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5章ー12:戦う運命なら・・・

「シノナ領を滅ぼすことが、怖い・・・?」


 思い切ってレムアに心の葛藤を伝えた僕。


 彼女はやはり、当惑してる様子だった。


「レムア。お前覚えてる?トダン領に行く途中に抜けた、あの町のこと・・・」


「はい。皆すやすやと、昼寝に興じておりましたね」


「実はさ、あれは何だったのかトビカケ衆に調べてもらったんだ。それで分かったんよ。シノナ領の領主・ピナースが、領民たちに昼寝の時間を設けさせてることが・・・」


「そうだったのですか!?」


 初耳のことにレムアが驚く。


「ピナースが大の昼寝好きだってのはレムアも聞き及んでるだろ?僕はてっきり野郎が自分の楽しみを下々の者達に強制していると思ったんだ。だけど違った。あれはれっきとした、自由時間なんだ。寝るも寝ないもみんなの自由・・・。眠たければ寝て、そうでなかったら寝なくてもいいんだ」


「だけどそれって・・・」


「そう。みんなお昼になったら眠たくなるもんでしょ?何かしなくちゃいけないことでもなければ、みんな寝ちゃうんだよ、お昼には」


 “アフターヌーンディップ”


 人は昼になったら眠たくなるが、あれは食後によるものではなく、()()()()()()()()が生活サイクルの一つに組み込まれていて、根本的に取り去ることはできないと聞いた。


 それがこっちの世界の竜たちにもあるということに、正直驚いた。


 だけど僕が言いたいのはそれじゃない。


「レムア。この戦乱の最中、いつどこから、どこの国が襲ってきてもおかしくない世界で、お昼にぐっすり昼寝なんかできる?」


 僕の問いに、レムアは言葉を詰まらせる。


 そんなこと、できるわけがない。


 僕のいた現代日本は、平和そのものだった。


 仕事のオフの日はお昼を食べ、アパートの万年床で横になり、ベランダから差し込む西日を浴びて、スマホを見ながら昼寝する。


 それが当たり前だと思っていた。


 だけどこっちの世界に転生してからイメージした。


 もし日本が戦争真っ只中で、敵国から中距離弾道ミサイルが飛んできてもおかしくない情勢だったら、呑気に昼寝なんかしてる場合じゃない。


 避難ルートの確認、備蓄品の調達、TVやネットからの徹底した情報収集で、常に気を張らなければならない。


 だから思った。


 あの退屈にして心休まる時間は、()()という単純なワードで表現できるが、ものすごく強固な土台の上に成り立っていると。


「僕には言える。あの日見た光景こそ、僕が成し得ようとしてる平和な世の形なんだと。それをぶち壊しにするのが怖くてたまらない。それを創ったピナースを、この手で殺すことも・・・」


 僕の告白を、レムアは最後まで口を挟まず聞いていた。


「リオル様」


「ん・・・?」


「ピナースが民に平穏を与えたとしても、奴の支配するシノナ領が領土拡大のために、私の故郷を滅ぼし、このミーノ領に攻め入り、オリワ領の跡目争いに介入し、リオル様と友誼を結んでいた東国の諸大竜の領地に戦禍を巻き起こしたことは紛れもない事実。シノナ領は倒すべき仇。それを見失ってはいけませぬ」


 レムアから断固とした意見が飛んできて、僕はホッとしたような、落胆したような、よく分からない気持ちになった。


 そんなの・・・分かり切ってることだ。


 たとえ、どのような理念があって自分の領地に平和をもたらしたとしても、ピナースとシノナ領がしてきたことがチャラになるわけでもない。


「向こうには向こうの信念があった。だから侵略戦争を許せ」なんて、虫が良すぎる話だ。


 ここは竜たちの戦国。


 綺麗事やお涙頂戴で乗り切れるほど、生温い世界じゃない。


 清算のために、シノナ領は滅ぼさなくてはならない。


 僕の、この手で・・・。


「ただ・・・」


 レムアの厳しい表情が和らぐ。


「目指す方向が同じならば、相対して、互いの思いを打ち明けても、いいのかもしれません。戦わなければならぬ運命(さだめ)ならば、悔いなど残さない方がいいのです」


「レムア・・・」


「シノナ領は私にとって故郷の仇であり、リオル様の東国平定のために打ち倒さなければならない敵でございます。だけど・・・」


 レムアは悲しそうな笑顔を僕に向けた。


「そのような心苦しいお顔のまま東国を平定しても、後味悪いじゃないですかっ」


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


「レムア。ありがと・・・。おかげで吹っ切れた。僕やっぱ、ピナースと一度会って話がしたい。それでもって、キッチリお互いのことをよく知った上で、後腐れないケリを着けたい」


「・・・・・・やっといつもの調子に戻られましたね」


 レムアが背中を押してくれなければ、多分ずっと悶々としてるままだったと思う。


 やっぱレムアは一番頼りになる。


 僕のこの世界での初恋相手なだけはあるな。


「では、夕ご飯の支度しちゃいますね」


 席を立ったレムアを僕は呼び止めた。


「ちょっとさ、紙と筆を用意してくれない?」


「何かお書きに?」


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


「ピナースに文を出したい。戦いが始まる前に大将どうし、サシで話したいって・・・」


「はい、ただいま」


 レムアは微笑んで一礼すると、紙と筆と硯を取りに行った。


 さて、どういった感じにまとめようか・・・。

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