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2章ー36:バケットガップ海峡の戦い(拾壱)

 僕とレムアが駆け出すと、バナデウスはその湾曲した大角の先を地面に付けて、コンパスみたいに干上がった岩礁をガリガリ抉った。


「うひゃっ!?くっ・・・!!」


 避けんのが遅かった確実に角で轢かれたところだけど、どうにか回避することができた。


「レムア大丈夫!?」


「はいっ!!」


 土埃で煙くて、雨音でよく聴覚も怪しかったが、レムアの声が反対側から聞こえてきて、安心した。


「レムアっ!!バナデウスの前足にしがみついてっ!!そんでもって、思いっきりズタズタにしてやって!!!」


「分かりましたっ!!」


 レムアに指示を出した後、僕もバナデウスの前足にしがみつくためのジャンプをするために助走をつけた。


「小粒が。浜の染みにしてくれるっ!」


 バナデウスは、僕を踏み潰そうと前足を高く上げた。


 だけど向こうが予備動作に入った時点で、僕は大きくジャンプして、バナデウスの右足に取り付いた。


「倒れろオラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 僕はバナデウスのカメみたいな前足にガブっと噛み付き、その肉を喰いちぎった。


「ふぐっ!!ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 左足の方からレムアの咆哮が聞こえる。


 どうやら僕と同じことをしてるみたいだ。


「この小憎らしい地竜ドレイクの小童どもがっ!!」


 足を『ドスン!!ドスン!!』と踏み鳴らして、バナデウスは僕とレムアを振り下ろそうとする。


「絶対に落ちたりするもんかっ!!!」


 そう思った僕は、左手の爪をフックみたいにかけて、牙と右手の爪を使ってバナデウスの分厚い脂肪を持った皮膚をどんどん抉っていく。


 噛み千切っては肉を投げ、切り裂いては手を突っ込んで・・・。


 バナデウスにとっては、これは意味のない攻撃に見えるかもしれないがそうじゃない。


 この分厚い肉と脂肪の塊の先に絶対あるはずだ!!


 ()()()()()がっ!!!


「ぎっ・・・!!?グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 五分近く攻撃を続けていた時に、バナデウスが突然唸り声を上げて暴れ出した。


 それは攻撃というよりも、痛みで悶絶するかのようだった。


「くそがぁ・・・!!!この・・・離れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 僕とレムアを必死に振り下ろそうとするバナデウス。


 しかしどういうことか、僕たちがへばりついてる足は一切使わず、身体を振るだけしかしていない。


 そりゃ()()もんなぁ~!!


 手なんか使ったら!!


「レムア!!大詰めだ!!落とされないようにしてろよぉ!!!」


「はいっ!!!」


 僕とレムアは、ラストスパートをかけバナデウスの表皮の先の真皮を噛み千切っていった。


「・・・・・・あった!!」


 途方もないと思われていた作業にようやく終わりが見えた。


「リオル様っ!!肉の先に()()()のような物が・・・!!」


 レムアの方にも見つかったか!


「そいつをブチ切れぇ!!!」


「分かりましたぁ!!!」


 僕とレムアは、バナデウスの足の中にある白いモノを同時に噛み千切った。


「うっ・・・!!?」


 次の瞬間、バナデウスの足の力が一気に抜け、『ドォン!!』と顎を地面に付けてうつ伏せに倒れた。


 僕とレムアが噛み切ったモノ、それは・・・前足の神経だ。


 後ろ足がなく、陸上での動きを前足に頼りっきりのバナデウスが、その神経をブチ切られたら、身動きが全くとれなくなり、足を全部もぎ取られたトカゲのようにその場に固定されてしまう。


 相当骨がいる大変な作業だったが、上手くいった!!


 だけどこれで終わりじゃない。


 動きを封じられた奴が援軍を呼ぶ前に、カタを着けなくては・・・!!!


 僕とレムアは神経を切られ『だらん・・・』となっているバナデウスの前足から急いで離れた。


「スラギア君、今!!!奴の懐に飛び込んで放電してっ!!!」


「っ!!?しかしそれで其方らを巻き込むことに・・・!!!」


「スラギア君ならできるっ!!守り爪から電気を流し込むのを想像してっ!!!」


「しっ、しかし・・・!!」


「僕を信じてっ!!!」


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 スラギア君は砂浜を滑走してバナデウスの懐に飛び込んだ。


「やっ、止めろ!!!」


「カワミ流竜術、『鳴光篭なりびかりかご・突き』!!!」


 スラギア君の周囲に激しい雷光が発生し、それは守り爪を通ってバナデウスの胸に流れ込んだ。


「まさか・・・!!ふぐうううううううううううううううううう!!?」


 バナデウスの身体が眩い閃光に包まれ、大きくのけぞったかと思ったら仰向けになって倒れた。


「とっ、殿・・・」


 口から泡を吹きながら、完全に事切れたバナデウスを見て、トーウミト軍は唖然としていた。


「やった・・・。上手く、いった」


 これが僕の策・・・『電気ショック作戦』だ。


 バナデウスがスラギア君が攻撃できないとタカをくくっていたのは、彼の放電攻撃で味方すらも巻き込んでしまうリスクが高かったからだ。


 しかもこの場所は雨天・・・。


 全員が雨に濡れているから、感電の危険性が倍増する。


 だから僕は、スラギア君にバナデウスの懐・・・心臓がある場所に飛び込むように指示した。


 ピッタリ張り付いて放電すれば、周りを巻き込む恐れはなく、心臓に直接ダメージを与えることができると思ったからだ。


 ダメ押しで「守り爪に流し込むイメージを!!」なんて言ったけど、まさか本当に通っていくなんて・・・。


 やっぱりあれ・・・すごいお守りだ。


「りっ、リオル・・・」


 本当に僕たちを巻き込むことなくバナデウスを討ったスラギア君は、感極まった表情で僕を見る。


 それに対し僕は、大きく頷いた。


「・・・・・・我が軍とオリワ、ミーノの者たちよっ!!見ての通り、トーウミトの大将はこのわし、スラギアが討ち取ったり!!敵軍はもはや烏合の衆!全軍でこれを押し返すぞぉ!!!」


 味方から「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」と喝采が起き、アタマがいなくなったトーウミト軍とシノナの援軍を圧倒し出した。


 そっからはこっちのワンサイドゲーム。


 トーウミトの水竜リバイアサンは散り散りに。


 シノナの飛竜ワイバーンは自分たちの領地の北へと撤退していった。


 カワミ、ミーノ、オリワの三軍の勝鬨かちどきとともに、竜の島国サンブロドの歴史で一、二を争う奇襲作戦『バケットガップ海峡の戦い』の戦いは幕を閉じた。

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