1章ー29:鎖から解放しろ
レムアと共闘してガラルガをブッ倒した僕。
戦いが終わって、僕とレムアは縛られているティアスの下へ向かった。
全身ボロボロ、傷口は開く、繋いだ骨はまた折れるわで、もう歩くだけでもギリギリの僕は、レムアの頭に自分の頭を支えてもらう形でゆっくりと歩く。
女の子に肩を貸されてるのと同じシチュか・・・。
情けないが、これはこれでアリかも・・・♡♡♡
レムアの頭の温もりが、僕の顎下に伝わって・・・ムフフ♡♡♡
って、ダメダメ不純な考えを持っちゃ!!
女の子にはもっと硬派で清楚な感じで接しなきゃ!!
とにもかくにも、ティアスのところに着いた僕達は、噛んだり爪で切ったりしてティアスの縄を解いてあげた。
「レムア・・・」
「・・・・・・面目次第もござりませぬ」
黙って城から逃げようとしたレムアはティアスに負い目を感じ、まともに目を合わせられない様子。
「まさに豪傑っ!実に見事じゃった!!」
ティアスは俯くレムアに、いつもみたいに屈託のない笑顔を見せる。
レムアはティアスに対して、伏せをして頭を下げる。
一度は逃げた自分を許して、普段通りにしてくれたことに感極まったのか、レムアのすすり泣く声が聞こえるが、触れないでおこう。
そういうのは、野暮ってもんだから。
「リオルも実に天晴な獅子奮迅ぶりじゃった!しっかしのぅ~・・・昼に手負いの敵を討ち取り、夜に敵軍の将を倒すとは・・・よっぽど死に急いでおると見受ける」
「そんなことは・・・!!と~言いたいところですが、今日一日、すんごい無茶したなぁ~って思ってます・・・」
「それでも死なぬとは・・・さてはお前、極楽浄土に嫌われておるのではないかぁ~?」
ニヤニヤして冗談を言うティアスだったが、どうにも「んなわけあるかっ!!」って言えなかった。
だって僕・・・現にこうして異世界転生してんもん。
覚えてないだけで、ホントにあの世から出禁を食らったのかもしれない・・・。
「きっ、貴様らぁ!!」
後ろを振り向くと、ゲレドが真っ赤にした顔から湯気を出して怒鳴っている。
「ガラルガ殿をこのような有様にして・・・タダで済むと思うてかぁ!?」
よく見ると近衛の飛竜達もバチバチに怒ってる。
「どの口が言うかぁ!!この卑怯な謀反人が!!」
「っ・・・!!」
ビビらず反論してきたティアスにゲレドがたじろぐ。
「貴様の所業はすでに父上と母上の耳に入っておるっ!!問答無用で死罪を覚悟せいっ!!!」
ティアスに死罪だと言われたゲレドは、恐怖で顔が引きつり、ブルブル震え出す。
ディブロとスディアが、よっぽど怖いらしい。
まっ、自業自得だわな。
「なっ、ならば・・・!!そこの地竜どもを殺して、改めてお前を縛に付けるだけよぉ!!!」
いいっ!?
おいおいコイツ・・・。
かなりテンパっちまってんな。
「きえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
「もうよいゲレド!」
翼を広げて襲い掛かろうとしたゲレドだったけど止められた。
止めたのは・・・ガラルガだった。
墜落して地面にめり込んだガラルガが、ゆっくりと立ち上がった。
あの高さから落ちても死なないなんて、どんだけタフなんだよ!?
立ち上がったガラルガは、血が滴る鋭い目つきで僕達三人を見てくる。
まさか・・・続きをやろうってんじゃないだろうな!?
こっちにはもうそんな余裕ねぇぞ!!
「・・・・・・実に見事じゃった」
「え・・・?」
僕たちを褒めたガラルガは、ゆっくりと地面に腰を据えた。
「皆の者!!陣を払え!!此度の戦・・・ミーノ軍の勝利じゃ!!」
え?
僕たちの・・・勝ち?
「なっ、なんで!?だってあんたは、まだ生きて・・・!!」
「戦の道理を心得ておらぬな、オリワの地竜よ。敵に陣まで攻め込まれ、大将が深手を負ったなら、雌雄は決したと言える。」
確かに、今のガラルガを見て、万全の状態で戦える状態とは思えない。
僕とレムアは、そこまで奴を追い詰めたんだ。
だけど、僕とレムアのやったことが、ミーノ軍全体の勝利に繋がったと言われても、唐突すぎてピンと来ない。
「シノナの将よ。ミーノを統べる者の娘として、そちらの敗北を受け入れよう。じゃが、そちはどうするつもりじゃ?」
ティアスの質問に、ガラルガは「フッ・・・」と笑った。
「戦に負けた竜が取るべき手は一つしかなかろうて」
ガラルガは翼の淵にズラリと並んだ翼爪を自分の方に向けて・・・。
「・・・・・・ふんっ!!!」
一番長い爪を自分の胸に突き刺した。
こっ、これは・・・!!
