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1章ー11:勇気の代償

 スディアは睨みをきかせながら、部屋の中へと入ってきた。


 彼女が一歩を歩く度に、踏んだところから地響きとともにドス黒い威圧感が煙みたいに上ってきてるような気がした。


「まぁまぁ~・・・」


 スディアがレムアとアケスの間に転がってる御骨ごこつに気が付き、舐めるような目つきでそれを眺める。


「叔父上のお骨が。角の先が欠けておるではないか・・・」


 御骨の状態を確認したスディアは、至極当然な質問を二人にした。


「どちらが、やった?」


 スディアに睨まれて、アケスはガタガタ震えて顔中に脂汗を掻いた。


 一方のレムアは、ロボットみたく無表情を崩さなかった。


 目を付けられてない僕でも、今すぐにでも逃げだしてしまいたいのに・・・。


 一体どんなメンタルしてやがるんだ・・・。


「そっ、そこの・・・どっ、地竜ドレイクが・・・」


 アケスはレムアが落としたことを、スディアにチクった。


 スディアの唸り声が一気に大きくなって、鬼みたいな形相になりだした。


 まるで牙を剥き出しにするオオカミみたいに・・・。


「誠かのぅ~?レムア」


「アケス様が落として割ったのでござります。スディアの方様」


 レムアは平常心を崩さず、はっきりスディアに言った。


「なっ・・・!?すっ、スディアの方様ご本人にまで嘘を吐くなんて・・・!!違いまするスディアの方様っ!!この地竜ドレイクが落としたのでござりまするっ!!」


 軽く半狂乱になりながら、アケスはスディアに弁明した。


 双方全く違う言い分を聞いたスディアは、ぐぐっとレムアの方へ顔を近づけた。


「再度聞くぞレムア。誰が叔父上の御骨を割ったのじゃ?」


「アケス様でござりまする。スディアの方様」


 スディアは目を細めてレムアを見つめ、何も言わなかった。


「・・・・・・もう良い」


 スディアは尻尾でレムアを叩きつけ始めた。


 くぎ抜きの形状をした尾の先が、レムアに向かって何度も振り下ろされる。


「ちょっ・・・!!」


 あまりに突然の出来事に、僕の脳みそはフリーズした。


 四、五回叩きつけた後でスディアは折檻を止めた。


「かねており、お前のその生きる気力が失せた目が気に食わなんだ。妾を前にしても、お前は恐怖も、絶望も感じておらぬ。お前の瞳に宿る物。それは、ただの『無』。ティアスが贔屓ひいきにしていたゆえに目を瞑っておったが、もうそれもしまいじゃ。死にたくば、妾がこの手で殺してやろう」


 スディアは再び、レムアのことを尾で殴り始めた。


 どう見ても、滅茶苦茶な難癖付けて折檻してるのは明らかだった。


 こんなの・・・許されていいのかよ?


 誰か止めてやったりしないのかよ!?


 僕は周りを見て、絶句した。


 みんな・・・見て見ぬふりをしてやがった・・・。


 レムアがスディアに折檻されてるのを、ただ黙って一点見つめしてる。


 まるで・・・「早く死んでくれ」とレムアに願ってるような目で・・・。


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


 なんだよ。


 お前らそんなに地竜ドレイクが嫌いか?


 飛竜《お前ら》と地竜《僕たち》・・・一体何が違うってんだよ?


 同じ竜じゃねぇかよ。


 同じ国に住んでる者同士だろ。


 なのになんでこんな酷いことを見逃すんだよ。


 こんなの・・・こんなの間違ってるじゃねぇかよ・・・。


 だけど・・・。


 だけど僕も、コイツ等と変わんない。


 レムアを助けたい。


 だけどスディアのことが怖くて動くことができない。


 結局僕も・・・口先だけ。心ン中であれこれ文句言うクセに、行動を起こすことができない。パワハラしてくる上司や先輩に、ビクビク怯えて、勝手にうつになった、あの頃の卑屈な僕の、ままだ・・・。


