プロローグ
スマホのアラームが軽快になる。
そろそろ起きなきゃ・・・。
しかし僕はスマホを取ってスヌーズ画面を押すと、また布団に潜った。
会社なんか行きたくないよ・・・。
薄給だし体力キツイし、パートのおばちゃんは僕にガミガミうるさいし・・・。
何が「世間じゃパワハラはよくない言うけどアタシにはそんなん関係ないから。できないヤツが増えんのが問題だから。甘えられると思うなよ。」だ。
こちとら別に怠けたくて怠けてるワケじゃないんだよ。
うつでやる気出ないんじゃボケ。
それを怠けてるって決めつけてもらったら敵わんわ。
このまま会社ズル休みしちゃおっかな~・・・。
でもそしたら今度は課長が怒っちゃうんだよな~・・・。
あの人基本は僕に優しいから怒らせたくないんだけど・・・。
はぁ~・・・いっそこのまま・・・死んでしまった方が楽なんじゃないか。
ズル休みしたその足でホムセン行って、練炭大量購入して風呂で焚いて、そのまま安らかに・・・。
一酸化炭素中毒って意外と苦しまないって聞いたからな。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「起きよっ。」
結局度胸が湧かなかったので僕は布団から出て、おとなしく会社に行くことにした。
昨日の帰りのスーパーで買ったバターロール6個を5分で食べて、歯磨いて着替えて、「いってきます。」って誰もいない狭いアパートの一室に向かって言って、車に乗り込んで会社に向かう。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
車を運転している時に、僕は特に理由もないのにすすり泣いた。
僕の人生何がどこを間違えちゃったのかなぁ・・・。
関西で結構名の知れて、レベルがそこそこ高い大学を出て、大手ゼネコンのグループ会社に就職したまでは良かった。
ところが仕事の報告は疎か、会議中に居眠りする、免許必須だったのに大学の時に取ってなくて結果一ヵ月休職。
ここまで来るとなんか針のむしろだったから、世間で最近流行ってる退職代行使って止めた。
二年目の春のことだった。
あの時は社会からのしがらみから解放された気分で嬉しかったなぁ~・・・。
ところが親がそんなこと許してくれるはずがなく、仕方なく地元の測量会社に三ヵ月で再就職した。
そこで待ってたのはパワハラの嵐。
「死ね!!」とか「ボケ!!」とか言われるのは当たり前。
測量の機械って一回でも水平レベルが狂ったらまたイチからやり直さなくちゃいけないから、むっちゃくちゃしんどいんだよね?
にも関わらず、コンクリ張る前の足場がグラつく鉄板の上に立ってレベル狂わしちゃったっけ。
その時初めて職場の先輩から「殺すぞ!!」って言葉飛んできたわ・・・。
小太りのヒゲ面の大阪のおっさんから「殺すぞ!!」だよ?
マジ信じられへんわ・・・。
そんな日々にとうとう我慢できなくなって、家でネクタイ使って死のうと試みた。
こんな日々を過ごすくらいなら死んだ方が絶対楽になれると思ったからだ。
だけどネクタイで首吊んのって相当な苦しみだったから怖くなってやめた。
そっから親に全部打ち明けて、メンタルクリニック行ったら『うつ病』の診断をもらった。
正直僕は「やっぱりか・・・。」としか思わなかった。
で、そこから傷病手当もらって休職して、そのままその会社辞めた。
ちょうど入社して一年経った日にだ。
会社を辞めても傷病手当はもらえたので、そのままズルズル家に引きこもり続けた。
こん時の僕は「社会なんか二度と出るかぁ!!」って思った。
そこからは午前中にアニメ見て、午後は家の近くにあるショッピングモールのカフェでweb小説の執筆。
多分だけど、あの時が人生の中で一、二を争うくらい輝いていたと思う。
こんな日々が、ずっと続きますようにって願ってた。
だけどこんな・・・アクティブニート以外の何物でもない振る舞いを親が看過してくれるはずもなく、「再就職するか弁護士相談のもと不法侵入者と同列の認定を受け追い出されるか。」の二択を迫られ、兼ねており興味があった養鶏会社に退職から九ヶ月後に再々就職した。
初めの内は良かった。
ずっといた大阪を離れて埼玉に行き、新天地で自分の興味のある職種に就いて張り切っていた。
だけど僕という人間はどっかで必ず粗が出て来るらしく、就職して半年くらいで職場での当たりがまたキツくなった。
それが上に書いた『ガミガミおばさん』だ。
職場でちょっと要注意なお局おばさんだったらしいのだが、親しい人に明るくケラケラ笑うあの人を見て、心がささくれる・・・。
今は埼玉に通っている心療内科で処方された薬を飲んでギリギリ踏ん張っているところだ。
はぁ・・・。
一体僕の人生、どこで何を間違えちゃったのかなぁ・・・?
もっと就活頑張ってれば、やる気持てる会社に就職できたのかなぁ・・・?
新卒で入った職場、大学からのコネ入社だったし。
それとも九ヶ月のニート期間でもっと入る会社を吟味しとけばこんなことにならずに済んだのかなぁ・・・?
それとも・・・あの時死んどけば、こんなことには・・・。
したいなぁ・・・『異世界転生』。
アニメめっちゃ好きだから、ああいうのにすっごい憧れる。
可愛いヒロインに囲まれて、冒険したい。
あ、でもスローライフってのも悪くないな。
どっかで土地持ってさ、養鶏やって農業やって・・・。
異世界のニワトリが狂暴じゃなかったらいいけど・・・。
それかさぁ~・・・。
ドラゴンに生まれ変わって、大空を飛び回って、世界中を旅したい。
何物にも縛られない生活ってのにずっとずっと憧れてたから。
行く先々で困った人を助けてさ、友達になって・・・あっ、でも僕コミュ障だから友達とかできないか・・・。
だったらせめて感謝されて、「ありがとう。」の一言くらい貰いたい。
そしたらさ、こんな人生よりも、少しは輝いているってなもんじゃないの?
「って・・・うわっ・・・!!!」
色んな考え事をしてて注意散漫になってた僕は、峠道の急カーブを曲がり切ることができず、ガードレールを突き破って、崖を転がり落ちた。
エアバックが飛び出て今まで味わったことのない浮遊感と衝撃、そして痛みを感じた。
ゴロゴロ転がる車の中で、頭に『ガツン!!』と最大級の衝撃と痛みを受けて、僕は意識を一瞬で手放した。
主人公の境遇はほぼ筆者のノンフィクションです。
気分を害されてしまったら、誠にすみませんでした。