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2章ー12:僕がダメでも

『サンブロドに天下太平の世を築くこと』


 僕のこの夢を打ち明けたのはこれ五人目だ。


 ハーリア、レムア、ディブロ、スディア、そしてスラギア君。


 なんの交流もない他国の殿様にこの夢を話すのはマズい気がする。


 下手したら侵略の意アリと受け取れられないからな・・・。


 でも彼には・・・スラギア君にだったら話してもいい気がした。


「天下太平の世・・・」


 顎に手をやって、スラギア君は思案を巡らせてるような表情を見せた。


 僕の心臓の鼓動が、微かに速くなるのを感じる・・・。


「それはどんな世じゃ?」


「えっと・・・。戦なんか無くって、誰でもご飯いっぱい食べれて、恋して、結婚して、子ども作って、たまに家族で出かけて、独り身だとしてもなんか趣味を見つけたり、日がな一日ゴロゴロ寝たりする・・・。そんな世、ですかねぇ~・・・」


「左様か・・・」


 なんかめっちゃ難しい顔してる・・・。


 もしかして怒らせちゃったかなぁ~・・・?


「・・・・・・ふっ。先を行かれた・・・ということじゃな」


「は?」


“先を行かれた”?


「ちと、身の上話に付きおうてはくれまいか?」


「はっ、はい」


「わしの父上・・・つまり先代のカワミ領の領主はの、昨年病に倒れてそのまま没した。年上好きで、道化のようで戦になると武を示す、なんとも腹の読めん父であった・・・」


 クルラさんがスラギア君のおばあちゃん並に年いってるのは父親の熟女趣味だったってことか・・・。


「じゃが・・・晴れた日に湖畔でぷかぷかと浮かぶのが、大好きだった」


 父親のことを語るスラギア君は、どこか遠い目で窓から夜景を眺める。


「水面に腹を見せ、悠々と浮かぶ父上に付き合って常々思うたよ。「こんな日が毎日続けばよいのにな・・・」と・・・。思いがけずこんな幼子の身で家督を継いだわしは心に決めた。「身分問わず、誰もが父上のように安寧に過ごせる世を作ろう」と・・・」


 おちょこを『ゆらゆら・・・』させた後、スラギア君は口を付けて入ってるお酒を半分くらい飲んだ。


「しかし跡目を継いだわしに待っていたのは挑発的に戦を仕掛ける隣国との小競り合いとわしに取って代わろうとする父上の忠臣たちのはかりごとじゃった。こんな小坊主が家督を継いだことに納得できんかったのじゃろう。食事に毒を盛られたり、戦場いくさばで嵌められ敵の只中に放り出されたこともあった・・・」


 え~!?僕と一個しか年違わないのにそんなデンジャラスな境遇にいたの!?


「わしに何か起こる度に母上が助けてくれて、生き残る術を教えてくれた。おかげで、わしの身に降りかかる災難は鳴りを潜めた」


 それって暗殺しようとした家臣を粛清したってことだよね?


 クルラさん容赦ねぇな~・・・!!


 スラギア君も、初めて会った時に夜の沼地に一人でいたから、もしかしたら相当サバイバルスキルが高いかもしれない・・・。


「滑稽じゃろう?平和な世を築くはずが、国を治めるのもままならず、己の身一つを守ることにかまけておっては・・・。じゃがお主は、その齢・・・しかも人質の身分から旗本に召し抱えられ、一滴の流血もなく中央南部をまとめ上げるべく奔走しておる。わしとは大きな違いじゃ・・・」


 スラギア君・・・相当落ち込んでる。


 自信喪失しちゃってるんだ。


「自分はダメな殿様だ」って・・・。


 レムアの時と同じ。


 なんだか鏡を見てるみたいだ・・・。


 見てらんないなぁ・・・辛いなぁ・・・。


「・・・・・・僕が、いますよ?」


「え・・・?」


「僕がスラギア様のお傍にいますよ。嬉しいですねっ!水竜リバイアサンの名の知れた国の殿が自分と同じ志を持ってくれてるなんてっ!!」


「お主・・・」


 僕は自分のおちょこにお酒を注いで、スラギア君のにも注いであげた。


「今日会えたことに、改めて感謝しましょう!」


「・・・・・・そうじゃな」


 僕とスラギア君は改めて乾杯して、同じタイミングで『ぐびっ!』とお酒を飲んだ。


 これは友の盃だ。


 スラギア君は優しくて、気前が良くて、そして平和・・・のんびりした退屈な日々って言った方がいいかな?


 それを愛してる。


 彼とだったら、僕の目指す理想の国を作っていける気がする。


 たとえ僕がダメになっても、彼になら・・・。


「・・・・・・なんてさ」


「何か申したか?」


「いえ。こっちの話です。さて!堅苦しい話はナシにして、もそっと面白い話でもしませんか!?」


 僕が『ぱん!!』と手を叩くと、スラギア君はビクッとして、それから上を見上げた。


 なんか話題を引き出そうとしてるなぁ~?


「むっ!そうじゃ!!」


 なにか思いついたみたいで、スラギア君は初めて会った時に見せた無邪気な表情を見せた。


「なにか思いつきましたでしょうか?」


「おう!男二人でするにはうってつけの話じゃ!」


「ほほう?どのような?」


「リオル殿、お主~・・・好きな女子おなごはいるかの?」

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