1章ー30:頑張った結果
ん・・・んぁ・・・?
なんやろこの圧迫感?
硬い物と柔らかい物に挟まれてるような・・・。
目を開けると、しっくいの壁が目の前にあった。
後ろには何が・・・。
「ふううん?!」
寝返りをうつと、パッチリと目を開けたレムアとゼロ距離で目が合った。
「あっ!リオル様おはようございます~♪」
すごく甘ったるい声色でレムアはクスクスと笑う。
酔うとんのかコイツは・・・。
「おっ、おはよ・・・。で、何してんの?」
「お目覚めになられる間に添い寝をと思いまして。ゆっくり寝られました?」
いや変な姿勢で寝たから身体ガッチガチなんすけど・・・。
「お食事のご用意ができましたので、どうぞどうぞ♪」
レムアは布団から出て、二人分のお膳が並んでる居間にトタトタと歩いていった。
僕は前世の、大阪の実家で双子の姉弟のネコを飼ってたのだが、女の子の方がスキンシップ多めの子で、寝るときもベッタリ。
そのせいで、ベッドの半分以上を占領されてキッツイ寝相をすることもあった。
さっきのレムアは、その子に良く似ていた。
なんていうか・・・可愛いとうっとうしいの、ギリギリのボーダーにいる感じ・・・。
◇◇◇
「三日も!?」
驚いた拍子に口の中のご飯を吹き出しそうになった。
どうやら僕は、あの夜ぶっ倒れてから、三日後の昼過ぎまで眠ってたというのだ。
でもおかげで、傷もほとんど治って、折れた骨は元通りにくっついた。
さすがは地竜の治癒能力。
人間とは桁違いに治りがいい。
「ごめん・・・。心配かけちゃって。レムアも付きっ切りで疲れたでしょ?」
「いいえ。お風呂は屋敷のものを使って、ご飯は朝夕に運ばれてきたのを食べました」
ずっと添い寝してたワケじゃなかったのね・・・。
「どうしたのですか?お顔が暗いですよ?お口に合いませんでしたか?」
「いや。そんなことはないさ・・・。ははっ・・・。」
ガックリしながら笑った後、レムアに僕が寝てた三日間のことを聞いた。
明け方にディブロとスディアが供を率いてシノナ軍の陣に行くと、シノナの軍勢は撤退した後で、僕とレムアとティアス、そして穿心したガラルガの亡骸がだけがあった。
ゲレドは見つからず、シノナ軍と一緒に撤退するのをレムアとティアスが見たという。
殺されるくらいなら最後までシノナに寝返るスタンスを貫くたぁ~・・・きたねぇ野郎だ。
ティアスから、僕とレムアが自分を助けに来てくれて、結果シノナとの戦いに勝利できたことを聞いたディブロとスディアだったが、独断で城を抜け出したことが問題視され、僕が起きるまでレムアは僕と一緒に屋敷に軟禁生活を送ることになったという。
「リオル様がお目覚めになられたことは知らせました。もうまもなくすれば、殿から呼び出しがあると思います」
「そこで僕の処分が下されると?」
「はい」
「レムアは?」
「わたくしはリオル様の世話役。わたくしの身がどうなるかは、リオル様次第でしょう」
「そっか・・・」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「あのさ、城主に黙って敵を討ち取ったらどうなるの?」
「大手柄を立てたとして、それ相応の褒美がもらえますが、何分リオル様は正式な家臣ではないためそれは難しいと思われまする」
「やっぱそうだよね~・・・。レムア的には、どんな処分が下ると思う?」
「この場合は蟄居が妥当かと。ですが外様・・・しかも人質のご身分であるリオル様は、流刑に処される可能性も」
流刑・・・島流しかぁ~・・・。
どこに飛ばされるんだろ~・・・。
「わたくしは流刑になっても大丈夫ですよっ!あ~でも、海老が美味しいところがいいですね♪」
「レムア・・・。前向きになったねぇ~」
「リオル様が、わたくしに生きる力と意味を取り戻してくれたのです。あなたとご一緒なら、わたくしはどこでも頑張れますよっ!」
初めて会った時とはえらく違い、明るい笑顔を見せるレムアに、僕は胸打たれた。
僕・・・救ったんだ。
自分以上にうつになってる女の子を・・・。
「・・・・・・レムア」
「はい」
「揚げ物と刺身、どっち作るのが上手い?」
「揚げ物・・・ですね」
「ラッキー。じゃあさ、海老が名産のトコに行かされたらさ、美味しい海老天作ってくれない?僕、結構好きなんだよね~」
「・・・・・・はい!」
冗談っぽく言う僕に、レムアは元気良く返事した。
なんだかんだ、いっぱいあったけど、頑張って損はなかったな。
「リオル殿っ!殿とスディアの方様がお目通りされたいと仰せだ!すぐ参られよっ!!」
とうとうお呼びがかかったようだ。
まだちょっと残っていたご飯に向かってごちそうさまをして、僕は覚悟して立ち上がった。
「リオル様・・・」
心配そうに見るレムアに、僕は笑いかける。
「なぁ~に大丈夫!何も悪いことなんかおきないよっ」
◇◇◇
「リオル殿ぉ~!!」
襖が開けられ中に入ると、ディブロとスディアの他に、ティアスもいた。
この部屋に、ミーノを治める一族が一堂に会したというワケだ。
相変わらず眼光鋭いディブロとスディアに威圧されがならも、僕は気丈に振る舞って姿勢を正して座って、頭を下げた。
「リオルよ」
「はいっ!」
「わしとスディアが穿心を決めたのにも関わらず、城を抜け出し、敵の陣を攻めたことに、何か申し開きはあるか?」
「いえ。面目次第もござりませぬ」
僕は、頭を上げることができなかった。
ディブロの声色は明らかに怒っていたからだ。
やっぱり、独断専行をした僕に、怒っているのだろ~な・・・。
「父上っ!リオルがいなければ、ここにいる我ら一族がどうなってたか分かりませぬ!!どうかここは、寛大なお沙汰を・・・」
「ティアス控えよ!!父君は今リオルと話しておるのじゃ!!」
「っ・・・!!」
庇ってくれたティアスを、スディアが語気を強めて抑える。
本当ありがとうティアス。
それだけで僕はすごく嬉しいよ。
「リオル、表を上げよ」
顔を上げると、ディブロはめっちゃ怒ってた。
やっば・・・。
こりゃ~・・・島流し確定かも・・・。
「家臣でもない人質が、覚悟を決めた城主に逆らうなど無礼千万。お主のやったことが、竜としてあるまじき行いであることは分かっておろうな?」
「仰る通りでございまする」
「だが・・・」
「え・・・?」
「お主が我が娘を助け、此度の戦を終わらせたこともまた事実。わしは・・・わしを許せん。お主のような小便垂れの小童が、這いつくばって戦うておるのに、早々に諦め、一族と心中しようとした不甲斐なさを・・・。お主がわしの家と、ミーノを救うてくれたのじゃ」
「殿・・・。」
「今からお主の処遇を言い渡す。心して聞け」
「はっ、はい!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「オリワ族領の地竜リオル。お主は我が娘ティアスを敵陣から助け、敵軍の将を倒し、ミーノに勝利をもたらした。よってお主に、旗本の任を与える」
・・・・・・はた、もと?
『旗本』って確か、殿様の下で軍を率いる指揮官のことだよね?
っていうと、ナニかい?
僕・・・スピード出世しちゃったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ?!?!




