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2章ー1:鳴かぬなら

 城の中庭に集まった飛竜ワイバーンの武将たちが、神妙な顔で考えを捻り出そうとしている。


「う~ん・・・!!」と唸りながら何とか搾り出そうとするが、どうにもうまくいかない。


「どうした?なんにも思いつかなんだか?」


 金砂城巣きんさじょうすの主の妻、スディアが急かすみたいに家臣たちに言う。


 ふいに内一人が「あっ!!」と思い付いたような素振りを見せたが、しっくり来なかったみたいで、また首を傾げる。


「父上は、何か良いのが浮かびましたか?」


 姫君のティアスが、城主であるディブロに訪ねるがディブロも家臣同様、何も思い浮かべないでいた。


 そしてとうとうしびれを切らし、横に座るスディアに「もう止そうではないか?」と言った。


「どうしてですお前様。もう少し粘ればよろしいのでは?」


「どうにも時間の無駄だとわしは思うのじゃが?」


「良い日よりに家臣を集めて句を詠み合うことのどこが無駄だと仰せなのですか?」


「“鳴かぬウタガラス”を前に句が詠めるはずなかろうっ!」


 みんなの前の鳥かごに入った、頭に飾り羽が生えたカラスがキョトンとした。


 ディブロの指摘に僕は、「そりゃそうだわな・・・」って思った。


 事の発端はティアスが城の中で、この鳥を捕まえたことから始まった。


 日本に住んでるカラスより何倍も大きなこの鳥は『ウタガラス』。


 その名の通り、まるで歌声のように美しい声で鳴くことで大変有名なのだとか。


 スディアはティアスが捕まえたウタガラスを見て、「家臣たちに句の詠み合わせでもさせるか」と決め、ちょうど軍議で城に集まっていた家臣たちを、僕も含めてこの中庭に呼びつけたということだ。


 だけどこのウタガラス、うんともすんとも鳴く気配がなく、家臣たちは頭を悩ませた。


 きれいな声で鳴くのが取り柄の鳥が全く鳴かないのだから、俳句が全く思い浮かばないのは仕方がない。


「皆様、大層お悩みのご様子ですね」


 僕の後ろに控えていたレムアが呟く。


「リオル様は、何か良いのが浮かびましたか?」


 耳打ちをしてきたレムアに、僕は「ふっふっふっ・・・」と勝ち誇った笑みをした。


「大丈夫。すでに三つほどうたが思い浮かんだ」


「鳴かないウタガラスを前に三つも句が浮かんだのですか!?さすがはリオル様ですっ!!」


 現代日本で生まれ育った僕は知ってる。


 鳴かない鳥を前にどんな俳句を詠めばいいのか・・・。


 そう。『ホトトギス理論』だ!!


 信長、秀吉、家康・・・日本の名高い偉人の三人は、鳴かないホトトギスを前に俳句を詠んで、それは令和の時代にまで伝わっている。


 奇しくも目の前にいる鳥の名前も五文字・・・。


 ならば僕は、その中からいいのを選ぶだけ。


 とりあえず、信長のは却下だな。


 だって『鳴かぬなら 殺してしまえ・・・』なんて物騒過ぎるもん。


 となると、残るは秀吉か家康のどっちかだな。


 前者は賢そうで、後者は気が長そうなイメージだけど、どっちにしようかな~・・・。


「レムアよ。其方も考えてみてはどうじゃ?」


 スディアが僕の後ろのレムアを指名してきた。


「わっ、わたくしでございまするか!?」


 突然の指名に、レムアはビックリした。


「スディアの方様!!侍女に句を詠ませるのはいささか不相応かと思われまするっ!」


「若き女子おなご故の感性も汲んでやるのも一興だと妾は思うぞ?」


 スディアの意見に、家臣はそれ以上何も言わなかった。


 半年前のシノナ領との戦から、スディアはこれまで邪険に扱ってきたレムアに一目置くようになっていた。


 僕と同じで、娘の命の恩人だからか、はたまたあの時の戦いぶりが評価されたのか・・・。


 とりあえず、そのおかげで、こうしてレムアは「リオル専属の侍女だから」という建前で、僕の参加する行事にも同席を許されている。


 指名された以上、何か詠まないと申し訳ないと思い、レムアは斜め上を向いて「う~ん・・・」と考える。


 頑張れ!レムア!!


「鳴かぬなら・・・」


 え?


「鳴かぬなら 鳴くまで待とう ウタガラス」


 え!?ちょっ・・・それ!!


「ほう・・・。それはどういう意味じゃ?」


「日がな一日、一羽の鳥がさえずることを眺めるのも、良いではありませんか。むしろそう言った日が、“太平”と呼ぶに相応しいと、思いまする」


「主の趣向に合わせつつ、己が考えも兼ね揃えるか。良きではないか」


 スディアに一礼したレムアは、キラキラした目で僕にグッドサインを送った。


 ありがとうレムア!!僕の夢に沿った俳句を詠んで!


 だけど・・・ちょうど僕もそれ詠もうと思ってたんだよぅ~・・・。


「鳴かぬなら 鳴かせてみせよう ウタガラス」


 え!?


 第二候補使われた!!


 誰に!?


