2章ー11:若様と殿様の晩餐
その日の夜、僕はスラギア君に招待されて五階の客間にやってきた。
「よう来たな。ままっ、遠慮せんと座れ」
「しっ、失礼します・・・」
向かい合わせで座るスラギア君の後ろの窓からは、満潮になってすっかり海になった湾、そして水面に反射する城下町の灯りがキラキラ光っていた。
なんか小さい頃、家族でよく来ていた和歌山の白浜のホテルを思い出す。
あそこも漁港が近くて、街の灯りが夜の水面に反射してたっけ・・・。
「どうしたリオル殿?わしの後ろにばかり目がいっておって・・・」
「あっ、いや別に。キレ~だな~って思って・・・」
「夜の湾に映る城下の灯り風情に『美』を見つけるとな?酔狂なヤツよのぉ」
「そっ、そんな大げさな・・・!」
スラギア君は、お膳に乗った土瓶に入ったドリンクを、『コトコト・・・』とおちょこに注いだ。
「スラギア様!?それ、もしかしてお酒・・・?」
「そうじゃ。我が領土で採れる『イネウミブドウ』を乾燥させて水に浸すことで作った。酔いづらく、おかげで子どもの身でも窘める。リオル殿も。わしが注いでやろう」
「えっ!?いやいいですよっ!!これから同盟を結ぼうとしてる主様に入れてもらうなんて恐れ多いっ!!」
「構わん構わん。同じ年月に生まれた者の仲じゃろう?」
「スラギア様おいくつですか?」
「言わずなんだか?二歳じゃ」
「僕、一歳ですよ?」
「ほう~?ではわしの方が一つ年上じゃな!」
ニカっと笑みを浮かべながら、スラギア君は僕のおちょこにイネウミブドウのお酒を土瓶から注いだ。
「では軽く乾杯しよう。オリワの若君と、カワミの主が同じ星空の下で食を交わすことに!」
スラギア君がおちょこを大きく掲げるのに合わせて、僕もそ~っと上に上げた後、『ぐびっ・・・!!』とイネウミブドウ酒を飲んだ。
なんだろこの味・・・。どっかで飲んだことあるような・・・。
あっ!そうだ!!オールフリ―だ!!
うつになってから向精神薬に影響するからってんで、アルコール類にはほぼ全く口付けれないから代わりによく飲んでたっけ・・・。
「どうしたリオル殿?かように懐かしいような顔をしおって」
「へ?懐かしそうな顔してましたか?」
「故郷の母の料理に久しく口を付けた・・・そのような顔をしておった」
「そっ、そんなことは・・・ないですよぉ・・・」
恥ずかしくなって目線をずらすと、お膳には魚の煮つけとみそ汁が乗っていた。
「スラギア様、これは・・・?」
「大口鯛の煮つけとガラ汁じゃ。油とコクがあって美味じゃぞ♪」
ホントにこの魚が好きなんだなこの人・・・・。
「なんだか徳川家康みたい・・・」
「いえ、やす?誰ぞそれは?」
あっ!口に出ちゃってた!
「あ~いや・・・。スラギア様のように、鯛に目がない御仁に心当たりがありまして・・・」
「そうか!わしと嗜好が合う者がいるとはな!機会があれば是非会って食を交わしたいのぅ~」
う~ん・・・。
別世界の人だし、とっくに死んじゃってるからなぁ~・・・。
「そっ、それでぇ~スラギア様!どうして僕を食事の席にご招待して頂いたのですか!?」
家康が異世界人かつお亡くなりになってる事実を伝えないように、僕はそそくさと話題を逸らした。
「先刻も申したじゃろう?わしはの、お主という竜を知りたいのじゃ。ミーノ領の一介の旗本ではない、オリワ領の跡取りとしてのお主を」
そういえばスラギア君、乾杯の時に僕のことを『オリワの若君』と呼んだっけ。
つまりミーノの武官としての僕じゃなく、『リオル』という一頭の地竜としての僕を知りたいってこと?
でも・・・。
「どうして、そうお思いに?」
スラギア君は、おちょこのお酒を勢いよく飲んで、『コトン・・・』とお膳に置いた。
「お主はミーノ領の主君たるディブロ殿の命を受けこの地へと来た。じゃがそれは、お主の構想する同盟案が、主君によって了承を得た故のこと。お主はどうして、サンブロドの中央諸国をまとめ上げる案を立てたのじゃ?」
「どっ、どうしてって・・・」
「それだけでなく、お主はミーノ領がシノナ領に攻め込まれた折に、敵の陣地に単騎で攻め入り、大将首を獲った。一歳の地竜にそのような離れ業、できるわけがない。じゃがお主はやってのけた」
スラギア君は、真剣な眼差しで僕を見据える。
「教えてくれぬか?何がお主をそこまでさせる?」
スラギア君に目には、信念と期待、好奇心が宿っていた。
まるで、自分に欠けているものを僕だったら持ってるかもしれない・・・。
そんな熱い視線だった。
・・・・・・彼にだったら、打ち明けてもいいかもしれない。
「・・・・・・夢がある、からでしょうか?」
「夢?それは何じゃ?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「このサンブロドに、天下太平の世を築くことです」




