1章ー1:関所にて
はぁ~・・・疲れた・・・。
かれこれもう半日以上歩き続けてるからな。すんごく足が痛くなった。
草原地帯を北に進んで進んで・・・。それでもまだ飛竜の国・ミーノは見えてこない。ホントにこっちで合って・・・いたっ!?
「休もうとするなトカゲが。置いて行かれたいか?」
後ろを歩いてる飛竜の武将にケツを蹴られた。
こっちは子どもだぞ。ちょっとは良くしろよ。
「すっ、すいません・・・」
「ったく。何故我らがこんな地竜の童のお守りをせなならんのだ?」
「ここで食い殺してもばれないのではないだろうか?「道中飢え死にした」とウソをついてな」
おいおい物騒な方向に話が進み出したぞ?
「貴様ら」
リーダー格の飛竜が軽口を叩き合う部下の下にやってきた。
「殿からのお役目を忘れたか?こやつはオリワが我らミーノに忠義を尽くすという大事なお印。言わば『手土産』じゃ。軽率な物言いをするでないぞ」
「もっ、申し訳ござりませぬ」
リーダーはそう釘をさして列の先頭へと戻っていった。
良かったぁ~・・・。
一番上がまともで。
いや。こいつにとって僕はあくまでルータスがミーノの領主に同盟を結びますっていう献上品なんだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
物同然の扱いをされて、全っ然嬉しくないし、むしろムカつく。
はぁ~・・・!!もう。
マジで早く着かないかなぁ・・・。
うんざりしてると、そう遠くないところに木でできた門が見えてきた。
よく目を凝らしてみると、両側に頭に陣笠みたいのを被って翼爪にブレードを付けた飛竜が控えている。
あれは・・・『関所』ってやつか?日本の昔の国境線を取り締まって荷物とかを改める・・・。
つまりあそこが、ミーノ領とオリワ領の境界線ってわけだ。
案の定僕達は、関所を守っている足軽飛竜に止められた。
「オリワに遣わされたディブロ様の使者である。関所を開けよ」
「荷はなんでございましょうかな?」
「地竜どもからの手土産じゃ」
リーダー格の飛竜がそっと横にそれて、僕を足軽飛竜に見せる。
足軽飛竜は僕達の列に半歩近づいて、僕のことをじっと見てきた。
「・・・・・・お役目ご苦労様でございます!!どうぞお通り下さい!!」
しばしの沈黙の後、足軽飛竜はめちゃくちゃキリっとした動きで関所の脇に移動して、僕達を向こう側に通した。
門を超えたところで、僕はふと振り返って、生まれ育ったオリワの地を眺める。
ほんの一年。しかもほぼ外に出なかったけど、いい思い出できた。
脳裏をよぎるのは、生まれた時に初めて異世界の世界の両親であるルータスとハーリアを見た時とルビィと古巣谷で遊んだ時の光景。そして別れ際に、ハーリアとラポリとルビィから、守り爪をもらった時のこと。
鈍く黒く光って、少し欠けた鋭い爪は、今も僕の右手の中指でキラリと輝いている。
僕はそれを、左手でギュッと握りしめる。
心細くならないために。
「故郷との別れは済んだであろう。さっさとゆくぞ」
リーダー格の飛竜に翼で頭を前に半ば強引に戻された。
ちょっとはおセンチな気分に浸ったっていいじゃないか。ったくもう。
こうして僕は、不安と寂しさでいっぱいになりながら、飛竜の領土に足を踏み入れたのだった。