「やるではないかボロス。鳴かぬのなら手練手管を以って鳴かせるというのか。智将らしいお主の句だな」


「恐れ入ります、スディアの方様」


「実は今しがた、妾も一句思いついたぞ」


「それはそれは。どのような?」


「“鳴かぬなら 食らってしまえ ウタガラス”だ」


 それ言い方違うけどほぼほぼ信長と一緒やんかっ!!


「母上!!それは酷でござりまするっ!第一わらわの一族は針葉樹の葉しか受けつけないじゃないですかっ!」


「物の例えを申しただけじゃ。鳴かぬのであればかてになった方がこやつも報われようて」


 鳥かごの中のウタガラスが、めっちゃ必死に頭を横に振ってるように見えた。


 自分食われるいううた詠まれてんだからそりゃ全力で拒否るわな。


 しかしどうしよ・・・。


 大穴を入れた三つ全部先に詠まれてしまった・・・。


 もうこっちの持ちネタねぇぞ・・・。


「リオル様っ!早くリオル様もお詠みになって下さいっ!!」


 うっ・・・!!


 レムアがめっちゃ羨望の眼差しで見てくるよぉ・・・。


 こっちはネタ切れだっていうのに~・・・。


「なんじゃレムア?リオルも何か考えておるのか?」


「はいっ!!実はもう先んじて三つも考えたそうなのですよっ!!」


 バカ言うな・・・!!


「三つもか。それは期待できそうじゃな。どれ。一句詠んでみよ」


「えっ・・・!!はっ、はい・・・」


「おほん!!」と咳払いをするフリをして、僕はちょっとテンパって考える。


 くっそ~!!こりゃ僕オリジナルの和歌を考えるしかないぞ~・・・。


 でも鳴かない鳥でどうやって和歌詠めばいいんだよ・・・?


 ああっ!!


 もう~!!


「なんで鳴かへんねん!?」って恨みながら、僕は籠の中のウタガラスを凝視して捻り出そうとする。


 あれ?


 ちょっと、待って。


 この子・・・。


「鳴かぬなら・・・鳴かぬが愛しき ウタガラス」


「鳴かぬウタガラスが愛しい・・・とな?」


「だってほら~・・・。このピ~ンっと立った飾り羽に瑠璃のような身体の色、それにこのつぶらな瞳。鳴かなくても十分素敵じゃないですかっ」


「つまりお主は、ウタガラスのいと美しき鳴き声だけでなく、他の面にも目を向けて愛でよ・・・ということを申したいのか?」


 スディアの質問に、僕は「はい!」と大きな声で返事をした。


 何事も多角的に、視野を広げて見なければならない。


 人も国も一緒だ。


 偏って見るんじゃなく、よく見えない長所にも目を向けて総合的に判断しなければいけない。


 要するに個性を尊重することが大事なのだ。


 僕の生きてた世界には、それができない人が多かったから・・・。


 僕自身、人前じゃ見せない性格や趣味とか、もっと見てほしいって思ってた。


 だってそうしたら、もう少し打ち解けたかもしれないから・・・。


 まぁ、見せないトコも見てほしい察してほしいっていうのは、すごくワガママなことなんだろうけど・・・。


「確かに、良き声で鳴くことばかりに目を向けて、他を見るのが疎かになっていたかもしれんのぅ。着眼点を変えてみるというのも、また良きかな?リオル。お主の頭は、わりと柔らかいのかもしれんぞ?」


「もっ、勿体なきお言葉でござりますっ!」


 なっ、何とか切り抜けられたみたいだ・・・。


 はぁ~!!よかった~・・・。


「お見事ですリオル様っ!!鳴くことが取り柄のウタガラスの、別の面に趣向を凝らして句を詠まれるとはっ!」


「フッ・・・。僕にかかれば造作もないことだよ。レムア」


 ホントはストックしてたネタを先に使われてすんごいプレッシャーだったけどね?


「してリオルよ。この鳥、受け取ってはくれまいか?」


「えっ!?よろしいのですか!?」


「最も雅で面白い句を詠んだお主へにささやかな褒美じゃ。遠慮するでない」


 スディアからウタガラスを受け取った僕は「ラッキー♪」って思った。


 実は前々から飼いたいと思ってたんだよねカラスを。


 YouTubeで保護した人の動画、ちょくちょく見てたし。


「今夜はウタガラスの水炊き鍋ですねリオル様♪」


 コ~ラ~!!!


 それじゃあスディアと変わらんやろがい!!


「ダメだよレムア!!この子は今日の夕飯じゃないよ!!」


「へ?ではどうなさるおつもりですか?」


「屋敷で飼うんだよ!!ちゃんと大切にっ!!」


「まぁ~!!鳴かないウタガラスにも慈愛を持ってお傍にお置きになられるなんて・・・!!リオル様の懐の深さには感服しますっ!!」


 慈愛って・・・。


 別にそんな大層な話じゃないけどね?


「でもなんだか意外に思います。この間お出しした『コーケィの塩腸しおわた鍋』、あんなに美味しゅう食べていらしたので、てっきり鳥が好物なのだと」


「そっ、それはぁ~・・・。ねぇ・・・」


 上手く言えない僕に、レムアはキョトンとした。


 牛サイズのニワトリみたいな鳥だったから、どんな味するんだろうって気になってたらコリコリしててすっごく美味かったから・・・。


 なんかこう・・・鳥皮ともつの中間みたいな感じで。


 だからって、鳥全般食べるワケじゃないからねっ。


 食用とそうでない鳥のはっきりした線引きも、今後の課題の一つにするか。

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