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5章ー25:オニガナシュの戦い(拾)

 身体を透明化して斬撃を繰り返すナルクルに、スラギアの体力は確実に削られていた。


「くっ・・・!!このまま、では・・・!!」


 全身に受けた切り傷から出血したスラギアが、右前脚の膝を付く。


「いい苦悶の表情だ」


 飛び回る赤い残光とともに、ハウリングするナルクルの愉悦の声がした。


「水辺を滑走する水竜(リバイアサン)の兵法も、小生の速さの前では形無し」


「ちぃ・・・!!」


 まごうことない力量の差を突きつけられ、スラギアは苦虫を噛み潰したような悔しい顔をする。


「そうだ。このままなます切りにしてやろう。じわじわ、ゆっくりと・・・」


「どっ、どういうつもりだ!?」


「見せてやるのよ。友に貴様の・・・惨たらしい死体を」


「ッッッ!?」


「嬲られて切り刻まれた貴様の死体を、殿と一戦交えているオリワ領の領主に眼前に晒し、貴様の死んでゆく様と、遺した恐怖と無念の言葉を伝える。そして奴は初めて後悔する。ベリスロを殺したことをな。友を喪った悲しみと、己の犯した罪をその身に刻みながら、奴も貴様の後を追うのだ。復讐としてこれ以上にない手法だと思わんか?」


「くっ、くっ、くっ・・・」と笑いながら、ナルクルはスラギアにリオルへの仇討ちの手段を教える。


 下に向けた顔を上げず、右腕を地面に付けて一歩も動かないスラギア。


 カワミ領の主君たる若き水竜(リバイアサン)の闘志は、ここで尽きたのか?


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


 否!!


「なに?」


 震えた、しかして爪を地面に深々と突き立て、スラギアは右腕を踏ん張り上体を起こして顔を上げる。


 その目は決して、これより死にゆく者の目ではなかった。


「わしは、倒れぬ!!リオル()も、倒れぬ!!この戦乱の世に、太平をもたらすその日まで!!!貴様のやわな復讐の刃で、このスラギアの命・・・刻めるものかぁ!!!」


 スラギアの発電殻が青白く発光し、彼の周囲に稲妻の篭が形成された。


「“カワミ流竜術・鳴光篭(なりびかりかご)”!!!」


 雷撃に巻き込まれないように、急いでナルクルはバックステップで距離を取る。


「起死回生を狙うべく大技を放ったか。だが一歩届かなかったな。いくら強大な技も間合いから離れれば意味もない。昂って我を忘れるとは、なんとも憐れ」


 逆転の一発が不発に終わったスラギアを嘲るナルクル。


 しかし、ある違和感に気付いた。


 放電を・・・止めようとしないのだ。


 雷属性の篭に包まれるスラギアの青みがかる白い身体は、眩く水色に光り出し、眼球も黄色く発光しだす。


「どういうつもりだ?何故雷撃を止めようとしない?」


 スラギアの意図が読めないナルクル。


 するとスラギアは、放電で震わす首を少し向けて、ニヤリと不敵な笑みを見せた。


「ッッッ!!!そうか!この死にぞこないめがぁ・・・!!!」


 スラギアの戦略が分かった。


 スラギアは逆転のために“鳴光篭”を発動したのではない。


 死のラインのギリギリまで雷属性をチャージするために使ったのだった。


 限界を超えた蓄電から命を守るために、スラギアは今一度溜めた電気を放出しなければならない。


 それによって引き起こされるのは・・・。


 オニガナシュの湿地を包むほどの最大威力の雷撃。


 そんなふざけたオールレンジ攻撃は、さすがのナルクルでも回避しきれない。


「おっ、おのれぇ!!」


 命を焦がしてまで自分を仕留めようとするスラギアの覚悟に怒りを覚えて、ナルクルは急いで退避しようとした。


 ここは一刻も早く湿地を抜けるのが得策。


 極めて遺憾であるが、生き残るにはそれしかない。


「行かせはせぬぞ!」


 逃げようとするナルクルを、トゥナズがボディアタックで阻止した。


「義息が腹を括ったのだ。お膳立てをしてやらねば立つ瀬も無くなる」


「いいのか?貴様も巻き込まれるぞ」


「元よりそのつもりだ。だが死ぬつもりは毛頭ない。これを乗り越えれば、孫の顔が見れるからな!」


 得意げに好々爺ぶるトゥナズに、ナルクルは腹立たしさを覚えた。


「だったら貴様を卸して通るとしよう」


 容赦なくトゥナズに斬りかかるナルクル。


 ところが・・・。


「なっ・・・!?」


 ナルクルの刃はトゥナズの頭に入らなかった。


「おぅりゃ!!!」


 トゥナズはナルクルの首に噛み付き、なんと頭だけの力でぶん投げた。


「この通り、わしは締まりのない身体をしておる。だが身体のぬめりと膂力では右に出る者はおらんだろう」


 起き上がるナルクルを前に、トゥナズは湿地に身体をこすり付ける。


 実はトゥナズの身体には、『毛鰭(けひれ)』という体毛状の細かいヒレがビッシリと生えており、頭部と肩、腰は特に長い。


 トゥナズはここから特殊な粘液を常に出しており、それは水と混ざると粘性と弾力性を持って硬化する。


 ()()()()()()()()()()それはまさしく・・・水の甲冑。


「“ガルス流竜術・鋼の水膚(すいふ)”!!!」


 咆哮とともに水の鎧を纏ったトゥナズは、頭部が兜、肩が大袖、腰が草摺(くさずり)佩楯(はいだて)を彷彿とさせるので、その出で立ちは透明な甲冑を着た武者そのもの。


「貴様の翼の刃とわしの全身の鎧、どちらが竜の体の武具として上か試そうぞ!!」

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