1章ー26:血と炎の余興
「え、ちょっ、待っ・・・」
いきなり飛び掛かってきたガラルガに思考がフリーズしてしまう僕。
だけど脳からの危険信号が光の速さで全身に伝わり、横に向かってジャンプした。
「おわああああああああああああああああ!!!」
ギリギリかわせたから良かったものの、僕がさっきまでいたトコにはガラルガの深い爪痕が残っていて、本気で僕を殺しにかかっていたことが、ヒシヒシと伝わる。
「ほう・・・。悪くない反応速度だ」
「なっ、なんだよいきなり!?危うく死ぬトコだったじゃねぇか!!!」
「無論、そのつもりだ。わしは貴様を殺そうと思った」
「はっ、はぁ!?」
なっ、何なんだよコイツ・・・!!
いきなり『戯れ』とか言って僕を殺そうとするなんざ・・・。
「まっ、まさかあんた・・・!!僕の命を酒の席の余興に使うつもりじゃないだろうなっ!?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言える」
イマイチはっきりしない答えを見せたガラルガに、僕はすごくモヤモヤした。
「お前は腹を括って穿心を決意した主君に背いてまで、その娘君である姫を救いに参上した。不届き者だが、実に見事な心意気だ。ならばその覚悟・・・この目でしかと見てみとうなった。死せる覚悟を見せた者と、情け容赦のない手合わせをすることこそが、武竜としての本懐であり、この上ない悦び」
つまりコイツぁ、僕の覚悟に敬意を示した上で、手加減なしのサシの殺し合いをしようってことか。
しかも楽しみながら・・・。
参ったな・・・。
どうやら僕は、とんだ戦闘狂に目を付けられてしまったみたいだ。
ホント・・・冗談じゃねぇよ・・・。
「ではゆくぞ。せいぜいわしを昂らせてくれっ!!」
ガラルガは大口を開けて、自動車並みのスピードで僕に突進してきた。
「バカがっ!!」
直線的な突進攻撃は易々と止まれねぇんだ!!
ここは地竜のフットワークの軽さの出番だ!!
僕は逃げつつもガラルガを森の入口まで誘導して、ギリギリのところでターンした。
よし!
アイツはこのまま木に向かって思いっきり激突!
ピロってる隙にティアスをかっさらって・・・
「甘いわっ!!」
正面の木に激突する寸前で、ガラルガもターンした。
マジかよ・・・!?
アイツ飛行だけじゃなく陸上でもあんな軽やかに動けんのか!?
Uターンしたガラルガは、その勢いで低空で滑空して、5発のマシンガンブレスを撃ってきた。
「がはっ・・・!!!」
それをまともに受けてしまった僕は、反対側の陣幕に思いっきり叩きつけられた。
「リオルっ!!!」
ティアスが僕の身を案じて大声で呼びかける。
「うっ・・・!ああっ・・・」
全身がヒリヒリする・・・。
相当ひどい火傷をしたか・・・。
身体中も痛い・・・。すごく・・・。
多分さっき吹っ飛んだ衝撃で、繋ぎかかってた骨折部位にヒビが入ったか・・・。
「どうした?そこまでか?」
口から炎混じりの息を吐きながら、ガラルガが近づいてくる。
単純に真っ向からやり合って敵う相手じゃないなこりゃ・・・。
だったら・・・!!
「があああああああああああああああああああああああああ!!!」
僕は雄叫びを上げながら、ガラルガに正面から向かっていった。
「かかっ!!血迷ったか!?」
飛び掛かる僕にガラルガは噛み付こうとしたが、寸でのところでバク宙して、奴の頭の上にしがみついた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
僕はガラルガの顔の右半分の古傷に思いっきり噛み付いた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!?」
よし!!
ひるんだっ!!!
やはり顔にこんだけドデカイ傷を負えばそこが弱点になるのは必須!!
だったらそこを集中的に攻撃してやればいい!!
弱点露出した部位を狙い撃ちするのは、モンハンにおいてもセオリーだからなぁ!!!
僕はのたうち回るガラルガの顔に噛み付きながら、同時に爪でも何回も引っ掻いた。
このまま耐えながら攻撃すれば、いずれへばって倒れる!!
その隙に、ティアスを・・・救出するっ!!!
ガラルガの動きが鈍くなってきた!!
いける!!
あと少しで・・・勝てるっ!!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
あれ・・・?
ガラルガのうなじから、突然強烈な音がしたと思ったら、僕は身体中の感覚を失ってドサリと落ちた。
「りっ・・・リオルっ!!!-------!?」
何だってティアス?
よく聞こえないんだ・・・。
「ぐふぅ・・・!!まさか古傷を捨て身で抉ってくるとは・・・!予想以上に見上げた根性だ!」
僕に切り裂かれた古傷を押さえながら、ガラルガが近づいてくる。
その声も、こもってよく聞こえない・・・。
「だが我が奥の手、“高笛”だけは読めなんだか・・・」
高笛・・・?
そうか・・・。そういうことか・・・。
どうやら僕は、ガラルガのうなじから発せられた高周波をまともに受けて、三半規管がぶっ壊れたらしい・・・。
ちくしょう・・・。
あとちょっと、だったのに・・・。
「実に天晴な戦いぶりであった。ルータスの子・リオルよ。お前には心からの敬意を示し、わしの血肉となってもらおう」
コイツ・・・僕を食う気か・・・?
「安心せい。骨まで残さず平らげてやる。では・・・頂くとしよう」
ガラルガの口が、僕の顔に迫ってくる。
あ~あ・・・。
なんにもできず、負けてしまった・・・。
スディアをピンチから助けて、調子に乗ってしまったんだ・・・。
所詮僕なんてこんなヤツ。
ここまでやったことといえば、もう二度と会わない女の子に、カッコつけたサブイ台詞を言っただけ・・・。
バカみてぇじゃないか・・・。
結局僕なんて、居てもいなくても一緒な、取るに足りないしょうもない男だったんだ。
まぁ・・・敵の大将に認められて、名誉の死を遂げられるだけでも、儲けモンか・・・。
頭がボーっとして、身体の自由が聞かない中で、僕はこのまま、痛みを感じない中で死ねたらいいなと思った。
でもヤだなぁ・・・。生きたまま食われるのは・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
あれ?
生きてる・・・。
一瞬微かに感じた身体がスライディングする感覚と、チラリと見えた青い影。
その後に、僕は自分が生きていることを実感する。
誰か助けてくれたんだ・・・。
でも誰が・・・。
その直後、頬に生暖かい水滴が落ちるのを感じ、誰かが覆いかぶさって泣いてることが分かった。
「誰・・・?」
「・・・・・・リオル様ぁ~・・・。良かったぁ・・・。」
「・・・・・・レムア?」




