5章ー24:オニガナシュの戦い(玖)
お互いの特性を露わにしながら見合うスラギアとナルクル。
それはまさに、抜き身の刀を構え合う武者を彷彿とさせた。
霞がかかるオニガナシュの湿地に、緊張の沈黙が流れる。
どちらが先に、仕掛けるか・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「“カワミ流竜術・水裂石火”!!」
先手を打ったのはスラギアだった。
長い身体を縮め、バネのように伸びながらナルクルに突進する。
しかし直線的な攻撃のため、俊足を誇るナルクルにいとも簡単に避けられてしまった。
「“カワミ流竜術・蟒蛇!!”」
次いでスラギアは、首を上げながら大口を開け、ナルクルにのしかかりながら噛み付く。
「どうした?縦にしか打って来んのか?」
スラギアの“蟒蛇”を涼しい顔で避けながら、ナルクルは彼を挑発した。
「横もできるぞ!?」
噛み付き攻撃を止めたスラギアが、ナルクルに右半身を向ける。
そして雷を溜め、一気に体当たりしてきた。
「くっ!」
体当たりするスラギアを飛び越えてナルクルは回避する。
「惜しかったな」
「お前がな」
「ッッッ!?」
避けたナルクルにスラギアは、今度は左半身で体当たりしてきた。
この二撃目はナルクルは避けることができず、帯電状態のスラギアのタックルをまともに受けてしまった。
「“カワミ流竜術・重水鱗打ち【双雷】”。一撃目の後に威力を上げた二撃目を左右の胴体それぞれで行なう二段体当たり。わし独自に編み出した技じゃ。さすがに効いたであろう?」
「ううっ・・・!!」
雷属性が付与されたタックルを受けてしまい、ナルクルの身体が痺れる。
「なるほど、な。齢一歳にしてカワミの家督を継いだだけの男・・・。どうやら思ってた以上に頭が切れるらしい」
「速さではお前には勝てんことは承知。ならば地の利と機転を味方にするのが良かろうて」
「そうか。ならば・・・!!」
ナルクルの目が、更に赤く発光する。
「こちらも面白い物を見せてやろうっ!!」
次の瞬間、ナルクルの身体が・・・消えた。
「なっ、なんだ!?何が起こっ・・・ぐはっ?!」
背中に斬撃の痛みが走る。
スラギアの蓄電殻が根元から斬り飛ばされており、そこから鮮血が噴き出る。
「驚いたか?」
視界の端にナルクルが映り、スラギアは慌てて雷ブレスを吐いた。
しかし赤く光る目の残光だけを残して、すぐさま消えてしまった。
「どこを狙っておる?」
「がはっ?!」
今度は胸に痛みが走り、大きな刀傷が付いていた。
「くそっ!!姿を見せい!!!」
パニック状態になったスラギアが、目の光の残像を頼りに雷ブレスを撃ちまくる。
それは一発も当たらず、逆にスラギアの足や脇腹に生々しい切り傷が次々と開き出す。
「貴様・・・!!一体・・・何をした!?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「なに。光を味方に着けただけだ」
耳元で囁かれたその刹那、とうとうスラギアの首が切り裂かれた。
幸い寸でのところで首を引くことができたが、それでも紙一重。
あと僅かにもタイミングが遅れていたら、確実に頸動脈までいかれていた。
これが“迅将”ナルクルの真骨頂、『集光眼』
身体に反射する光を眼球に集中させ、身体の透過率を100%近くまで上げることでランダムのタイミングで消えることができる。
この際、眼球運動が活発になることで、血管が全て浮き出てウサギのように目が真紅に染まる。
極限まで光が集中することで、漆黒の中でも赤く光る眼だけになぞらえて、ピナースの家臣になる前のナルクルはこう呼ばれ恐れられていた。
“今際の赤星”と。




