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1章ー28:赤竜と青竜の逢瀬

「じゃあ行きますよ?レムアさん。遅れは取らぬように」


「ご承知いたしました。リオル様も・・・」


「言ってくれるじゃないか」


 僕とレムアは肩を並べ、お互いの闘志を感じ合う。


 自分と同じかそれ以上のうつ持ち・・・だけど負けん気に満ちた女の子と気持ちを共有できて、今の僕は最高の気分だ。


何人なんぴとたりとて横槍無用。この果たし合いはわしと、この地竜ドレイクの子らの神聖なる戦いである」


 僕たちと相対するガラルガが、配下の飛竜ワイバーン達に一切加勢しないことを厳しく命じた。


 武士道・・・いや、“武竜道”ってやつか・・・。


 ・・・・・・悪くない。むしろ最っ高に燃えてくる。


「ゆくぞ」


「ああ。こっちはいつでも」


「そうか」


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


 しばらくの沈黙の後、僕とレムアはガラルガに向かっていった。


 ガラルガは顔を上げて溜めモーションに入ると、僕に火球ブレスを吐いてきた。


「くっ・・・!!」


 ジャンプしたつもりだったけど、僕は地面をゴロゴロと転がってブレスから避けた。


 城壁の守りとさっきまでのガラルガとのやり合いの、連戦に次ぐ連戦から、僕の身体はもうボロボロになっていた。


「ふんっ!!」


 ブレスを吐いた後のガラルガは、レムアにムチみたいにしなる尻尾を振る。


 よく見ると、先の方から三本の針が『にゅっ』と出ている。


「避けろレムアっ!!毒の尾だっ!!!」


 僕は慌てて警告したが、レムアはガラルガの毒尾の攻撃をまともに受けてしまった。


 かに思ったが、レムアはなんと針が生えてない尻尾の先端の上に爪を立ててしがみ付いている。


「マジですか・・・!?」


 振り落とそうと尻尾を振りまくるガラルガに、鬼気迫る表情を見せて抵抗すレムアに、申し訳ないけど引いた・・・。


 ヤッバイわ、あの子・・・。


「ふぐううううううううううう!!!がああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 尻尾にしがみついたレムアは、ガラルガの毒針を一本、また一本と噛み砕いてついには全部折ってしまった。


 折れた針からガラルガの毒液が流れ出て、間もなく一滴も出て来なくなった。


 これでガラルガの毒は、完全に無効化された。


「小娘がぁ・・・!!!よくもわしの毒尾を~!!!」


 毒による攻撃ができなくなったガラルガは怒り狂って、尻尾を岩肌に叩きつけてレムアを潰そうとした。


 だけど・・・。


「させるかぁ!!!ボケぇ!!!」


 僕は自分でも驚くくらいのジャンプ力を見せて、ガラルガの顔面にしがみついた。


「クソッ!!前が見えんっ!!離れろぉ!!!」


「誰が離れるかぁ!!!」


 ガラルガの顔にしがみついた僕は、もう一回顔の右半分に噛み付いた。


 今度こそ、脳みそが見えるくらいまでの勢いで。


「おっ、おのれぇ~!!!」


 ガラルガは翼を大きく広げると、ジャンプとともに夜空に向かって急上昇した。


「おわあああああああああああああああああああああああああああああああ?!?!」


 マジかぁ~?!


 急上昇するガラルガにしがみついて、僕はトム・クルーズがスタント無しで輸送機に掴まってるシーンを思い出した。


 実際はこんなに直角じゃなかったけどぉ~!!


「くっ・・・!!ううっ・・・!!」


 初めて味わう強烈なGに、レムアは苦しみながらも必死に尻尾の先で踏ん張る。


「目障りなトカゲの子らめぇ!!!我が奥の手で地に堕ちるがよいっ!!!」


 ガラルガのうなじが開きかけてる。


 さっきの高周波攻撃をここでやる気かっ!!


