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序章ーEND:守り爪

 翌朝。まだ陽が昇りかけていない早朝に僕のミーノ領行きの儀が厳かに行なわれた。


 僕の衣装は、申し訳程度に被らされた鉄兜のみ。


 聞けばルータスが子どもの頃に初めての戦の時に被っていたものなのだとか。


 顔の上半分にちょっとフィットする程度にぶかぶかで、なんか上顎辺りが蒸れる。


 こんなの戦の時に毎回毎回被んなきゃいけないなんて不便だなぁ・・・。


 な~んてことを考えながら、僕はルータスの家臣の地竜ドレイクをぞろぞろ引き連れながら、父であるルータスにぴったりくっついていく。


 ハーリアは・・・結局お見送りには来ないみたいだ。


 そりゃそうだ。


 息子が身売りされる現場を見に来る母親がいるわけないもんな。


 辛すぎるし、なにより昨日あんなことがあったんだから・・・。


 谷間を抜けて町に出てみると、みんなド早朝だというのにお見送りに出てきて驚いた。


 まだ寝てていいのに・・・。


 眠たいにもかかわらず、粛々と頭を下げる町の人にすんごく申し訳なく思ってしまう。


「リオル、いよいよだ。しゃんとしろよ」


 町の出口に、ミーノ領の武将と思しき飛竜ワイバーンが四頭待っていた。


 みんな全身を鎧でがっちがちに固めている。


 オリワ領と比べて、すんごい軍事力があるんだろうなぁ~・・・ミーノは。


 四頭の飛竜(ワイバーン)の前でこっちの行列は止まり、ルータスはその内の一頭と対面して一礼した。


「ミーノの飛竜ワイバーンよ。此度は我がオリワとの同盟、改めて礼を申す」


「世辞は結構。とっとと『印』を渡してもらおう」


「・・・・・・・」


 ルータスは僕に前に出るように促して、僕はその通りにした。


 鎧兜のくり抜かれた部分から黄色い眼が、僕をジロジロ見つめてきた。


 やっば・・・緊張で、吐きそう・・・。


「ふん。赤土にまみれた子鼠のような風体をしておるのぅ。かような代物が貴様らの忠義の印とは、殿も酔狂が過ぎようて」


「貴様っ!若を愚弄する気か!?」


 後ろ手前にいた家臣が我慢できなくなって出てきた。


 現場が一気に緊張が走る。


 人間に当てはめたら刀を抜く寸前の空気感だ。


「ブルゴ、刃をおさめよ」


「しかし殿・・・!!」


「おさめよと申しておる!」


「・・・・・・承知」


 ルータスがその場を収めてくれたおかげで、なんとか殺し合いにならずに済んだ。


「我が家来の不始末、どうか容赦してくれぬか?」


「・・・・・・ふん!」


 頭を下げて詫びを入れるルータスの顔を、飛竜ワイバーンは翼で思いっきり張り倒した。


 また一気に緊張が走るが、ルータスが制したおかげでさっきみたいにならなかった。


 まずい・・・。向こうこっちを相当したに見てる・・・。


 僕こんな連中のトコに送られんの?


 やだ。


 やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ。


 逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい。


 結局生まれ変わっても何もいいことなかったじゃん。


 こんな薄情極まりない連中に身売りされるなんてよぉ・・・。


 この先・・・何にもいいことなんかないんだ。


 前世でも、異世界でも、どこにいっても、恵まれないのが、僕の人生・・・。


 もうやだ・・・。


 何もかも・・・やだ・・・。


 ・・・・・・・


 ・・・・・・・


「・・・・・・え?」


 うずくまりながら泣いてると、誰かが僕の手を握ってくれて、顔を上げると、そこにはハーリアとラポリ、そしてルビィの顔があった。


「母上・・・。ラポリ・・・。ルビィ・・・」


「顔をお上げなさい。おのこでしょう?」


 顔を上げてゆっくり立ち上がると、ルビィが僕に小さめの竜の爪を渡してきた。


「これは・・・?」


「お父さんの形見です。私が生まれた時にお守りとしてお母さんがくれました。どうか・・・若様に受け取ってほしいのです」


「・・・・・・うっ、受け取れないよ」


 だってこれはルビィにとっての守り刀・・・こっちの言い方でいうなら『守り爪』になる。


 そんな大事なものを、受け取れるはずなんかないよ。


 返そうとした僕の手を、ラポリがそっと止めた。


「お受けになって下さいまし。この子のため、あなたのために」


「でっ、でも!昨日会ったばっかなんだよ?ルビィはそんなヤツにお父さんの形見、渡しちゃうの?」


「若様はあたしにとって大事なお友達ですからっ」


 大事な・・・友達・・・。


 その一言で、僕の目の前の景色が、とっても明るく、暖かくなったような気がした。


 初めてだ。


 自分以外の人から、そんなことを言われたのは・・・。


 するとラポリが、「失礼いたします」って言いながら、僕の指にベルトでルビィの守り爪を着け始めた。


「昨日奥方様と夜なべしてお作りしたのですよ。若様のお指に合うようにって」


 ハーリアと・・・ラポリが・・・。


「よしっ!できましたっ。どうですか若様?お合いにでございましょうか?」


「・・・・・・うん」


 着け心地を確かめていると、ルビィが僕を慣れない仕草で『ぎゅっ』と抱きしめる。


「ルビィ・・・」


「早く帰ってきて下さいねぇ~・・・?また古巣谷で鬼ごっこしたいですからぁ~・・・」


 笑いながら言うルビィの顔は見えなかったけど、声は震えていた。


「うん。帰ってきたらまた遊ぼ」


「約束ですよぅ~・・・」


「うん。約束」


 ハーリア達との別れをすませた僕は、ミーノの使者の下へと向かった。


「じゃあ・・・行って参ります」


「武運を・・・祈っておる」


 ルータスに力強く頷いた僕は、振り返ることなくミーノの使者と出発した。


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


 いいことなんかないと思ってたけど、少なくとも日本にいた頃よりはいいことあった。


 久しぶりに親からめいっぱいの愛情を受けた。


 子どもの頃に戻って遊ぶことができた。


 同い年の女の子の友達ができた。


 大事な人からお守りをもらった。


 前世で、うつで苦しんでた頃より、えらい違いだ。


 あの頃は、毎日が色あせてて、「自分なんか無価値だ。居てもいなくも一緒。社会の不良品で、誰も大切になんか思ってくれない」って、自分で自分を卑下してばっかだった。


 でも・・・今は違う。


 僕のことを心から想ってくれてる人がたくさんいて、僕はその人達から確かに愛されている。


 この先、何が起きるかなんて正直分かんないけどさ、この世界でできた夢・・・『天下太平の世の中』を作っていこうってヤツ。


 それをもうちょっと頑張ってみようっかな。


 ほんのちょっとの一歩一歩を、大事にしながら・・・さ。

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