1章ー8:触れてしまった過去の一端
『二足牛・カウトドンの煮鍋』は見れば見るほど、食べれば食べるほどすき焼きのそれだった。
ちょっとお肉がすき焼き用じゃなくて焼肉用っぽいけど、それでも僕としてはこっちの方でちょうどいい。
霜降りって美味しいのは美味しいんだけど、脂っけが強すぎて、あんまり量食べられないから・・・。
僕としては赤身が多くて、固めなのがありがたい。
「これで卵があればいいんやけどなぁ・・・」
「卵?卵も鍋に入れた方が良かったですか?」
僕の何気ない独り言にレムアが反応した。
食事中でも世話を任された者の言葉を逃すまいと注意して耳を立てているのはいいことだけど、それってちょっとしんどくないか?
「えっ?あっ、いや。ほらこうやって鍋から直接食べるんじゃなくって、といた卵が入ったお椀に移して食べたらもっと美味しくなるんじゃないっかな~って、思って・・・。」
「といた卵を入れたお椀、ですか・・・。煮鍋にそんな食べ方がおありなんですか?お国ではその作法で?」
「いやいやっ。なんっつう~か・・・今パッと思いついただけですよ。それにオリワでは生肉か生魚が主食でしたので、こんな贅沢品なんてとてもとても・・・」
「お口に合いましたでしょうか?」
「えっ、ええっ!とっても美味いです!レムアさん僕と同い年くらいなのにお料理上手なんですねっ!」
「お褒めに預かり嬉しゅうございます。かような半人前の下女がこしらえた物なのに・・・」
本心で言ったんだけどなぁ・・・。
そんな自己肯定感低い返事をされると、なんだか身につまされる。
僕も似たような性格してるから・・・。
ふとレムアの鍋を見ると、なんだか僕より肉の量が少ないような気がする。
「お肉、少なくないですか?」
「えっ。足らなかったですか?」
「あっ、いやそうじゃなくって。レムアさんの、お鍋が・・・」
「ああ。わたくしは構いません。カウトドンの肉なんて、わたくしには過ぎた一品です」
無表情だけど、どこか寂しげな眼でレムアは答えた。
「・・・・・・どうぞ。良かったら、そっちによそって」
心苦しくなった僕は、レムアの方へお膳を寄せた。
「そんな。これはリオル様の分ではございませんか。受け取ることなんかできません」
「気にしないで。なんか、お腹いっぱいになってきて、このままいったら残しちゃいそうだから。『主人が食べきれない分を代わりに食べる』これも立派な奉仕だと思いますよ?」
「・・・・・・承知いたしました。では、ありがたく」
レムアは僕の鍋から半分くらい肉をくわえて、自分の鍋に移した。
良かったん・・・だけど、どうしても命令口調になっちゃうのがなぁ・・・。
同じ地竜の子ども同士なんだから、自分からお願いしてきても全然いいのに。
『世話をする側』と『世話をされる側』だから、言いにくいってのもあるんだろうけど・・・。
なんだかなぁ・・・。
「優しいお方なんですね。リオル様は」
「へ?」
「先程の湯治の件といい、一介の侍女風情であるわたくしを、こうも気遣ってくれるなんて」
「おっ、女の子に優しくするのって、そこまでおかしいことなんかなぁ~・・・」
「城内でわたくしにお優しくして下さるのは、姫様くらいしかいませんでしたから」
「そっか・・・」
男尊女卑・・・いや。ティアスだけが優しくしてくれるってワードから、主従関係がガッチガチに固められてんだろう。
おまけにここは飛竜の城。地竜である僕とレムアは完全な余所者なんだ。
煙たがられてもおかしくない。
「殿の気まぐれなお情けで城に置かせてもらっている身の上ですから、わがままをするわけには参りません」
ん?
ディブロのお情け?
「レムアさん。それって・・・?」
「お食事の席で話すような話題ではございません。どうかお忘れおきを」
「・・・・・・うん」
何か込み入った事情があるみたいだったから、僕はそれ以上聞かなかった。
何より「聞かないで」って言ったレムアの顔が一瞬すごく怖く見えて、聞けなかった・・・。
彼女の知られたくない過去の一端に触れたような気がして、怖さと申し訳なさから、僕はそれから何か話題を出すことはできなかった。
そしてそのまま特に進展はなく、ティアスがセッティングした僕とレムアのお食事会は、そのままお開きになったのだった。