 今食らったら確実に地上に落下するっ!!!


 なんか手はないのかっ!?


 その時、思い出した。


 高周波攻撃をする際に見えた、奴の弱点を・・・。


 開いたうなじの甲殻の隙間から、なんか膜みたいなのが見えてた。


 多分だけど・・・高周波攻撃をする際に、音を溜め込んでる鳴き袋が露出するんだ!!


 そこに切りこみ一つ入れれば・・・。


 袋の中の高周波は、ガラルガの身体の内側に分散するっ!!


 よし!これなら・・・!!


 だけど僕は気付いた。


 鳴き袋に直接攻撃するには、誰かがうなじの甲殻をこじ開けて、もう一人が鳴き袋に切れ込みを入れる必要がある。


 それができるのは・・・。


「レムアっ!!合図したらガラルガのうなじまでジャンプしろっ!!」


「えっ!?でっ、でも・・・今の私には・・・」


 しがみつくのが精一杯だって分かってる。


 だけど・・・だけど・・・!!


「・・・・・・ダメだったら僕も一緒に死ぬだけだっ!!お前とはもう・・・一蓮托生の仲なんだからっ!!」


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


「絶対掴んで下さいねっ!?どちらに死なれても嫌ですからっ!!」


「それは僕も同じだよ!!さぁ!!来いっ!!!」


 ガラルガの尻尾の先で、レムアは足を曲げる。


 そして僕も、ガラルガの顔の上でダイブの姿勢を取る。


 垂直飛行する飛竜ワイバーンの上でこんなイチかバチかの作戦なんて無茶を通り越してイカれてる。


 だけど・・・。


「為せば成る。成さねばならない。何事も・・・」


 僕はふわりとガラルガの顔からダイブして、レムアはガラルガの尻尾からジャンプした。


 爆速で飛ぶ飛竜ワイバーンの上なのに、レムアの顔ははっきりと見えた。


 どこか幻想的な雰囲気の中、僕とレムアはお互いを見つめて手を伸ばし合い・・・。


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


「はぁ・・・!!!掴んだっ!!!」


 後ろ足をガラルガの足に引っ掛けて、僕はレムアの手を掴むことができた。


「りっ、リオル様・・・!!」


 安心しきった顔をするレムアに、僕は大きく頷いた。


「きっ、貴様ら!!まさか・・・!!!」


 ガラルガがうなじの甲殻を閉めようとしたので、僕は両手を入れて強引にこじ開ける。


「やれレムアっ!!今だぁ!!!」


 レムアは守り爪を付けた方の手をギュッとして・・・。


「もう私は生きることから逃げないっ!!!」


 そう宣言したレムアは、ガラルガの露出した鳴き袋を守り爪で切り裂いた。


 次の瞬間、ガラルガの身体中の穴と甲殻の隙間から、鳴き袋に溜め込まれた高周波が一斉に噴き出した。


 ガラルガは意識を失い、シノナ軍の陣に墜落した。


「・・・・・・リオル様?」


「えっ?うおっ・・・」


 運良く墜落したガラルガの上に乗っていた僕は、レムアの頭をずっと守ってることに気付いた。


「もう大丈夫ですよ」


 ニコリと微笑むレムアに、また顔が熱くなる。


「なんだよ・・・。まるで僕が怯えてるみたいじゃんか」


「お手、震えてますよ?」


「あっ・・・」


「高いところは苦手で?」


「・・・・・・うん。めっちゃ怖かった」


「ふふっ。先程の威勢はどうなされたのですか?あんなに格好良かったのに」


「カッコ・・・!?お世話してる人を、からかうんじゃないよ・・・」


「からかってなどいませんよ。それにわたくし達は一蓮托生の仲。多少の戯れは目をお瞑りになられては?」


「・・・・・・悪い奴め」


「それはお互い様でしょう?」


「なんでだよwww」


 倒した敵の大将の上で、僕とレムアは生きてることを噛みしめて、軽口を叩き合った。

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