1章ー2:飛竜の国・ミーノ
関所を超えて、山の中で野営して、次の日の早朝になって僕達は再び北に向けて歩き始めた。
行けども行けども周りにあるのは山と草原のみ。
ホントにここ栄えてるのか?
案外すんごい過疎地だったりして・・・。
なんてことを考えてると、基礎がなくて柱と屋根でしか建ってない掘っ立て小屋が数軒並んでるところが見えてきた。
小屋の横に畑があるトコもあったけど、全然整備されておらず、雑草ぼうぼうの荒れ放題。
あれは畑というよりも作物が自生してるところにそのまま小屋を建てて暮らしましたって感じだな。
数軒並んでる家々を通り過ぎていると、僕を連れて行ってる飛竜よりも少し小柄な飛竜が身を低くして隠れながらこっちをじ~っと見ている。
「あっ、あのぉ・・・」
「何だ?」
「どうしてあの人達は、まるで怯えながらこっちを見ているのでしょうか?」
「大方、作物が盗られるのを恐れているのだろう」
思い切ってリーダー格の飛竜に聞いたら、別な奴が鼻を「ふんっ!」と鳴らしながら言った。
「卑しい百姓どもが。我らを盗賊と見なしおって」
「仕方ありませぬ。今年は不作の年ですからな。彼奴等も飢えを凌ぐのに必死なのでござりましょう」
「飢えたくなければ、その辺の『落ち竜』でも狩ればいいではないか」
落ち竜・・・。ああ、こっちの世界の落ち武者のことか。
「それもそうですな。しかし!それで我らが狙われてしまわれては元も子もない~!!」
「ふっ。それもそうじゃのぅ」
飛竜の武将たちは、笑いながら飢えている小村を抜けて行った。
どの時代のどの世界にも貧しい人ってのはいるもんだ。しかしそれを放置ってのは納得できねぇなぁ~・・・。
あの飛竜の農民たち、肋骨が浮き出るほどガリガリだったぞ?
小っちゃい子もいるってのに・・・。
なんかいい方法ってのは、ないもんかね~・・・。
「どうした?左様な深刻な顔をしおって」
「いや、まぁ~・・・あの人らが、不憫で・・・」
「百姓如きを気にかけるとはお主も酔狂な奴よのぉ。我らには何ら関係ない。ただその年の年貢さえ納めてくれたらいいだけの話」
「だっ、出せなかったらどうするんですか・・・?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「出せないなどとふざけたことは罷り通らぬ。否が応でも出してもらう。たとえ飢え死にしようとな」
リーダー格の飛竜はそれ以上何も言うことはなかった。
ああ。ダメだ。
完っ全にコイツ等、戦国時代の武将そのままの考え方してる・・・。
◇◇◇
胸糞悪い気分をしたまま道を進むと、木造の入口が付いたほら穴みたいな家が建ち並ぶ町についた。
町民はみんな飛竜で、眼鏡をかけたり頭に櫛みたいなのを付けているのが多く行き交っている。
ここがミーノの城下町っていったところか。
なんか子どもの頃にいった太秦映画村みたいなところだな。
家はあんなトールキンの世界に出て来るようなものじゃなかったけど。
「魚いいの入ったよ~!!今日は大口ダイがおすすめでぃ~!!」
「白粉の新作出て参りまする。この機会に是非」
マジで店の売り子もみんな飛竜なんだな。
にしても・・・エライ栄えてんな。
オリワ領と比べたら大違いだ。
こうなんか・・・「活気に溢れてる~!!」って感じがして。
でもなぁ~・・・。山間部があの有様じゃあなぁ~・・・。
貧富の差がかなり離れてる。
もっと平等に暮らしが豊かにならないと、『いい国』って呼べないんだよ。
昔の日本もこんな感じだったんだろうけど、何分こっちは令和の時代から来たもんだからなぁ~・・・。
自分の住んでた国と似たような国で目に見えて格差ってのが広がってるってのは・・・どうももどかしい・・・。
「着いたぞ」
「へ?」
「なんだその腑抜けた面はっ!?店の食い物にでもうつつを抜かしておったかぁ~?早う来んかいっ!!」
「はっ、はい~・・・」
止めろよ怒鳴んの・・・。
うつ持ちはちょっとでも怒鳴られただけで心が『ドーン!!』ってなって胸がバックバクになって、めっちゃブルーになんだからさぁ・・・。
急いで列に戻った僕は、目の前にそびえ立つ建物を見上げた。
石垣が敷いてあって、その上は木と砂づくり。周りは堀で囲まれてあって、屋根はなんと瓦葺だった。
ほとんど日本の城と変わらなかったけど、違う部分もあった。
建物のところどころから樹が飛び出ていて、それが妙に『生き物の棲み処』感を表現していた。
「こっ、ここは・・・」
「ミーノ領の領主、ディブロ様の住まう『金砂巣城だ。今日からお前は、ここに住む」
目の前の巣の城はその異名通りに、微かに黄金色に輝いて見える気がした。