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5章ー16:オニガナシュの戦い(壱)

 曇りがかった空、朝靄(あさもや)が上る湿地、散見される魚や貝をついばむ水鳥。


 ここが今回の戦いの舞台・・・オニガナシュ。


 田んぼでも作ったら、いいお米が作れそうだな。


 山に囲まれてるから棚田がいいな。


 中学ン時に家族で旅行した、小豆島の中山千枚田みたいな・・・。


「殿?」


「ん?ああ、ごめんごめん」


 アンドラに話しかけられ我に返る僕。


「緊張していらっしゃるのですか?」


「あっ、いや別に・・・!いや・・・そうかもしれない」


「?」


 上の空になってる最中にも、心臓が激しく鼓動を打つ。


 上がりしぃな性格やから、落ち着くために余計な考え事をしちゃうんやろな・・・。


 子どもの頃からの僕の癖だ・・・。


「敵陣は何処でしょうか?こうも霧が深いと見えませぬなぁ・・・」


「おまけにこの下は沼地。水の臭いで鼻が利きにく・・・っ!!」


 雲の隙間から朝日が覗き、徐々に朝霧が晴れてくる。


「なるほど・・・。まぁ、そう思うのが妥当だわな」


 皆、唖然とした。


 僕たちが立っている崖よりも標高が高い山の頂上に、シノナ領の家紋が刻まれた陣幕と、空を行き交う無数の飛竜(ワイバーン)が、眼前にいたからだ。


 戦場を見渡すには、高いトコに陣を張るのが定石・・・ってことか。


 後ろの兵士たちの動揺する声がざわざわと聞こえる。


「狼狽えるな。数は向こうが圧倒的優勢・・・。だが同盟軍も付いていてくれてる。数を見せつけられて、臆病風に吹かれるな!」


 僕が叱咤すると、皆『ピシッ!!』と落ち着いた。


 本当は僕が一番ビビってるのに、よく吹かしたモンだ・・・。


「リオル!」


 樹上からカダチが降りてきて『スタッ!』と音を立てずに着地した。


「ミーノ、カワミ、ガルス領。あと爺やの軍とトビカケ衆、みんな集まってるよ」


「そうか。ありがとう。()()()、全員に伝えた?」


「バッチリ!後はリオル達だけだよ。それで準備万端!」


「ありがとカダチ。じゃあここにいる皆にも伝達して。その間に僕は・・・」


 僕は目の前の山の頂上に陣取ってるシノナ軍を見据える。


「これでそのまま酒を飲み交わすってなれば、どんだけ楽できたか・・・」


「そうぼやくなよカダチ。ほんじゃ、行ってくるわ」


「・・・・・・死ぬなよ。あんたが死んだら、レムア慰めんのはオイラの役回りなんだからね?」


「元よりそんな損極まりないこと任せる気はサラサラないよ」


 カダチと軽口を言い合い、オリワ軍の皆に見送られて僕は崖を下っていった。


 あそこにいるピナース(敵の大将)と、話をするために・・・。





 ◇◇◇





 湿地を超えてる時点で、シノナ軍の飛竜(ワイバーン)達は警戒モードMAXだった。


 しかし、僕が一人でやってきたことに気付くと、攻撃せず上空で注視するのに留まった。


 ピナースから下知が下ったのだろうか?


 いずれにせよ、交渉のテーブルに着ける余地があると分かって安心した。


 僕も戦国慣れしてきたのかな?


 前世だったら、頭の中に「殺される!!」って文字がいっぱいになって立ってるのがやっとだったのに、話し合いの機会が全然あるってだけで、こんなにも安心するなんて・・・。


 常人だったら逃亡、鬱病持ちなら気絶してる状況なのに・・・。


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


「シャキッとしろ!!(リオル)!!」


 自信が付いてきた自分を更に鼓舞するために、僕は自分に言い聞かせ『ぐっ!』と前を向く。


 やがて敵陣がすぐそこまで近づき、僕は一旦ストップした。


 よし!


 いよいよだ・・・。


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


「シノナ領が主君ピナース!!オリワ領のリオルだ!!約束通り、参上仕った!!!」


 大きくはっきりした声で宣言すると、幕が少し開いた。


「リオル殿、お入りを」


 不測の事態に備えていつでも超帯闇形態に移行できるようにすると、僕は陣幕をゆっくりくぐった。


 陣幕ではご立派な兜を被ったシノナ領の幹部の武将たちが集まっていた。


 全員こっちにメンチ切ってる。


 中でも殺意ビンビンな視線を感じた。


「貴様ぁ~・・・!!」


 ゼクライだ。


「この間のことに関してとやかくやりに来たんじゃない。悪いが引っ込んどいてくれ」


「言うじゃねぇかぁ~?おい」


 僕の近くまでズカズカ来て、ゼクライは上から目線でガン付けてくる。


「頼むから止めてくれ。そっちの大将とは話が付いてんだ。お前にだって命令行ってるだろ?」


「ああ、勿論。だがなぁ~・・・羽虫をはたこうとして、()()()()のこのこやって来た赤い地竜(じむし)まで潰したらどうだろうなぁ~!?」


 電気がバチバチこもった翼を僕に振り上げるゼクライ。


 しかし次の瞬間、陣地の奥から『ドォン!!』と何かを叩きつける大きな音がしてその手を止めた。


「やかましい。今、寝てるんだ」


 威圧感がすごい低い声が聞こえ、ゼクライをはじめとしたシノナ領の武将たちが(こうべ)を垂れる。


「もっ、申し訳ございません・・・。オリワ領が領主、リオル殿がお見えに・・・。」


 血の気が盛んなゼクライが飼い主に怒られる犬のようにビビッて・・・。


「ああ、そうか。もう少し・・・!!寝ていたかったのだがな」


『ドスン・・・!!ドスン・・・!!』と足音を響かせて、陣地の奥から一頭の飛竜(ワイバーン)が姿を現す。


 焦げ茶の鱗と甲殻、全身に生えた先端が紫の毒々しい棘、鼻先に縦並びに生えた二本の主棘を持つ、僕より大柄で厳ついその飛竜(ワイバーン)は、見た目にそぐわないつぶらな瞳をしていた。


「くはぁ~・・・!!よいしょ」


 大きなあくびをしてすごく眠たそうに陣地の中心に『ドスン・・・!!』と鎮座する。


「よく来たな。オリワ領の主君よ。わしがシノナ領の領主・ピナースじゃ。さて・・・何から話してくれるのだ?」

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