穿心!!!
そう。
戦に負けた武将が腹を切るのと同じで、負けた竜は胸を開けるのが習わし。
心のどこかで最初から、分かっていたことだ。
だけど・・・だけど・・・。
「ふぅ~・・・!!ふぅ~・・・!!」
目を見開いて、苦悶の表情を浮かべるガラルガに、僕は目を離せなかった。
本当は、見たくないはずなのに・・・。
「ガラルガ様・・・。見事な穿心でございます・・・!」
自分で自分の心臓を突くガラルガに、シノナの武将たちは皆、頭を下げて跪く。
その光景は・・・異様としか言えなかった。
「某が、介錯仕りますぞ!!」
「よっ、寄るなぁ・・・!!」
介錯しようとしたシノナの飛竜を、ガラルガは歯を食いしばって止めた。
「とっ、トダンの姫よ・・・!!!」
ガラルガに呼ばれたレムアが、恐る恐る近寄る。
「まっ、まさか・・・私に?」
戸惑うレムアに、ガラルガはゆっくり頷く。
レムアに介錯されたいらしい。
「そっ・・・その守り爪で・・・わしの脳天を突けぃ・・・!!!」
「・・・・・・武竜にとって、私怨による仇討ちは忌むべき行い。される側にとっては、恥ずべき仕打ち。お前は・・・あなたは、それでいいのですか?」
「なっ・・・」
「え?」
「無き国の・・・!姫に仇を・・・!取られるが・・・!乱世の常と・・・!罷りなりらん・・・!!」
“無き国の 姫に仇を 取られるが 乱世の常と 罷りなりらん”
これはガラルガの、レムアの問いに対する答えであるとともに、彼の辞世の句である。
今はもうない国のトダンの生き残りの姫であるレムアに仇として殺されるが、それも戦乱の世では当然のことだと受け入れよう。
ということらしい。
それは自分の運命を受け入れるとともに、レムアに対する精一杯の抵抗であると思った。
「お前の家族は死を受け入れなかったが、自分は違うぞ」とでも言いたいのか。
今際の際に抗議文を和歌にしたためるとは、なんて野郎だ・・・。
「・・・・・・いいでしょう」
ガラルガの意思を汲んだレムアが、僕がズタズタにしたガラルガの顔の右半分に守り爪を当てる。
多分もう、薄皮一枚くらいしか残ってないだろう。
レムアに殺されることが生きる気力になってるガラルガが、レムアから目を離さない。
「父上、母上、兄上。レムアは・・・。レムアは・・・!!」
心を鬼にし、レムアはガラルガの顔に守り爪を突き刺そうとする。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「リオル様・・・!?」
「ごめん・・・」
僕はレムアから守り爪をひったくって、ガラルガの顔に突き刺した。
脳を貫かれたガラルガは、ビクビク激しく痙攣して、やがてペタリと動かなくなった。
「どっ、どうして!?どうして横槍を入れたのですか!?この男は、わたくしの一族を・・・!!」
「・・・・・・嫌だったんだよ」
「嫌、だった・・・?」
「ガラルガを殺せば、レムアは鎖の一部になっちまう。どこまで手繰っても先の見えない、『復讐の鎖』ってヤツの。それは巡り巡って自分に廻ってくる。誰かを恨んでそいつを殺す。その繰り返し・・・。嫌なんだよ。自分の大事な人が、それに巻き込まれるなんて・・・。だから、出しゃばらせてもらったわ」
僕のいた世界じゃ、そんなの腐るほどあった。
人種差別、国際紛争、ネット炎上・・・。
それらは全部、果てが見えない連鎖だ。
怨みが増えてく度に、新しい輪っかが追加されていく・・・。
踏みとどまるか、関係ない外野がしゃしゃり出るしか断ち切るしかできない。
だから僕は、後者を選んだ。
レムアを復讐心から解放するため。
そして・・・天下太平の世を作る一因にするために。
「リオル様・・・」
「怨みは忘れて、自分の人生を生きて・・・。レムアには、それが・・・大、切・・・」
ピンと張っていた気力の糸がプッツリ切れて、僕はブッ倒れた。
意識を失う最後の瞬間、レムアが僕の身体を支えてくれたような気がした。




