、ハーリアは悔しいような、悲しいような表情を浮かべていた。


 きっと必死に止めたんだろうな・・・。


 ギレスが出ていくのを。


 ぶっ飛んだ考えの持ち主でも、彼女にとっては大切な息子だ。


 止めない方がおかしい。


「父上。どうしてあの者は、今更になって帰ってきたのでしょう?」


「さぁな。冷やかしに来たんじゃないか?勘当した後に生まれた、顔も知らない弟のことを」


「そうでしょうか・・・」


「奴はそういうタチだ。お前が気にすることはない」


 ルータスはこう言ってくれるけど、なんだか胸騒ぎがする・・・。


 僕を見るあのギレスの顔・・・。


 ハングリー精神が高かったって話だけど、それは全然治ってなくて、むしろ悪化してるような気がする。


 亜竜族サーペントが元服する十歳で戻ってきたのも気がかりだ。


 何かとんでもないことを、企んでるのかもしれない・・・。





 ◇◇◇





 オリワ領の外れの乾燥地帯の大樹の下、町を後にしたギレスは誰かと待ち合わせしていた。


「やぁ。ギレス殿」


『バサッ!バサッ!』という羽音とともに、ギレスの()()()が大樹越しに話しかける。


「どうであったか?久しぶりのオリワは?」


「相も変わらず寂れた小国のままだ。俺の提案を受け入れていれば、もっと栄え、強き国になっていたろうに・・・。嘆かわしい」


「まぁ、そう憂いるな。もうすぐオリワの跡目は貴殿のもの・・・。貴殿があの愚弟を蹴落とし、オリワの主君となれば、その理想は叶おうて」


「俺との約束、覚えているだろうな?」


「ああ。貴殿がオリワを継げば、我がシノナ領が後ろ盾となって誠心誠意お支えしよう」


「・・・・・・下準備は頼んだぞ?ゲレド殿?」


 ギレスが聞くと、ゲレドは「クァクァッ!!」とカラスのような甲高い笑いをしながら「お任せを」と答えた。

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