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【第1話】学園一の完璧令嬢、ピンチ!

 わたくし、白鷺麗奈しらさぎ・れいなは、この学園で最も優雅にして、高貴なお嬢様として名高い。


 所作は優雅に、言葉遣いは丁寧に、成績は常にトップ。


 そう、完璧な令嬢なのだ。


「おはようございます、麗奈様! 今日もお美しいですね!」


  「そのスカーフ、今年のシーズンの新作ですか!? わたし、予約できなかったのに……!」


 取り巻きたちが黄色い声を上げては、わたくしの優雅な一日が始まる。


 ここまでは、いつもの光景だった。そう、“あの日”までは。




「……はじめまして! あの、俺っ、ずっと気になってました! 好きです!! 付き合ってください!!」


 おや?


 下駄箱の前で正面から告白してきたのは、地味で、安物の制服を着こなせていない……


 そう、見るからに庶民の転入生だった。


 名前は、確か……如月直人きさらぎ・なおと


 背はわたくしより少し高く、声もよく通る。


 けれど服も靴もカバンも、どれも質素。ハンカチに至っては手縫いらしく、刺繍の端がほつれていた。


 ……一目惚れとは罪だわ。


 庶民風情が、わたくしのようなハイブランドお嬢様に手を出そうだなんて。


 いつもなら笑ってあしらうところだったけれど……


 どういう風の吹き回しか、わたくし、こう答えていたのだった。


「……条件が、ございますわ」


「じょ、条件?」


「わたくしの“本性”を知っても、絶対にドン引きなさらないこと。それが第一条件ですの」


「……本性?」


「ふふ。お楽しみは、次のお休みの日にでも」


 こうして、わたくしは自ら、秘密の館(という名の一軒家)に庶民男子を招いてしまったのだった。


 ◇◇◇


 その朝、わたくし……白鷺麗奈は、紅茶片手に盛大に頭を抱えていた。


「どうして、あんな条件をつけてしまったのかしら……ッ!」


 つまり、庶民男子・如月直人に対して「わたくしの本性を見てから判断なさい」と啖呵を切ってしまったのだ。


 優雅な微笑みを浮かべながら、ふんぞり返って。


 だというのに、現実は……


 リビングには漫画の山。紅茶セットはホコリをかぶり、カーテンは中途半端にしか開かない。


 階段には脱ぎっぱなしのルームウェアが転がり、電子レンジにはコンビニ弁当の残骸。


 完璧令嬢・白鷺麗奈の正体とは、


 ・整理整頓ができないズボラ

 ・掃除が壊滅的に苦手

 ・ゲーム、アニメ、BLに詳しすぎる

 ・生活能力、ほぼゼロ


 という、怠惰の申し子そのものだった。


 ピンポーン、とチャイムが鳴る。ついに、その時が来てしまった。


「……時間通りに来るなんて、律儀な庶民。嫌いじゃありませんことよ……」


 重い足取りで玄関のドアを開けると、そこにはスマホを片手に立ちすくむ直人の姿。


「お、おはようございます、白鷺さん……すごい、まさに日本のお屋敷って感じで……」


「ごちゃごちゃ言ってないで入りなさいな。門を開けたら閉める、それがマナーですわよ」


 彼は素直に頷き、靴を脱ぎながら辺りをキョロキョロ見回した。


「えっと……ここ、白鷺さん一人で住んでるんですよね?」


「もちろん。お嬢様として自立は当然の嗜みですもの」


「……なんというか……自立っていうか、サバイバル?」


 ズケズケとものを言うのは、やっぱり庶民。


 けれど、不思議と嫌な気はしなかった。


「……もし、これが“本性”ってやつなら、俺、好きかもしれない」


「は、はぁ!? なにを……」


「掃除、させてください! 俺、こういうの得意なんです!」


「だ、ダメッ! そこは開けてはダメ! 魂の……魂のグッズ部屋なのですわ!」


「えっ、グッズ? ……うわ、すご! 推しカプで整理されてる! てか、プラモデルも! この量……床、抜けない?」


「もう抜けてますわ……」


 直人は笑い、わたくしは顔を覆った。恥ずかしさと、ほんの少しの安堵が入り混じっていた。


 完璧な仮面は崩れたけれど……それでも、彼はそこにいた。


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