5章ー22:オニガナシュの戦い(漆)
リオルとピナースがシノナ領の本陣で激闘と繰り広げる数刻前、ナルクル率いる地上四足飛竜隊は、カワミ・ガルス領の水竜軍とオリワ軍の衝爆銃隊によって追い詰められていた。
「くっ!!退けぇ!!!退けぇ!!!退・・・ゔっ?!」
銃声とともにナルクルの部下の指揮役の頭が撃ち抜かれる。
ぬかるんだ沼地で自慢の脚力が活かせない四足型飛竜。
その逆で水辺に棲む水竜達は、ワニのように腹ばいになって湿地を滑って移動できる。
加えて、高台の鉄砲隊はレムアによってトダン流竜術を応用した二足による衝爆銃の撃ち方を叩き込まれており、味方を誤射しないように正確に飛竜達を安全地帯から狙撃している。
横列に並んで撃ち、終わると後方と交代して最後尾に回って火薬と弾の装填をする。
かの有名な『長篠の戦い』で、織田信長が武田の騎馬隊を追い詰めた、いわゆる“三段撃ち”。
それが二足で撃つ、後に『トダン式』と名付けられる新型衝爆銃の基本戦法だ。
戦国時代の初めから終盤にかけて無敵と称された武田軍の騎馬隊を封じた戦術が、異世界の竜の国の東側で一大勢力を誇っていた大国で、速さが自慢の部隊を追い詰める。
奇妙なめぐり合わせか、それとも地の利を活かした水竜がともに居てくれたおかげ故か・・・。
しかし、敵軍もそれほどヤワではなかった。
シノナ軍の地上部隊を率いる“迅将”・ナルクルが、殿で味方の撤退を支援していた。
「ナルクル様!!」
「小生に構わず、この湿地を抜けろ!数ではこちらが有利!森に入れば、こちらが有利に立てる!」
「りょっ、了解っ!!!」
森に逃げられれば水竜達が不利になってしまう。
しかも奴らが向かっているのは鉄砲隊がいる山。
二手に分かれられれば、鉄砲隊が側面から攻められてしまう。
なんとしても戦局を相手に渡さないべく、水竜達はナルクルの部隊に食らい付こうとした。
「“シノナ流竜術・しなり蛇尾”!!」
硬い鞭のようにしなったナルクルの尾が、追撃する水竜達を薙ぎ払う。
「迅将を討ち取れぇ!!!」
敵の後退を死守するナルクルに、水竜が一斉に向かう。
それを前にナルクルは、右の前足をサッと引いて、人間でいう居合の体制に入る。
「“シノナ流竜術・刻々迅”!!」
力を溜めたナルクルはジグザグ状に飛び掛かりながら、ブレード状になった翼の縁で敵を斬り倒していく。
次々と討たれていく水竜を見て危機感を覚えた鉄砲隊が、ナルクルに一斉掃射を仕掛けた。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「遅い。紙風船でも投げたか?」
ナルクルは前足を軸に数回転し、飛んできた弾を翼の刃と堅い尾で全て落とした。
「“シノナ流竜術・風独楽”」
多数を相手取れるスピード、銃弾を全て落とす動体視力に恐れをなして、水竜達がたじろぐ。
「さっきまでの威勢はどうした?寄ってたかってその程度とは、情けない」
「ならばわしとならどうじゃ?」
「ッッッ!?」
背後から雷ブレスが飛んできて、ナルクルはそれを翼刃で弾いた。
「カワミ領領主・スラギア・・・」
「わしもおるぞ」
ハッと後ろを振り向くと、でっぷりと肥えた濃色の水竜が、他の水竜達を守るように立ちはだかる。
「ガルス領領主・トゥナズ・・・」
敵方の二大将の登場に、ナルクルの顔に緊張の色が見える。
「ロアードル。軍を率いて飛竜どもを追え。何としても奴らを鉄砲隊に近づけるな」
「御意。お二方、どうかご無事で!」
スラギアから命を受けたロアードルがナルクルの部隊を追走する。
「きっ、貴様らぁ・・・!」
支援を妨害されたことに、ナルクルは怒りの表情をスラギアとトゥナズにそれぞれ向ける。
「シノナ領に討たれたガルス領の兵の無念・・・その命で晴らさせてもらうぞ!!」
「どの口が言うか。わしの知己の友を卑怯な手で殺しておいて・・・!」
「“氷将”・ベリスロのことか?」
その名を口に出され、ナルクルは牙を剥いてスラギアを睨みつける。
「激しい怒り・・・。どうやら余程、竹馬の間柄だったようじゃな・・・」
「憐れみの目をするなっ!!貴様に小生の何が・・・!!」
「分かるぞ。わしにも、志をともにする親友がいる。今そいつは、お前達の主君と戦っている」
誰のことを指しているのか分かったナルクルは、激しい炎に包まれる自陣に目をやった。
「かつて敵同士だった二頭の竜が友となる。どうやら小生と貴様は似た境遇の間柄みたいだな?スラギア」
「それは貴様の抱える事情とやらに関係しておるのか?」
その言葉とともに、場の空気が一気に揺らぐ。
「聞き及んで、いたのか?」
「まぁの。お前にはどうにも解せんところがある。強くても、己の身一つで兵を守る将など、今まで戦ったシノナの飛竜にはいなかった。お前はどこか違う。少なくとも、あの寝坊助の大将に仕える家臣の中ではな」
スラギアに指摘され、ナルクルは渋い顔をする。
「良かったら教えてはくれんか?お前はその胸の内に、何を抱えておる?」
ナルクルは顔を沈めて、ゆっくりと口を開いた。
「・・・・・・死なすわけにはいかん。かつての臣民を」
「何じゃと?」
訝しむスラギアに、ナルクルは思いもしなかったことを口走った。
「シノナ領はな・・・元々は小生の治める領土だったのだ」




