1章ー17:ミーノ軍、反撃開始
・・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・あれ?
生き、てる・・・?
もうダメかと思ったけど、何も起きてないことに気が付いて、僕はギュッと閉じた目をそっ~と開ける。
「ああっ?!」
僕のすぐそばまで、ククイが鋭い爪が生えた足を向けて迫ってきていたので驚いた。しかし、寸前で止まってる・・・。
なんで?どうして・・・あ。
なんとククイの胸を、地中から伸びた真っ黒な角が貫いているではないか。
「カッ・・・!!カカッ・・・」
死にかけの鳥みたいな声を上げながらククイは絶命し、その身体を持ちあげるような形で角の主が地面から這い出てきた。
「これは驚きじゃ。まだ死んでおらなんだな?」
「すっ、スディア!!さ、ま・・・?」
ククイを仕留めたのはスディアだった。
スディアは僕を一瞥すると、ククイの死骸を一本角で軽々と投げ飛ばした。
「スディアの方様!!何故城壁に!?」
「ゲレドが申したのよ。「城壁がそう崩れ寸前になり、自分を逃がすために兵が時間稼ぎをしている」とな。真か?」
スディアの質問に、みんな何にも言わない。
あのボケ・・・味方捨てて逃げた挙句にスディアに嘘付きやがった。
ここまで分かりやすくド汚ぇと、もう出る言葉はないな・・・。
沈黙する兵士たちに、何かを察したらしくスディアは鼻でため息を吐いた。
「まぁ良い。彼奴の始末は後回しじゃ。城壁の露払いは妾がやる。お主らは大筒を城外の敵に放て」
「恐れながらスディアの方様!!ここで大筒を撃ってしまえば、お味方に当たってしまいますぞっ!!」
「ふっ。案ずるでない。手は打ってあるわ」
スディアが城壁の外に視線を移したので、僕たちも合わせて外の様子を見た。
「あっ、あれは・・・!!!」
城壁の兵士たちは我が目を疑った。
僕も同じくらいビックリした。
なんと地上を攻めている敵軍の後ろ側を、ディブロが兵士たちを率いて攻めているからだ。
「殿?!どうして・・・!!」
「最初からシノナに正面から挑むほど此度の戦・・・甘くゆくとは思っておらん。よって絡め手を使わせてもろうた」
絡め手・・・?
じっと目を凝らして見ると、ディブロが率いている兵士はみんな、ディブロと同じような身体つきをしている。
翼は小さく、手は地面をかくような形・・・。
そうか!!
スディアと同じようにディブロは、城から地面をショートカットして一気に敵の背後を取ったんだ!!
自分と同じく、地中を掘って進める飛竜を率いて・・・!!
モンハンの砂漠フィールドに出てくる飛竜種に似た特徴を持ってるディブロ達なら、ゲリラ戦にはもってこいってことか・・・。
でもこれじゃ・・・。
「ですがスディアの方様!!これでは地上の殿に当たってしまいかねませぬっ!!」
やはり同じ意見が兵士のみんなから出てきた。
「大筒の標準を見てみよ」
スディアが言うように、大筒の標準を覗いた兵士は「あっ!」と驚いて声を上げた。
「我らの手勢が後退し、代わりに敵軍が大筒の射程に入りましたっ!!」
え!?
はっ・・・!
そうか二段構えかっ!!
ディブロの作戦の真の目的は、敵の背後を取ることじゃなくて敵を大砲の範囲まで押しやることだったんだ。
消耗した城下を守る正面の味方を避難させながら・・・。
実に理にかなった戦法だ。
だけどこんな手の込んだことをやるには、戦局をよく見た上でデリケートな技術が要求される。
ディブロはそこまでのキレ者だったってことか?
