1章ー18:生にしがみつけ
スディアを助けるために後ろから奇襲しようとした敵の顔に飛び乗ったはいいが・・・。
コイツ、すっごい暴れる!!
頭をぶんぶん振り回して、小刻みにジャンプして、僕を振り落とそうと必死だ。
正直、これじゃ仕留めることなんかできない。
しがみついてるだけで精一杯だよぉ・・・。
どうする・・・?
どうすればいいんだ・・・!!
「小童めがぁ・・・!!降りぬなら叩き潰してくれるっ!!」
散々暴れ回った敵は、石垣の方に頭を向けて、そのまま突進しだした。
ちょっ・・・?!
今これで壁に激突したら・・・!!!
そう考え終わる前に、僕はしがみついてる敵の頭と石垣に挟まれる形でプレスされた。
「がはぁ・・・!!!」
背中の甲殻と背骨が折れるような『ベキッ!!』、『ボキッ!!』みたいなヤな音が頭の中でした。
そして、身体に詰まった内臓が、風船みたいに割れるような感覚がして、僕は思いっきり吐血した。
今の・・・内臓イカれたかな?
血ぃ吐いてもうたからな・・・。
背中もめちゃくちゃ痛い・・・。
折れたシャーペンみたく、ベキベキに背骨折れてるかもしれない・・・。
これが骨折の痛みかぁ・・・。
前世じゃ骨折ったことなんて一回もなかったから新鮮だ・・・。
あ、目の前が落ちかけけてる・・・。
身体の内と外の激痛、口いっぱいに広がる鉄臭い味、ブラックアウトしかけて狭まる視界の中で、僕は自分でも驚くくらい呑気に考えていた。
「ぐぬぅ・・・!!しぶといヤツだ!!もう一発やって、今度こそ潰してくれるっ!!!」
ぼんやりとはっきりしない敵の怒声が耳に入ってきた。
どうやらまたどっかの壁めがけて頭からダイブするらしい。
今度やられたら、僕は確実に死ぬだろう。
考え無しに敵に襲い掛かった結果がこれか・・・。
大した力も無くて、元より最初っから誰かを殺す度胸もなかった僕にとっては、自業自得の結果だ。
まぁ・・・いっか。
どうせこのまま生きてたって、なんか嬉しいことも楽しいこともないのだから、ここで死ぬのもいいか・・・。
「天下を取る」なんていっちょまえに夢を持っても、フタ開けてみれば戦でぼ~っとして、ロクに役に立つこともできなかったんだから・・・。
もう、この世界はいいかな・・・?
一回転生することができたんだ。
なんならもう一回できるかもしれない。
次はもっとスローライフができる異世界が、いいかな?
敵が再び突進の姿勢を取ったところで、僕は「できたら一瞬で死ねますように」って願って、眠るような気持ちで目を閉じた。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「冗談じゃねぇよっ!!!」
僕はカッと目を開いて、敵の鼻っ面に思いっきり噛み付いた。
「ギェエエエエエエエエエエ!?グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
敵は痛みに悶えて絶叫し、パニックになって頭を振りながら走り回った。
すかさず僕は、オリワでもらった守り爪を目ん玉にブッ刺した。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
急所を突かれて、敵は断末魔を上げる。
何が「次の異世界に期待」だ!?
お前ちっとも変わってねぇじゃねぇか!?
決めたんだろ!?
「この世界じゃ前向きに頑張ろう」って!
「天下を取って平和な世界を作ろう」って!!
後ろ向きになって早々に諦めようとしてんじゃねぇ!!!
嬉しいことも楽しいことも、こっから見つけていけばいいやんか!!
現にお前・・・楽しかっただろ!?嬉しかっただろ!?
女の子の友達ができて・・・!!
まだなんにもしてあげれてないじゃないかっ!!!あの子らにっ!!!
僕はもう諦めないっ!!
人生に飽きたりなんかしないっ!!!
とことんまで・・・生にしがみついてやるっ!!!
