5章ー15:平定への出陣
夜。
夕飯を食べ、僕は自室で目を閉じ、心を落ち着かせる。
音は無く、瞼越しに感じるのは蝋燭の灯の揺らめきだけ。
「失礼いたしまする」
畏まった態度で、レムアが入ってきた。
「着付けのご用意ができました。リオル様」
「・・・・・・そうか」
目を開けてゆっくり立ち上がり、僕はレムアに付いていく。
いよいよ明日、オニガナシュの地にて、シノナ領との雌雄を決するのだ。
合戦の始まりは明朝。
そう。
これから出陣の時を迎えるのだ。
鎧の着付け室に入り、岩髭達が黙々と僕に鎧を着せていく。
「リオル」
「母上・・・」
鎧を着させてもらってると、ラポリとルビィを連れたハーリアが来た。
「これを着けていきなさい。オリワの領主が大事な戦で振る、“宝刃”です」
ハーリアの手には、枝分かれした刀身が。
淡い金色に光るその刃は、素人の僕から見ても相当な業物であることが窺える。
「ありがとうございます。大切に、お使いいたします」
刃を腕に着けるように岩髭達に頼み、それが済むと僕は、兵が集まっている谷の中央部に向かった。
周囲をかがり火が照らすそこには、オリワ領の地竜兵およそ三千が集結していた。
僕は木でできた朝礼台のようなのに登り、その壮大な光景を見る。
みんなの目はギラついてるが、輝いてもいる。
主君である僕の演説を、今か今かと待っているのだろう。
僕は緊張を落ち着かせるため、ゆっくり深呼吸する。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「皆の者!!僕がこの世に生を受けるより前から、サンブロドの東国はシノナ領の脅威に晒されてきた!事実この国と、我らと友誼を結んだ諸国は、彼らの侵攻を受けてきた。“金砂城巣の戦い”、“バケットガップ海峡の戦い”、“ライロウ・平谷合戦”・・・。父上と兄を殺され、かの脅威の深刻さを思い知った僕は、シノナ領に挑む決意をした。勇み足甚だしいことであったと反省している・・・。だが!!こんな馬鹿な僕を、皆は信じてくれて、その後に続く心強い新参者も名乗りを上げた。感銘の極みであるっ!!!」
オリワ領で生まれ、ミーノ領に人質として出されてから家臣となり、ここに戻って跡目を継ぎ、トダン領を取り戻した・・・この世界に転生してからの十年間が一気にこみ上げる。
「こんな僕を、信じて、従い、付いて来てくれたオリワ家臣と臣民、ミーノ領、カワミ領、ガレス領、トビカケ衆に、オリワ領領主にして、この竜の国を天下統一する地竜・リオルの名の下に約束しよう!決して足を止めない!!!決して尻尾を巻かない!!!決して食らい付くのを止めない!!!最後まで戦う!!!最後まで牙を立てる!!!最後まで爪を刺す!!!向こうにどれだけの大義があろうと・・・必ず勝つ!!!いざ続けっ!!!我が豪傑たちよっ!!!」
兵士たちが「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッ!!!!!」と歓声を上げた。
「では者共ぉ!!!出陣じゃあ!!!」
兵士のブーストが一気に上がって一斉に城門へと走る。
「リオル様・・・!!」
「レムア、母上、ラポリ、ルビィ・・・。行ってきますっ!!」
四人に挨拶をした僕は、台から飛び降り、兵たちをかき分け一気に先頭に躍り出た。
上を見ると、夜空の星々を塗りつぶすほどの黒曜燕蜂が。
いつにも増して羽音が激しい気がする。
そうか。彼女たちも上げているんだな。
鬨を。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「絶対に・・・勝つぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
満月に向かって遠吠えを上げた僕は、決戦の舞台であるオニガナシュを全速力で目指した。
◇◇◇
「殿。お時間となりました」
シノナ領の城巣の大広間では、領主のピナースをはじめ武装した飛竜の武将たちが一堂に会していた。
「町の者たちは?」
「皆、ぐっすり眠っております」
「そうか・・・」
ナルクルから報告を受けたピナースは嬉しそうに微笑んだ。
「ナルクルは地上の兵を率い森を抜けよ。他の者は皆・・・」
広間の大扉が開き、ピナースがゆっくり向かう。
「飛翔せよ。わしに続け」
ピナースは翼を広げ、シノナ領の夜の空に飛び出した。
その後にゼクライら武将が飛び、城巣の下に待機していたシノナ兵が翼を広げて空へと上がる。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「全ては我が臣民の、安寧なる眠りのため」
一万もの飛竜を率いて夜空を飛ぶピナースは、低く唸りながら呟いた。




