序章ー2:どうやら地竜らしい
産湯に映った自分の姿を見て実感した。
どうやら僕は地竜。所謂『ドレイク』というやらに転生したらしい。
web小説でドラゴンの種類についてあれこれ勉強していたからそれなりの造詣はあるつもりだ。
モンハンとか中学の頃からやりこんでて結構そういうの好きだったし。
あっ、ワイルズまだ春のアプデしかやってない・・・。
十ウン年ぶりにラギアが復活するのがほぼ確定してたから夏のアプデ楽しみにしてたんだけどなぁ~・・・。
「よくぞ頑張りましたな、奥方様。」
控えていた老齢の地竜が僕を産んだと思われるピンク色の地竜に『さささっ。』と近づいて話しかけてきた。
日本語じゃない。そればかりか人間の言語ですらなかった。
なんていうんだろ・・・。
猛獣の低い唸り声をそのまま言葉にしたような、そんな言語だった。
何を言ってるか分からない。だけど耳に入ってきた言葉の意味が勝手に日本語に変換されるような・・・何とも気色の悪い気分だ。
「『ハーリアの方様』がおのこをお生まれになられた。これで『オリワ族領』のお家は安泰ですな。」
もう一頭が話しかける。
ハーリア。
それがこの世界における僕の母親の名前だろう。
しかし『おのこ』とか『お家』とか、戦国時代の武将の家かよ・・・。
「ありがとうございます。しかしお生まれになるのに手間をおかけてしてしまい、御家来の方々には難儀をおかけしましたのぅ。」
ハーリアはおっとりとした、まるで本物の武家の嫁のような気品溢れる喋り口調だった。
ってか『御家来の方々』って。
なんで古風な話し方してんだろ?
そんな『純ファンタジー』種族に生まれてんのに。
「はっはっ!!外の世界にお出になるのがよっぽど怖かったんでございましょうなぁ~!」
くっ、車が事故ったと思ってあれこれ考えてて出るのが遅れたんですよぉ~・・・。
まさか卵の中にいたなんて思わないじゃないですか~・・・。
なんてことを考えてる内に、ハーリアは右前足で僕を寄せて、鼻息を鳴らしながら頬ずりしてきた。
僕は驚いて「キュウっ!?」と変な声を上げてしまった。
声帯が未発達なのか、ただ単純に言葉を覚えていないだけなのか、生まれたての僕にはまだ彼らとコミュニケーションを取ることができないらしい。
「愛おしいお子ですのぅ。でも父君に似て勇ましさを感じる目つきをしておりまする。」
ハーリアが・・・いや。母が僕に優しく語り掛ける。
まだこの世に生まれたばかりのちんまりとした僕に笑いかけながら・・・。
久しぶりに母親の温もりとやらに触れた僕は、なんだか心があったかくなってきた。
それと同時に、大阪の実家の両親のことを考えて、とっても胸が苦しくなってきた。
就職してから、なんにもしてあげてられなかったなぁ~・・・。
初任給も自分の貯金に回したし、病気を理由に九ヶ月もニートしてもうたし・・・。
もっと・・・色んなことしてあげればよかったなぁ~・・・。
「ふぇっ・・・ふぇっ・・・。」
前世での両親への後悔で、僕は泣いてしまった。
ぐずったと思ってしまったらしく、母は僕のことを何とかなだめようとした。
家来のみんなの空気もなんだかよろしくない感じだ。
ダメだダメだ。
こっちの親に迷惑をかけてどうする?
過ぎてしまったことはもう取り返しがつかない。
我慢だ。我慢しろ。
ああ、でもなぁ・・・。
「お館様の、おな~りぃ~!!!」
その声を合図に、控えている家来の地竜たちが一斉に道を開けた。
谷間の向こうから、立派なたてがみを生やして、口に草食恐竜のような動物をくわえた、一際大きな地竜が、後ろに10頭の仲間をぞろぞろ引き連れてこっちに向かってきた。
その鋭い眼光たるや・・・。
ん?
今『お館様』っていった?
まさかアレがこの世界における僕の父親!?
まっずいなぁ~・・・。
食い殺されなければいいのだけれど・・・。