序章ー7:オリワの生活
谷間の巣を抜けた僕は、ルビィに案内されて地竜の町に出た。
町と言っても、数軒の藁ぶきの家が並んでいる簡素な物であったが。
建物という概念を持たないはずのモンスターが、ここまで器用な藁ぶき家を作れることが意外だ。指先を全て動かせることがカギになっているのかもしてない。
ここに出たことで地竜たちの生活様式が何となく分かった。
彼らは完全な狩猟民族で、物の売り買いはしてるものの、その全てが動物や魚。
貨幣は鉄のかけらを伸ばして作られたような簡単な造りだ。
僕はちょっと気になったことをルビィに聞くことにした。
「なっ、なぁルビィ・・・」
「はい?」
「野菜とか、売ってないの?」
「この国にはないですね」
予想もしてなかった答えに僕は「ええっ!?」と声を上げた。
「どうしたのですか若様?」
「えっ、僕たち・・・野菜食べれんの!?」
「はい。雑食性ですから~」
身体のデザイン的に考えて、てっきり肉食オンリーだと思っていたが・・・。
「ここよりおっきな国でしたら人族が交易にくるんですけど。あたしたちみたいな小国は相手にされなくてぇ~」
「人族・・・。人間のこと?」
「にんげん?若様は変わった呼び名を使いますねぇ~」
どうやらこの世界には人間という呼び名は広まってないようだ。
しかし野菜を食べないとなると栄養バランスの偏りが起きてしまうんじゃないか?
僕達が肉食寄りか草食寄りの雑食性か、どちらなのかで話は変わってくるが・・・。
この街を見て率直な感想を述べさせてもらうと、ここの地竜たち、ちょっと不健康そう。
野菜を食べてないからなんじゃないか?まだはっきりとは言えないけれど・・・。
何かいい方法はないだろうか・・・。
他の国と同盟を結んで交易を盛んにする?
それとも農業技術を取り入れる?
そもそも亜竜族に農業なんて概念はあるのだろうか・・・。
「わ~か~さ~まっ!」
「ひゃっ!?」
ルビィに尻尾をまたかぷっと噛まれてびっくりした。
「何を難しい顔をしてらっしゃるのですか?」
「いっ、いやちょっと・・・。どうやったらみんな栄養バランスがしっかり取れた食事をさせることができるかな~って・・・」
「その齢で市井のご心配をしてらっしゃるのですか?お優しいですね、若様は」
「そんな偉くないよ・・・。ただ・・・」
「ただ?」
ただ僕より頑張って生きてる人が貧しい暮らしをしてるのがモヤモヤしてるだけだ。
親子で客の呼び込みをしてるあそこのおじさんだって、ざるに敷かれた魚と睨めっこしてるあそこの男の子連れだって、みんな必死に働いて生活してる。家族を養うために・・・。
前世の僕には家族持ちの気持ちがいまいち理解できなかった。
そればかりか、家族を持ってる人は他人にとことんまで冷酷になれると思って苦手意識を持っていた。
本当は自分がしゃんと、きっちりしないとダメなのに・・・。
甘っちょろい子どもじみた思考で、他人を自分の物差しで測って、勝手に苦手に思って・・・。
ああ、とことんダメなヤツだなぁ~・・・僕って・・・。
「若様、泣いてらっしゃいます?」
「えっ・・・?」
いつもの自己否定感が入ってまた泣いてしまった僕は、慌ててゴシゴシ涙を拭った。
「ごめん・・・ちょっと自分ってダメなヤツだなぁ~って思って泣いちゃって・・・」
「若様はダメなヤツなんかじゃありませんっ!だって自分の国の民のことを一生懸命考えてるじゃないですかっ!!」
「るっ、ルビィ・・・」
ルビィに励まされて、ちょっと自分に自信が持てた。
女の子に励まされるなんて、前世じゃ考えられなかったことだ。
こんなことで自己肯定感が生まれて、元気になる感情の起伏の激しさも、抑うつ症状の一つに当てはまるんだろうか・・・。
何はともあれ、とりあえず今はルビィに感謝だ。
「ありがと・・・。おかげでちょっと元気出た」
「えへへ♪そりゃ~よかったです!それで、どこに遊びに行きますか?」
ああ、そうだった。今日は遊びに出たのが目的だったんだ。
そうだな・・・あ。
「この近くにマンションってある?」
「まんしょん?何ですかそれは?」
「あ、いや。ないよね・・・。そりゃそうだ。じゃあちょっとごちゃごちゃ入り組んだ谷みたいなところは?」
「そこだったらちょ~どおすすめの場所がありますよ!!こっちですこっち!」
ルビィに案内されて、僕は彼女のおすすめの遊びスポットに向かった。




