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1章ー5:一目惚れなんておこがましい

 レムアの深くて青い瞳が、僕を見つめる。


 そこにはまるで感情がなく、とっても寂しげだ。だけど奥には微かな寂しさを感じる。


 人の過去をいちいち詮索するようなマネは、はっきり言って無作法の極みだ。


 僕自身、人に知られたくないような過去の持ち主だからだ。


 薄っぺらい同情も、テンプレ満載の説教も要らないからだ。だけど僕は、彼女に、レムアに何があったのか知りたいと思った。


 この時点で、僕は既に彼女に惹かれていたんだと思う。


「どうした?かように呆けた顔をしおって」


 ティアスに顔を覗き込まれ、僕はレムアを見つめっぱなしになってたことに気付いた。


 何をやってるんだ僕は。失礼だろ。初対面の女の子をじっと見るなんて・・・。


「惚れおったか?」


「なっ?!何アホなこと言うてんねん!?」


 ふっつ~に言ってくるティアスにビックリした僕は、素の関西弁でツッコんで立ち上がった。


 一瞬ディブロがギロっと睨みつけてきたので、僕は慌てて座った。


「こっ、これはとんだご無礼を!しっ、しかしてティアス様。わたっ、わたくしは決して会ったばかりの女子おなごうつつを抜かすような助兵衛すけべえな男ではござりませぬ!」


「という割には顔が真っ赤ではないか?」


「うっ・・・!」


 僕はティアスに赤くなった顔を見られまいと思い、パッと逸らした。


「よいよいリオル。誰が誰を好きになろうが些事であろう~?」


 ティアスは悪友ムーブよろしく、僕の肩に翼の生えた腕を回してきた。


 いやだから好きになったってワケじゃないんだってば。


 大体僕みたいな、冴えなくて、暗くて、面白くなくて、カッコ悪くて・・・。


 そんなのが女の子とお近づきになれるワケないじゃん・・・。


 前世じゃ彼女なんてできたことなくて、挙句の果てにセクハラ疑惑で一個下の会社の後輩の女子社員から訴えられた男だよ?


 僕は・・・女の子の気持ちが分からないダメな男なんだ。そんな奴がいっちょまえに誰かを一目惚れだなんて・・・分不相応にも程があるわっ。


「レムアはリオルのことをどう思うのじゃ?」


 あっ、それ聞いちゃうの?


 ちょっとの間が空いて、レムアはこう言った。


「わたくしの他に来て下さった地竜ドレイクの同胞。そしてミーノとオリワの友誼ゆうぎの印。大切な客分にございます」


 書面にでも書き表したような、すごく平坦な解答。


 多分・・・いや間違いなく特別な感情なんてこれっぽっちも持ってないんだろう。


 ホッとしたような、ショックなような、よく分かんない気持ちになった。


 でも・・・僕に合ってる答えだなって思う。会社でも、プライベートでも、男女関係は特に障りなく、それでいてつまんない表面上のものだったから。


 レムアが真顔でそんなことを言うもんだから、ティアスはそれ以上ツッコんだことは言わなかった。付き合いが長いのか、それとも女同士だからか分かんないけど、その辺のデリカシーは持ってるみたいだ。


 と、思ったら「おっ!」と何か妙案を思いついたような顔をして、くつろいでいるディブロの方を向いた。


「父上!リオルの扱いについて、わらわに一任して下さいませっ。悪いようにはしませんから!」


「そうだな・・・。よかろう。ちょうど儂も、この者をどう扱うか決めあぐねておったからのぅ。お前の好きにしろ」


「ありがとうございまするっ!」


 ティアスはにんまり笑うと、僕の方を向いた。


「リオルっ!お前はわらわの住まいの隣を使うがよいっ。ちょうど、空いておったしのぅ~」


「えっ、ええっ?」


 こりゃ一体どういうことかと思ったら、ティアスは今度はレムアの方を向いた。


「レムアには、わらわの世話に次いで、新しくリオルの世話もしてもらおぅ~♪同じ地竜ドレイクどうしなのじゃから、勝手は分かるじゃろうてぇ~♪母上には、わらわから話を付けといてぇ~やるっ!」


「承知いたしました。姫様」


 これは一体どういうことかと思っていたら、ティアスは僕の方をまた向いて、「ムフフ・・・♪」と面白そうに笑った。


 そこで僕は、何となくティアスの企みに勘付いた。


 どうやらティアスは、僕とレムアが恋愛関係になることを面白がっているらしい。


 その可能性をちょっとでも上げるために、レムアを僕の世話付きに任命したんだ。


 隣に住まわせれば、僕とレムアがどういった関係になってるかというのも、詳しく知ることができる。


 ティアスにとっては、面白いモノを見れるし、それでいて『地竜ドレイクの男の子』という新しい遊び相手も見つかるから、一石二鳥なんだろう。


 子どもとはいえ、飛竜ワイバーンの国の領主の娘だ。


 中々に頭がキレる。ってか腹黒い。


「せいぜい興じさせてみせよ♪リ・オ・ル♪」


 ティアスが僕に耳打ちしてきた。


 こうして僕は、腹黒悪ノリ姫の戯れにまんまと付き合うハメになったのだ。

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