「踏ん切ったうつ病持ち・・・舐めんなぁ!!!」
守り爪が刺さった目を、僕は指の根元まで深く刺した。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオ・・・」
敵は頭から倒れ込んで、僕はそのまま地面を転がった。
「はぁ・・・!!はぁ・・・!!」
遠くの方から最初に聞こえたほら貝みたいな鳴き声がまた聞こえてきて、そうかと思ったら敵が引き始めた。
「あっ、あれ・・・?なんで・・・?」
「思ったより手痛い反撃を食らったからのぅ。一旦引いて体制を整える腹づもりのようじゃ」
倒れながらキョロキョロしてる僕に、さきほどまで戦ってたスディアが歩み寄ってきた。
「城壁の守り衆たちよ!!まだ予断はできぬが一先ず敵の初手は凌いだぞ!!皆、天晴であった!!」
スディアの激励により、城壁を守っていた兵士達は歓声を沸いた。
僕も安心しきって、「はぁ~・・・!!」と大きな息を吐いて、大の字になって寝転がった。
「リオル」
仰向けになってる僕にスディアが話しかけてきたから、身体中の痛みを堪えてフラフラになりながらも立とうとした。
「そのままで良い」
「はっ、はぁ・・・」
えらく優しいな・・・。
って、ちょっと待って。
さっき僕のこと名前で呼んだ?
今まで『オリワの地竜』とかすごく他人行儀な呼び方だったのに・・・。
「先程はかたじけない。其方がいなければ、妾は敵に背後を取られていただろう」
「おっ、奥方様を守るのは、家臣として、当然ですから・・・。それに、助けたのは、お互い様でしょう・・・?」
「はっ。殊勝な物言いだわ。しかし・・・」
スディアは僕が倒した敵の亡骸をまざまざと見つめる。
「まさか元服もしておらず、一年しか生きとらん童が敵を討ち取ってみせるとはのぅ。初手柄にしては盆から溢れる水の如き余りようじゃ」
「いや僕も、石垣に思いっきし叩きつけられた時は、「もうダメだ・・・」って思っちゃいました。でも「ここで死んでたまるか」ってなって、後はもうヤケクソで・・・」
「確かに先程のお主の気迫、とても死に体の童とは思えんかった。さながら食らおうとした虎を道連れにせんとする兎のようじゃった」
「はっ、はぇ・・・?」
褒めてんのか?それ。
僕が訝しんでると、スディアは「くっくっくっ」と肩で笑い始めた。
「すっ、スディアの方様・・・?」
「其方は予想以上に見どころがあるやもしれんのぅ~」
「は・・・?」
「妾は生と求め抗えんとする者を認めることを信条にしておる。なぜなら、殊更に輝いておるからじゃ。己の生と正面から向き合い、格上の相手を屠らんとする其方の姿に、久方振りに胸が躍った。その生への執念を以ってすれば、其方は大成するやもしれん。このサンブロドで、他の誰も成し得なかった偉業を成すほどに・・・」
どこかで自分の夢を見透かされてるような気がして、僕はドキっとした。
「そっ、そんな・・・!ご謙遜を・・・。」
「そうか?妾の予感は、結構当たるぞよ?」
そっ、そうなんかなぁ・・・。
「さて。『コレ』は妾からの初手柄の褒美じゃ。嬉しゅう思うが良い」
そう言って、スディアは角で僕をすくって、そのまま引っ掛けた。
「ええっ・・・!?ちょっ、ちょっと・・・」
「この妾に抱えられるのはすごく誇らしいことなんじゃぞ。それとも不服か?」
「いっ、いえ・・・」
「ならば良い」
スディアに運ばれて、僕は城壁を後にすることになった。
まさかあんなに怖いと思ってた奥方様に介抱される日が来るなんて・・・。
やっぱ人生、どんなサプライズがあるかどうか分からんものだ。
・・・・・・だから面白いんじゃないか。