「“ボロス”の策を久々に見たが、相も変わらず驚かせるものよのぅ・・・」
スディアが呟いた名前に僕はハッとした。
ボロスはディブロの家臣の一人・・・いや一頭で、ものすっごく頭が良くて、優秀な右腕として重宝されてるって、ティアスが話してくれてた。
何枚も上手だから、彼の手習いを抜け出すことは絶対にできないってぼやいてた・・・。
「さぁ皆の者!!城に飛び込む不埒者は妾に任せよっ!!我が夫が開いた活路・・・誇りを以って恩を示せぇ!!」
兵士たちは「おおっ~!!」と歓声を上げて、ゲレドが逃亡して喪失しそうになった戦意を再び取り戻した。
ハッと上を見上げると、さっきのククイと同じように母衣を付けたシノナの飛竜達が砲台を破壊しようとまた突撃してきた。
その悉くを、スディアは持ち前の一本角で突き刺したり、デカいくぎ抜きみたいな尻尾で叩きつけて倒していく。
「雑兵どもがぁ!!!大筒を壊したくば、この『ミーノの黒槍・スディア』をへし折ってみろぉ!!!」
狂戦士としか言いようのないスディアの暴れっぷりに、僕は完全に腰が引けた。
なんでこんなバケモンが奥方様なんかやってんねん・・・。
いや。バケモンだからこそ、なれたのかもしれない。
この世界じゃそういうのが常識なのかも・・・。
いや~しかし・・・。
大将とその奥さんによって、ミーノ軍は息を吹き返したかのように反撃に転じ始めた。
城壁の兵士たちも、味方を巻き込まない範囲まで敵が押し出されたのを見計らって、大砲をバンバン撃ち始めた。
これが、中央南部の飛竜の大国の底力ってヤツなのか・・・。
なんか・・・僕の立場がないな・・・。
みんなが一生懸命に戦ってるのに、僕だけ壁を背にして棒立ちになったままだ。
砲台はスディアが守って、そのおかげで大砲を撃つ兵士は地上に援護射撃が出来ている。
正直、今の僕に何かできるような気がしない・・・。
むしろ、邪魔者扱いされるだけだ・・・。
はぁ~・・・。僕、何しに来たんだろ・・・。
戦場のど真ん中にいるにも関わらず、僕はうつ特有のブルーをまた発症してしまった。
「ううっ・・・!!萎びかけの婆の分際でぇ・・・!!!」
スディアの近くで倒れていた飛竜の一頭が牙を剥いてゆっくり立ち上がった。
よく見ると、尻尾が叩きつけられた凹みが、他の奴と比べて浅い。
マズい!!
スディア仕留め損なったんだ!!!
「『ミーノの黒槍』・・・獲ったりぃ!!!」
スディアの背後を取った飛竜が、翼の淵についたブレードを振りかぶって彼女に斬りかかった。
目の前の敵に一杯いっぱいになっていたスディアは、「しまった!」という表情をして振り返った。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「うわっ!?なんだ貴様はぁ!?前が見えんぞっ!!」
気が付けば僕は、スディアを奇襲しようとした敵の飛竜の顔に張り付いていた。
「オリワの・・・!!貴様!!」
「さっ、さっき・・・!!助けてくれた・・・!!お礼ですっ!!」
振り落とされないように、子どもながらの小さめな爪を、必死に突き立てる。
さっきまでブルー入ってた僕が、なんでこんな『危険』としか表現できないことやってんのか、自分でもさっぱり分からない。
きっと、気付かない内に、僕もこの雰囲気に飲まれちゃったんだろうな。
『反撃の昂ぶり』ってヤツに・・・。
だったら、思いっきりやってやろうじゃんか。
だって今・・・すっごく興奮してるんだからっ!!!
「オリワ領主の息子リオル!!恩義によってスディアの方様に助太刀いたさああああああああああああああああああああああああああああん!!!!」
アドレナリンが振り切った僕は、敵の顔にライドオンしたまま、幼体ながらの甲高い咆哮を上げた。




