3章ー13:赤竜の嫁入り?
僕がレムアに「一緒にオリワ領に行こう」と言ってから、特にこれといった後日談はない。
ディブロのところにレムアと一緒に、改めて彼女を連れて行っていいか、断られるのを覚悟して頼みに行ったら、なんと二つ返事でOKしてくれた。
レムアはミーノ領の地竜なので、断られないならまだしも、結構モメるとばかり思ってたけど、すんなり許してくれたから肩の力が一気に抜けて、お腹になんとも言えない感触だけが残った。
これは小さい頃からある僕の特徴だ。
多分、腹にまで達した心臓の激しい鼓動の痕が、鈍痛みたく残ってるんだと思う。
それだけドキドキしてたんだ。
どうして簡単に許してくれたか、その理由を聞くと、「レムアはリオルの専属の侍女だから連れていくのは一向に構わん」とのことだった。
ただどういうワケか、二人並んでお願いに来た僕とレムアに対し、妙に含み笑いが多かったのはなんでだろうか・・・。
ディブロとの謁見を終えて部屋を出ると、ティアスがいた。
一連の話に聞く耳を立てていた彼女は、僕の顔を見るなり肩を『バシッ!』と叩いてきた。
地面を掻くのに発達した爪だから、でっかいスコップ三枚で殴られたんじゃねぇかとしか思えない、今まで味わったことがない痛みが走った。
その後ドヤ顔で、「小蛮らから教わった指文字じゃ!!」つって、グッドサインを送ったのが、な~んかイラっとした。
まぁ、ティアスが背中を押してくれたおかげでこういうことになったんだし、一応感謝はしとくか・・・。
そっから僕のしてた地域発展事業の引継ぎ、住んでた屋敷の引っ越し作業がトントン拍子に進み、人事が言い渡された二日後の昼・・・僕とレムアがミーノ領を出発する時がやってきた。
「長いこと・・・お世話になりましたっ!!」
門にはディブロ一族とボロスによる、ささやかなお見送りがあった。
「もっと豪勢にしたらどうだ?」と言われたけど、シャイな僕にはこれくらいがちょうどいい。
「跡目を継いだら、我が領との関係を良しなにな!」
「ええ!そりゃもう!!」
「鍛練を怠るでないぞ?」
「ボロス殿に教えてもらった武芸で、『ヒノモト流竜術』を更に高めていきますっ!!」
男性陣である僕たちが豪快に別れの挨拶をする一方、女性陣たちはどこか偲ぶような別れをしていた。
「奥方様、姫様・・・。これまでの御恩、決して忘れませんっ」
深々と頭を下げるレムアを、スディアはそのゴツイ見た目とは裏腹に優しく撫でる。
「精気のなかったお前がよくここまで・・・。まっこと分からんモノじゃのう・・・」
そういえば、スディアはレムアを「生きることを諦めている」って理由で嫌ってたっけ。
故郷と家族を失って極うつ状態だったレムアがここまで元気になったんだから、彼女なりに感慨深いんだろうなぁ。
「・・・・・・レムア!!」
泣くのを堪えながら、ティアスがレムアを抱きしめる。
ミーノ領に拾われてから、ずっと姉妹同然に五年間過ごしてきたんだ。
やっぱり別れが惜しいんだろうなぁ~・・・。
「ん?何見ておる?」
「あっ、いや・・・」
僕は慌てて目を逸らす。
ちょっとレムアが羨ましかった。
別れを偲んでくれる家族みたいな人達がいることに・・・。
だけど僕は、右足の爪に付けた『守り爪』を見てハッとする。
オリワにもいただろうが。
僕と離れるのを惜しむ人らが。
そういうのに縁遠くなって誰かを羨むなんて、どんだけかまってちゃんやねん・・・。
「何を辛気臭い顔をしとるかっ!お前も、ちと来い!」
「はっ、はい!」
ティアスに呼ばれ、僕はそそくさと向かった。
「すいません!して、何のご用で・・・あ・・・」
僕は目を奪われた。
振り返ったレムアの頭に、四つ葉のクローバーみたいな意匠の白いかんざしが付けられていたからだ。
『しゃらん・・・』と歯の下のガラス細工がなびいて振り返るレムアの顔は、とっても華やかに見えた。
「どうじゃ!?シロサチバナをべっこうで固めたかんざしは!?」
シロサチバナ・・・『白幸花』か。
奇妙な、めぐり合わせだな・・・。
「にっ、似合ってるよ・・・」
僕が恥ずかしながら言うと、レムアは『ぽっ・・・///』と赤くなって顔を逸らした。
「わらわの手製じゃ!嫁入り道具として悪くなかろう?」
よっ、嫁入り・・・!!?
「なっ、何を仰ってるのですか姫様っ!!!」
「お戯れもほどほどにして下さいっ!!!」
同時にツッコんだことに気付いた僕とレムアは、しばらく顔を合わせ、また一緒のタイミングで『ぷい・・・』とそっぽを向いた。
「ふぅむ・・・。なんだか締まらなくなってしまったな」
「いいではありませぬかお前様。こっちの方が愉快で」
「ふっ、そうだな。ではご両人、息災でな」
「たまには顔見せるぞよ~!!」
四頭の飛竜に見送られ、僕たちは四年間過ごした金砂城巣を去っていくのだった。
◇◇◇
夕方になってオリワ領に続く街道を僕たちは、無言で歩いていた。
さっきのことがめっちゃくちゃ恥ずかしかったからだ。
どうしよ・・・。
すごく話しづらい・・・。
レムアと二人で遠くに行くのは初めてじゃないのに・・・。
「まっ、参りました、ね・・・?」
「へ・・・?」
「なんだか、わたくし・・・リオル様に嫁いだみたいになっちゃって・・・」
「だっ、だよね~!?姫様ったら、冗談過ぎるよ~もぅ」
「でっ、でも・・・」
「なっ、何・・・?」
「・・・・・・お嫁に行くなら、リオル様みたいなお方がいいな・・・って思ったりしちゃってます///」
「・・・・・・え?」
その言葉を聞いて、僕は道の真ん中で固まった。
「りっ、リオル様は・・・どう、ですか・・・?」
モジモジしながら聞くレムア。
「ぼっ、僕は・・・。・・・・・・僕も、一緒・・・かな///」
「そう、ですか・・・///」
同じくモジモジしながら言った僕に、レムアは頬を赤らめた嬉しそうな微笑みで答えた。
それから僕たちは、横に並んで、お互いの尻尾を絡ませながら歩いた。
多分これが、竜にとって手を繋ぐ行為になるんだと、思う・・・。




