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1章ー10:黒一角の奥方

 レムアの壮絶な過去を聞いてから、およそ一週間が経過した。


 僕とレムアは、あれから特に当たり障りない関係を維持している。


 一緒にご飯を食べる日は、たまにはあった。でも、お互い何を話すわけでもなく、ただ黙って食べるだけ。


 掃除やお風呂の支度なんかもそうだ。


 僕が手伝うことに、レムアは抵抗示さなかったけど、「~を手伝ってほしい」とか最低限な話をするだけで、会話がはずんだりなんかしなかった。


「はぁ~・・・!!どうすりゃいいんだよ・・・」


 レムアのことを励ましたいとは思ってる。だけどやっぱり、彼女の辛い過去をほじくり返すようなマネをするのだけはしたくない。


 アニメを見てたら、主人公に対しヒロインとかが自分の悲惨な過去を吐露する場面があって、自分だったらこう言うだろうなって勝手な妄想を膨らましたもんだ。


「お前は悪くない。なのに自分を卑下するようなことを言ったら命懸けで助けてくれた奴が可哀相じゃんか・・・」ってのが、よく思いつくものだった。


 あれは画面の中の、フィクションの出来事だったから、なんぼでも言えるんだ。


 いざ自分が、そんな見ることも聞くことも堪えない過去を持った人を前にしたら、正直なんも言えない。


 慰めの言葉だったらいくらでも言える。


 だけどそれが得てして本人の救いになってるとは限らない。


 うつになった時も、親がよく僕に慰めの言葉をかけてくれた。


「そんな暴言吐く先輩のことなんか気にすんなっ!流しときゃいいんだよっ!」って。


 僕を勇気付けようとしてくれた気持ちは分かる。だけど向こうは僕のことを本気で嫌ってるんだから、「そんな無責任なこと言うな」って心の中で思った。


 だけど今回のことは、それとは勝手が違う。


 やっぱ思い切って相談に乗るか?


 いやしかし・・・。


 どっちつかずで、考えをぐるぐるさせて、今日も僕は屋敷の縁側で大きなため息をしながら、頭をポリポリと掻く。


「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 突然悲鳴混じりの鳴き声が聞こえた僕は、屋敷から飛び出し、声のした方へとダッシュで向かった。


「今のは!?何があった、ん、で、す・・・?」


 悲鳴がした部屋に入ると、僕は呆気に取られた。


 そこにはレムアと、少し年上のくらいの飛竜ワイバーンの侍女がいた。


 その真ん中には、台座から落ちたと思われる大きな頭骨。


 落ちた衝撃によるものだろう。それは角の端っこが大きく欠けていた。


「何があったのじゃ!?」


「どうしたのです!?」


 悲鳴を聞きつけて、他の飛竜ワイバーンの武将やその奥様方、侍女がやってきた。


「こっ、この地竜ドレイクが、お部屋を掃除中に、ごっ、御骨ごこつを・・・」


 レムアと一緒にいた侍女が、震えながらレムアを指差した。


 その言葉を聞いた途端、この場にいた全員の顔が凍り付いた。


「なっ、なんてことをしてくれたのじゃ!!」


「それは『スディアの方様』の叔父上の・・・ああ・・・」


『スディアの方』・・・。


御骨ごこつ』・・・。


 ヤバい・・・完っ全にヤバい・・・。


 オリワにいた頃、ハーリアから聞いたことがある。


 竜の武家の娘が嫁ぐ際、嫁入り道具として身内の骨・・・特に頭骨を持ってくる風習があるらしかった。それが『御骨ごこつ』だ。


『スディアの方』


 その名前は聞いたことがある。


 ディブロの妻でティアスの母。ミーノの雌の飛竜ワイバーンの頂点に立つお方だ。


 その嫁入り道具を、レムアは掃除中に落としてしまい、あろうことか割ってしまった。


 下手すりゃこれは・・・処刑ものの大罪だ。


「恐れながら・・・」


 レムアが口を開いた。


「わたくしは御骨ごこつを割ってはございません。アケス様がお割りになられたのです」


 レムアは隣にいた飛竜ワイバーンを見てきっぱりと答えた。


「いっ、いい加減なこと言わないでっ!!あんたが落としたんじゃないっ!!」


「いいえ。アケス様です」


 ヒスってるアケスと違って、レムアはいつもと同じように抑揚のない言葉で反論した。


 そっ、そうだ・・・!


 あのものすごい几帳面なレムアに限って、そんな失敗するワケがない・・・。


 きっ、きっとアケスが嘘付いてるんだ!


 でも・・・100%そうだとも言い切れない。


 ・・・・・・よし。


 ここは僕が、落ち着いて話を聞くようにこの場を宥め・・・。


「ふざけるでないっ!!」


 ・・・・・・は?


「きっ、貴様の如き卑しい地竜ドレイク戯言たわごとなんぞ、誰が信じるかっ!!」


「己のしでかした罪の弁明もせず、他の者に擦り付けようなんて・・・なんと浅ましいっ!!」


「申し開きの言葉一つ見つけられんとは・・・!!『死肉食らい』は腐肉に頭を当てられ、知恵が遅れとるらしいのぅ!!」


 なんだよこれ・・・?


 なんでみんなレムアの言い分を聞こうとせず、差別しまくりの言葉を浴びせまくるんだよ・・・?


 地竜ぼくたちが、なんかやったか?


 一方的なイメージで偏見しやがって、好き放題言いやがって・・・。


「・・・・・・ちょっと。あんたら・・・いい加減にし・・・っ!?」


 現場の空気が、一頭の飛竜ワイバーンによって張り詰めた。


 全身真っ黒で、鼻の辺りに生えた大きな一本角、くぎ抜きをデカくしたような尻尾。


 ティアスから特徴を聞いてたから、間違いない。


 この方が、スディアの方。


 夫であるディブロと肩を並べて、このミーノを支配する、雌の飛竜ワイバーンだ。


「おやおや・・・。これは何の騒ぎじゃ?」


 ゾウみたいな唸り声を混ぜながら、スディアは僕達に問いただした。

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