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1章ー9:悲劇の姫

 翌日、朝ごはんを食べ終えた僕は離れの縁側でぼ~っと空を眺めていた。


 レムアはご飯を運んできてくれた。


 だけど昨日みたいに一緒に食べることはなかった。


「ディブロのお情けで城に入れることができてる」


 あの一言が妙に胸につっかかる。


 レムアの過去に一体何があったのか?


 どういう経緯いきさつがあってここにいることになったのか?


 あの時のレムアの悲しげで、自嘲するような笑顔・・・。


 よっぽど人に話せない内容なんだろうな・・・。


 話してほしいけど、やっぱデリケートな過去には立ち入ってはならない。


「はぁ~・・・。どうしたらいいねん・・・」


 どっちつかずでガックリうなだれてたら、肩をバシッと叩かれた。


「なんじゃ?しけた面をしおって」


「ひっ、姫様・・・」


 ティアスが生えかけの角で僕のことを小突いてきたらしい。


 今日も元気満タン・・・といった具合だ。


「で?で?どんな調子だったのじゃ!?レムアとはイイ感じになったかの!?」


 やっぱその話か。


 今の彼女がいの一番に聞きたい話題は、昨夜の僕とレムアの関係の進展についてだろう。


「申し訳ございませんが、姫様が期待してる展開は持ち合わせておりませんよ。レムアさんとは、特に何もなくただご飯を食べただけですから」


「そうか・・・」


 ティアスはがっかりというより、ちょっと心配したような顔で僕の隣に座った。


「あの。何かあったのですか?」


「いやのぅ。今朝わらわの下へ朝餉あさげ(朝食)を運んだおりに、お主と食べるよう勧めたんじゃが、レムア、遠慮したんじゃ。てっきりお主にお熱になったのかと思ったんじゃが、どうやら違うみたいだったのぅ」


「レムアどんな感じでしたか!?僕のこと嫌いになってそうでしたか!?」


 僕は「あ・・・」となった。


 興奮して、ついティアスに食い気味にレムアのことを聞いてしまった。その証拠に、レムアをさん付けではなく素で呼び捨てにしてしまった。


「もっ、申し訳ございません・・・。つい・・・」


「んんっ?なんじゃ~?やはりお主ら昨日何かあったかのぅ~?」


 恥ずかしがる僕の顔を、ティアスはニヤニヤしながら覗き込んできた。


「べっ、別になんにもありませんよっ!」


「だったらどうしてわらわにレムアのことをかように慌てて聞いてきたのじゃ~?お主さっき、呼び捨てにしておったじゃろう~?」


 そこを覚えていたか・・・。


「そんなんしてへんし!」ってツッコみたいのはやまやまだが、こっちも真剣に悩んでるだ。


 ここは思い切って、ティアスに相談・・・して、みるか・・・。


「・・・・・・レムア()()、言ってたんです。「私は殿のお情けでここにいてる」って。あの人の過去に何かあったか知りたいけど、それを聞くことがどうしても怖くて・・・」


 そう言った途端、ティアスからおちゃらけた雰囲気が無くなって、すごく真面目な顔になった。


「左様か・・・。レムア、お主に己の過去を・・・」


「知ってるんですか?レムアさんに何があったか・・・」


 僕が聞くと、ティアスは難しそうな顔を浮かべて、ぽりぽりと頭を掻いた。


「レムアはのぅ・・・お主と同じく、地竜ドレイクの領主の子だったのじゃ」


 レムアが僕と同じ?


「じゃあ僕のように人質としてここに献上されたってことですか?」


 ティアスは首を横に振った。


「じゃあどうして?」


「・・・・・・殺されたのじゃ。一族郎党」


「え・・・?」


「レムアはかつてミーノの北の隣国のトダン領という地竜ドレイクの国の姫でな。父母と兄に、それはそれは可愛がられておったそうじゃ。ところが、領土拡大を狙う飛竜ワイバーンの大国、シノナ領に攻め滅ぼされたのじゃ。領主である父とその息子である兄は討ち死に。母はレムアを逃がすために城巣に攻め込んできた飛竜ワイバーンの武将に挑むも成す術なく食い殺され・・・。生まれてまだ数ヵ月しか経ってないレムアは、目の前でその様を見た」


 何とも、惨い話だ・・・。


 父親と兄が戦で死んで、更に自分を逃がそうとしてくれた母親が敵の武将に生きたまま食われたって・・・。


「隣国が攻め滅ぼされたと聞き、父上は急いで偵察を出した。レムアはその者らに、行き倒れになっていたところを拾われたのじゃ。地竜ドレイクの地位は飛竜ワイバーンに比べて低い。餌になるのがオチじゃ。しかし父上は、レムアを下女として城に雇い入れることになった。なぜそうしたかは・・・わらわには分からぬ」


 レムアが言ってた『ディブロの気まぐれ』ってこれのことか。


 僕にもディブロがその時何を考えてたなんて分からない。


 きっとまだ小さいのに、家族と故郷を失ったレムアに、どこか思うところがあったのかもしれない・・・。


「一つ、いいですか?」


「なんじゃ?」


「姫様はその話をどこから?」


「・・・・・・レムアが教えてくれてのぅ」


「レムアが・・・?」


「姫と下女という間柄じゃが、姉妹同然に育ってきたからのぅ」


 この時のティアスの笑顔は、いつものふざけた感じじゃなくて、お姫様らしい優しさに満ちたものだった。


 ティアスがレムアのことを、年の近い妹のように思っている節があると感じてたが、その理由がやっと分かった。

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