1章ー3:ミーノの蛮君
城門の前で僕はミーノ領の領主の居城『金砂巣巣城』を見上げて、その壮大さに「ほぇ~・・・!」と唸った。
ずいぶん立派なところにお住まいだねぇ~。僕が住んでた巣城とはエライ違いだ。
あっちはほらぁ・・・一階建てだし。
でもこっちはざっと見ただけで、四階建てはあるよ。
自分の城を悪く言ってるようで、ルータスとハーリアに申し訳ない・・・。
「おい。行くぞっ」
城門で入城の手続きが済んだらしく、僕はまたそそくさと列に戻っていった。
複数ある城門をくぐりながら、僕は城に配備されている兵器や兵士に関心する。
あの大砲・・・デザインはヨーロッパ調だな。ってことはエルフの国から渡来したものだな?尻のところに何かを引っ掛ける輪っかがある。あっ、あそこに爪をかけて発射するんだ。飛竜は手が使えないから。
兵士の武装は関所の足軽と同じように翼に付けられたブレードだな。あれが刀の代わりになってるんだ。あっ、でも背中に槍を背負ってるのも何頭かいるな。
城内の兵士に関しては、日本の戦国時代と違って弓とか火縄銃とか、持ち運ぶ遠距離武器はもってないみたいだ。
「何をキョロキョロしておる。着いたぞ」
城の入口の前に着いた。
なんか前にトサカの生えたカラスみたいな飛竜がいる。
キラキラした袴着てるから結構偉いのかも・・・。
ってか飛竜に袴って・・・。
「ゲレド殿!ご下命通りオリワ領の子息を連れ申した!」
僕を連れて来た四頭の飛竜が頭を下げた。
やっぱこの人らより偉いんだ。
「殿がお目通りしたいとなさっておる。後は某に任せよ」
「ははっ!!」
飛竜達は僕を置いて下がり、ゲレドがこっちに近づいてきた。
「・・・・・・・。」
黄色く濁った眼で僕の顔を見てくる。
「あっ、あの・・・。僕の顔に何か付いて・・・っ?!」
翼爪で思いっきりビンタされた。
「なっ、何をなさるのですか!?」
「浅ましき『死肉食らい』がわしに意見するでないわ。地に口付けるのが地竜の分であろう?ほれ!ほれ!砂利を舐めろっ!!」
クチバシで何発もつついてくる。粘っこくて、甲高い声で笑って罵りながら・・・。
あっ。僕コイツ嫌い。
性格悪すぎ。
ゲレドはひとしきり僕をつついた後、無言で立たせて城に無理やり入れた。
ううっ・・・。不安とイライラでお腹痛くなってきた・・・。
城の中は外見と同じく日本の城とあんま変わらない。だけど窓が少ないからちょっと薄暗いかな。
廊下を通る度にお女中さん達が頭を下げる。
僕じゃなくて、ゲレドになんだろうけど・・・。
はぁ・・・。こんなアウェイな環境で下手すりゃ何年も過ごさなくちゃならないなんて・・・。
頭の中でまた希死念慮が浮かんでくる。
うつ、悪化するかもな・・・。
ゲレドに連行され、僕は城の天守閣にあたる階に着いた。
「殿!オリワ領の地竜の子息、お連れ申したでござる!!」
「入れ」
襖の向こうから象みたいな低い声が聞こえてきた。
ゲレドが襖を翼爪で器用に開ける。
「・・・・・・っ!!!」
襖の向こうで鎮座していたのは、二本の角が生えた大きな黄色い飛竜だった。
戦で折れたものだろうか、片方は短く、いびつに二又に分れている。
上唇からは湾曲した牙が伸びていて、顔の横に置かれた針葉樹の歯を物ともせずにボリボリ食べている。
ゴツゴツした甲殻はところどころ欠けており、幾度の修羅場をくぐってきたことが窺える。
「このお方こそ!『ミーノの蛮君』の綽名を持ち、その名に違わぬ勇猛さを以ってミーノ領を治められる飛竜の長、ディブロ様であらせられる!!」
お座敷の脇に行ったゲレドが、声高らかに口上を述べた。
なぁ。これ・・・入ってもいいんだよね?
ディブロの尋常ではないオーラを前に、僕は部屋の前に立ち尽くしてしまっていた。
「・・・・・・・。」
「・・・・・・っ!」
ディブロのまぶたがピクっと動いたのが分かった僕は慌てて部屋ン中に飛び込んだ。
「あっ、あの・・・」
僕とディブロの間に、重い沈黙が流れる。
その間にもディブロは真っ赤に血走った眼で僕から視線を外さなかった。
「・・・・・・弁えておらぬようだな?」
「っ!」
僕はディブロに対して素早く頭を下げた。
傍から見たら犬が恐怖による服従のポーズを取ってるのに似ているだろう。
ディブロから明確な指図は飛んでない。
ただ『これを一番望んでるだろう』と思って行動したのだ。
僕はもう、『ミーノの蛮君』ディブロに、絶対服従を誓うことしかできない身体になっていた。