1章ー19:消えた姫君
スディアに抱えられて僕は、負傷兵が治療を受けている二の丸の広場に運ばれた。
僕を角に引っ掛けてるスディアを見た途端、他の手当を受けている兵士の間でどよめきが起こった。
聞くところによるとミーノ領最強の女武者であるスディア、通称『ミーノの黒槍』に介抱されることは、戦で武勲を上げた証拠として大変誇らしいと言われてるみたいだ。
戦乙女にヴァルハラに運ばれる戦士の伝説に似てるな。
あっちは栄誉ある死を遂げた場合によるけれど・・・。
とにかく、ここまでの一連の出来事で、ミーノ軍の飛竜が僕に一目置くようになったのは確かだろう・・・。
これは地竜の地位向上に使えそうだな・・・。
って、なにいやらしいことを考えてんだ僕はっ!
人の善意をまるで利用するようなことをしようだなんて・・・!
でも、僕のやりたいことの中にはサンブロドで下に見られてる地竜のイメージ払拭も入ってるから、ちょっとは打算的なことを想像してもいいのかもしれない・・・。
あ~でもなぁ~・・・。
スディアはあくまでも、親切心で僕を介抱してくれたんだし、それをベラベラ言いふらすのはちょっと・・・。
「オリワ領のリオルはおるか?」
僕が治療を受けている茣蓙に、表面がゴツゴツしたドーム型の頭の飛竜が訪ねてきた。
「ボロス殿っ!」
治療をしてくれてるお女中さんが、畏まった態度で頭を下げた。
あっ、この人がボロスさんね。
ディブロの右腕をしてる・・・。
参謀とは聞いてたけど、中々に厳つい見た目してんな・・・。
「お館様が目通りたいと仰っておる。ついてこい」
「はっ、はぁ・・・」
ディブロが直々に呼び出すなんて、どうしたんだろ?
疑問に思いながら、僕はディブロが待ってる本丸にボロスと一緒に行った。
◇◇◇
「リオルがお見えになられました」
「入れ!」
襖を開けると、そこにはディブロとスディアが待っていた。
部屋に入った僕は、失礼のないように若干慌てながら座って二人に対し頭を下げた。
「リオルよ」
「はっ、はっ!」
「妻から聞いたぞ。窮地を救ってくれたみたいだな」
「いっ、いえ!ミーノに身を置いている上では私もディブロ様が家臣の一人!奥方様・・・ましてや女子のご身分で獅子奮迅なされている方を助けるのは当然のこと!」
「その結果そのような深手を負って助けた女子に担ぎ込まれていては世話ないと思うが?」
う~・・・反論できへん・・・。
「お前様。リオルはこのように這う這うの体。からかうのはよそうではありませんか」
「そうだな。とにかく、我が妻を不測の事態からよくぞ救ってくれた。礼を申すぞ」
「もっ、勿体ないお言葉でございますっ!!」
僕はふと、ディブロの顔を見た。
「感謝したい」って言ってる割には、どこか変だ。
なんかこう・・・ちょっと不安げというか・・・。
「殿。何か・・・ございましたか?」
「いや、まぁ・・・。リオルよ。時に・・・ティアスを見なかったか?」
え?
ティアス?
「姫様が、どうかなさいましたか?」
「お前が深手を負ったと聞き、避難所から我先に飛び出したそうなのじゃ。お前に会いに行ったと見えるが・・・。来ておらぬか?」
「いっ、いやぁ・・・。お会いにはなられてませんね」
「そうか・・・」
ディブロは心配した顔になって、頭をぽりぽり掻いた。
僕が二の丸に運ばれたのは一時間前。
広い城だけど、さすがにそれくらいあったら僕の所に来てるはず。
自分の家だから当然迷うこともない。
もしかして、何かあったんじゃ・・・。
「殿!!」
不安になってきたところで、飛竜の武将が本丸に駆け付けてきた。
「何の用じゃ!?殿は取り込み中であるぞ!」
「申し訳ござりませぬボロス殿!ですが・・・急ぎお知らせしたいことが・・・!!」
部屋に乱入してきた武将は、とても慌てた様子で、一枚の石板をボロスに渡した。
「何じゃこれは?」
「シノナの使者と名乗る者が先程渡してきました!」
「何だと!?」
ボロスは渡された石板をじっくり見て、一番下まで目を通した直後、愕然とした表情を浮かべた。
「そっ、そんなバカな!?」
え?
なになになに・・・?
「ボロス。それは何じゃ?」
「・・・・・・降伏の、勧告状でございます」
「なにぃ!?」
ディブロは急いでボロスから石板を取り上げて詠み始めた。
「・・・・・・なっ!?何じゃとぉ・・・!!!」
石板を見た途端、ディブロの顔中の血管が浮き出て、身体から湯気が出始める。
「ふざけるでないっ!!!」
怒り心頭のディブロは石板を投げ捨てた。
「・・・・・・え?」
投げられた石板に書かれた書状を見た途端、僕は言葉を失った。
石板にはこう書かれていた。
『姫君の御身は我が手中にあり。返してほしくば降伏し、領主ディブロとその奥方は“穿心”めされよ』
その言葉と一緒に石板には、ティアスが付けていたかんざしが張りつけられていた。




