2章ー9:嘘つきはどっちか
スラギア君が、カワミ領の殿様だった・・・。
その事実を受け止められず、僕は表を上げたまま固まる。
スラギア君も、僕の顔を見ながら固まっている。
だってそうやもん。
『旅の商人』だって言ってた奴が、他国の使者として目の前にいるのだから・・・。
「スラギア様が、カワミの領主でございましたのね?」
固まる僕の後ろで、レムアが口火を切った。
「レムア様。息子と既にお知り合いでして?」
「はい。道に迷われていたところを、わたくしとリオル様とお会いして、関所までご案内させて頂きました」
「まぁ。ではあなた方が、昨日の狩りで行方知れずとなった息子・・・殿を見つけて下さいましたのね。ありがとうございます」
「いえいえ。こちらこそ、スラギア様のおかげで事を荒立てず関所を通ることができました」
さっきまで結構ビックリしてたのに、レムアはもうクルラさんとご歓談ムードだ。
女の子って、やっぱ肝が据わってんな・・・。
「そっ、其方ら・・・旅の商人ではなかったのか・・・?」
戸惑いつつもようやく口を開いたスラギア君の方に、レムアは向き直した。
「偽りの身分を名乗り、申し訳ございません。他国に決して知られてはならない密命を帯びて馳せ参じたもので、何卒ご容赦下さいませ」
さっきまでの戸惑いはすっかり収まって、レムアは粛々と頭を下げた。
やっぱりレムアも、武家の娘というだけはある。すんごい礼儀正しい。
「ですが・・・」
はい?
「ご身分をお隠しになられたのは、そちらも同じことでは?」
レムアさん?
「わたくし達をご非難されるのであれば、それはお門違いというもの。スラギア様こそ、道中でわたくし達に偽りを申したではありませんか?たとえば「自分には祝言を立てるご予定のあるお方がいる」と仰ったのは、ご身分をお隠しになられるための、方便だったのでは?」
「そっ、それは・・・」
「殿に対して無礼であるぞっ!!地竜の娘よ!!殿はガルス領の殿の娘と婚姻の誓いを立ててる身!決して嘘偽りを申してなどござらんっ!!」
「え?」
マジか・・・。
一歳で結婚する相手が決まってる話、あれ本当だったのか・・・。
そういえば、スラギア君が言ってたことに、嘘はなかったと思う。
『武家の息子であること』
『カワミで影響力のある家柄の生まれであること』
はぐらかして、オブラートに包んでいたとはいえ、スラギア君の言ったことに、嘘はなかった。
その点、僕はどうだ?
身分を偽って、ここに来た目的も偽って、嘘をついてばかりやんか・・・。
前世じゃ自分の保身のために、嘘をつくのが多かったから、改めようと思ってたのに・・・。
全然できてないやん、僕・・・。
「お主こそ、使者に対して無礼であるぞ。ロアードル!」
レムアに厳しく言ったロアードルを、スラギア君は叱責した。
「しっ、しかし殿!この娘は殿に対し非礼な振る舞いを・・・!!」
「非礼?非礼なのはわしの方ではないか?」
「なっ、なんと・・・!?」
え・・・?
「この者らは主君からの密命を果たそうとせんがあまり、身分を偽った。実に大義である。じゃがわしは、我が身可愛さに己の身分を隠した。あくまで自分のために・・・。領主としての器が、まだまだ足りとらんと、恥じておる・・・」
「殿・・・」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「スラギアく・・・スラギア様は優しくて責任感があるお方だ」
「え?」
「一国の主がいたずらに身分を晒せばお命が危なくなる。殿の身が脅かされれば、国と民の安寧が崩れるのは必須・・・。それを本能で察してのご判断だったのでしょう。僕なんかより、よっぽどご立派です」
「しっ、しかし・・・!!わしは其方らを騙しておったのだぞ!?」
「騙してたのはこちらも同じです。だったらここは、“おあいこ”ってことでまとめませんか?」
「・・・・・・仕方ないのぅ」
「ではこの件に関しては、これで終いですっ」
恥ずかしそうにそっぽを向けるスラギア君に、年相応の子どもっぽさが見えた。
良かった。
これで面と向かって話ができる。
「では改めて。ミーノの使者よ。何故我がカワミに赴いたのか、用向きを聞かせよ」
殿様モードになったスラギア君に合わせて、僕もキッチリと心を整える。
「はい。我がミーノ領が主君、ディブロ様より、折り入ってご提案したいことが」
僕は懐からディブロからの書状を出して、それをスラギア君に渡した。
「こっ、これは・・・!」
「はい。ミーノ領とカワミ領・・・是非とも同盟を結んで頂きたく!」




