5章ー17:オニガナシュの戦い(弐)
飛竜の大国、シノナ領を治める領主・ピナース。
“凶将”として悪名高いゼクライでさえも畏怖する、サンブロド東国最強の亜竜族であり、僕がこの世界に転生してからの十年間で起こった全ての出来事の、元凶・・・。
それが今、目の前にいる。
確かにとんでもねぇ威圧感出してやがる・・・。
だが何故だろう。
この妙な、親近感は・・・。
「あっ、あんたは僕から、何が聞きたい?」
唐突な逆質問に、ピナースの目が意外だと言いたげに開く。
「自分から語るのは苦手か?」
「初対面の相手とはね。下手に不興を買いたくもない」
「賢明・・・というには程遠いな。ただの話下手なだけではないか?」
「コミュ障なんだよ僕は」
「“こみゅしょう”・・・?それもお前の前世の記憶の言葉か?」
「あっ、ああ。信じてくれたんだな。あの話・・・」
「作り話としてはあまりに出来過ぎている。あれが絵空事となれば、武竜などやめて詩家にでもなった方は食える腕前だぞ?」
webで出してる小説が悉くコンテストで落ちた身としては、何とも複雑な気分だ・・・。
「リオル。お前は前世の世、“にほん”と言ったか?何をしておったのだ?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「どうした?黙ってないで話せ。それとも、誇れるような生き方をしていなかったのか?」
「・・・・・・そんなんじゃない。ただ今と比べると、いいモンじゃなかったってだけ」
「何故だ?食うのと寝るのには困らなかったのだろう?」
「日本人・・・その国で暮らす人族の心は複雑なんだよ。周りの目を気にして、生きていくのが精一杯。自分や家族を守るために、ほとんど繋がりのない他者に、心にもない言葉を吐き捨てる。僕はそれが・・・あの世界の全てがイヤになって、死のうとしたが、怖くてできなかった・・・。結果、心を閉ざして生きてくことを選んだんだ・・・」
気持ちを吐露する僕に、ピナースは難しそうに首をひねる。
「なんとも解せんな。食うことに困らず、寝る暇もある太平の世を、何故自ら手放そうとする?食べること、寝ることがこの世にとって最大の幸福のはずだが・・・」
「以前の僕だったら、それに「ンな単純な話じゃないんだよ!!日本人はあれこれしがらみがあって大変なんじゃボケ!!!」って返してたと思うけど、この竜の乱世に生まれ変わって、それがどれだけ平和で、素晴らしいことか分かったよ。僕は僕が生きた、あの世界と同じ平和を、この世界にも創りたい」
「そうか。もう一ついいか?」
「なに?」
「リオル。お前は・・・寝るのが好きか?」
「・・・・・・どうだろう。自殺するまで追い詰められた時は、夜もまともに眠れなかった・・・。だけど、ずっと実家・・・いや生家で休んで、おかげで心に安らぎを感じ始めた時に、陽の光しか入らない薄明るい部屋で横になってる時に、家の横にある小学校・・・ここでいう寺子屋か。そっから聞こえる子ども達の声、鳥のさえずり、網戸から流れる優しい風、掛け布団の温もり・・・。そのどれもが愛おしかった。いつの日か思ったよ。「こういうのを平和っていうんだな・・・」って。手紙にあったと思うけど、だから僕は昼下がりに昼寝をするのが好きなんだ。あの退屈で、平和な時間に、いつでも戻れるから」
「・・・・・・なるほど」
自分語りを終えた僕に、ピナースは穏やかな表情をした。
「わしも昼寝が大好きだ。太陽、風、樹々のせせらぎ、鳥のさえずり。まるで己が、この広い世界と一体となったような、得も言われぬ安心感を感じられる・・・」
遠くを見ながら語るピナースに、僕は身につまされる思いに駆られる。
「なぁピナース。今からでも考え直してはくれないか?僕たち、馬が合うようだし、うまくやっていけるかもしれないんだ。だからもう・・・領土拡大なんか、止めにしてくれないか?」
暫しの間、流れる沈黙・・・。
「お前・・・この期に及んで下らぬ戯言を申すな」
ピナースのつぶらな瞳から、鋭い殺気が出てきて、僕の身体を貫く。
「わしの願いは、わしの好きな安寧の眠りを、自国の民すべてに与えること。それを邪魔立てするやもしれん輩は、どこの誰だろうと・・・叩き潰し、殺すまで!!」
どえらい気迫だ・・・。
ロクに瞬きすらできねぇ・・・。
これが東国最強の飛竜の、恐ろしさの片鱗か・・・!!
・・・・・・・。
・・・・・・・。
やっぱり、殺し合うしか、ないのか・・・。
ヤダな・・・。
本当に、イヤだ・・・。
だって・・・仲良くできると、ちょっと期待、してたのに・・・。