 ふと僕は、スディアに殴られるレムアを見た。


 抵抗一つしない。死を受け入れてるような虚ろな目をしている。


 でも僕には何故か、一緒にご飯を食べた時の、あの笑顔がダブってしょうがない。


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


「冗談じゃねぇよ・・・クソ」


 僕は考えるよりも前に走り出し、レムアのことを庇った。


「りっ、リオル・・・様・・・?」


 背中越しにレムアの弱々しい声が聞こえる。


 もう喋れるのがやっとなんだ・・・。


「何じゃ?お前は?」


「おっ、オリワ族領領主ルータスの息子リオルですっ!!」


「そうか。お前が地竜ドレイクの小国より贈られし人質か・・・。そこをどけ」


「おっ、恐れながら・・・!!それは出来ませぬっ!!!」


「・・・・・・何?」


 スディアの表情が若干歪んだ。


 横槍を入れられてカチンときたみたいだ。


「なっ、何だ貴様はっ!?スディアの方様の命が聞けぬというのか!?」


「か弱い女子おなごをいたぶる蛮行を許せという命を聞けと申すのですか!?」


「っ!」


 横から言ってきた武将を牽制し、僕はスディアに向き直した。


「スディアの方様。それがしは生まれてまだ一年の若輩者。このサンブロドの世俗と、礼儀に疎い面がござります。ですが・・・何の罪もない無実の女子おなごにこのような見るも堪えない狼藉は罷りならないと思っておりますっ!!どんだけ偉くったって、それは関係ないというのが持論ですっ!!」


 僕は今度は見て見ぬフリをしてた連中の方を見た。


 昂って我を忘れている自覚はある。


 だがもう我慢の限界だ。


 思ってること・・・全部言ってやる!!


「家中の皆々様も何ですかあの体たらくは!?レムアが暴行を受けているのにまるで助けようとしないなんて・・・!!スディアの方様に恐れをなして動けなかったのですか!?」


「どっ、地竜ドレイクを助ける義理など、あるものか・・・」


「だっ、だって・・・卑しい『死肉食らい』だから・・・」


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


「あんたらネットに溢れてる人種差別主義者レイシストかよ!?いっぱいいたよ『X』に!よく知らないクセして中国人とかクルド人とか一括りにして叩いてる連中!その人らの暮らしを見たんか!?家族との触れ合いを見たんか!?何も分かってないくせしていっちょまえなツラして真っ当ぶった意見を言ってんちゃうぞっ!!」


 前世のペースで話してしまってる僕に、その場にいた全員が固まった。


「何言ってるか分かんないでしょうねぇ~!!じゃあはっきり言いますわっ!!地竜ぼくたちを差別するなっ!!この狭量の、痴れ者どもがっ!!!」


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


「いっ、田舎竜の分際で・・・!!我らをコケにするかっ!!」


 居合わせた武将たちは、全員ピリついていた。


 当たり前だ。


 それだけのことをしでかしてしまったのだから。


「矛を収めよ。者ども」


 かかって来ようとした武将に、スディアが待ったをかけた。


「スディアの方様・・・!?」


「このリオルとかいう者の勇気には目を見張るものがある。ここで殺してしまうには惜しい男じゃ」


「しっ、しかし・・・!!我らと、スディアの方様に無礼をはたらいたのでござりまするぞ!?」


「分かっておる。勇気は認めるが・・・許すとは申してないっ!」


 スディアの翼の生えた前足で、僕は思いっきり殴られた。


「この者を牢に放り込んでおけ。今後は最低限の食事と水しか与えぬようにしろ」


「承知いたしました。そちらの下女は?」


「御骨に関する真偽と沙汰が決まるまで、これも同じ牢に入れておけ」


「かしこまりました」


 武将たちに取り押さえながら、僕たちは連行された。


「りっ、リオル様・・・」


 尾で殴られてボッコボコに腫れた顔で、レムアが僕を見てきた。


「・・・・・・へへっ。やっちまった」


 そんな彼女に、僕は強がってはにかんだ笑顔をした。

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