第98話 のぼせそう
「ん、羽依、くすぐったっ、ひゃん! 」
「んふ、真桜の弱いところはチェック済み~!」
……俺は一体何を聞かされてるんだ。
背後では、美少女二人が全力でスキンシップ中。
……なんで俺だけ壁見てるんだ。刺激強すぎるんだけど。
真桜の家にお泊りして、お風呂を先に頂いたところを、小悪魔二人が乱入してきた。
多分この二人は俺のこと男と認識してないのかな。特に真桜。羽依は恋人同士だし、何度か一緒にお風呂に入ったことはある。
真桜とはこれで2度目か。一回目は夏の旅行の時だ。あの時もバスタオルを巻いていたけど、最終的には羽依に外されてたな。
俺のユニークスキル|“大事なところを見ない鉄の意志”《エターナル・ピュリティ》が発動しなければ、二人とも羞恥で悶え苦しむところだぞ。俺に感謝しろ。
「真桜、ちょっ! そんな、もげる!」
「ふふ、もっと大きくしちゃおうね」
もげっ!? もげるって何っ! 一体何してんの!?
ああ、もう気になる! 振り返ればきっと天国のような光景が広がっているんだろうな。
俺はただ、声を頼りに妄想するしかできない。いや、それだけでも刺激が強すぎるんだけど。
シャワーの音が聞こえる。ようやく淫欲の宴が終わったようだ。……さすがにそれは言い過ぎか。
女の子同士ならよくある普通のスキンシップなんだろうな。
「んっ、ちゅ」「んん……」
……。
普通……なんだよな……。
「蒼真、ちょっと目をつぶっててね」
「え、あ、うん。」
すぐに二人が湯船に浸かるのが分かる。
……挟まれてる?
「良いよ~大丈夫」
右には羽依、左に真桜。二人とも乳白色の湯なのを良いことに、バスタオルを巻いてなかった。
「広いお風呂はいいね~! 泳げそうだよ!」
「小さい頃、この家に泊まりに来たときは泳いでたわね。懐かしいな」
真桜は明るんだ頬に笑みを浮かべる。
こうして3人で浸かると、まるで家族で入っているようだ。
「蒼真と羽依って正直どこまで進んでるの?」
突然真桜がそんな事を聞いてきた。さすがにそれはプライバシーに関わるからな。ちょっと教えられないぞ。
「前に言った時から進展なしだよ。キスとちょっと触れ合うぐらい。蒼真はヘタレだからね~」
……羽依がそんな失礼なことを言ってけらけらと笑う。むう、まだヘタレ呼ばわりするか。返上したはずなのに。
「キスして触れ合うなら私のがリードしてるんじゃないの?」
「あ、そうだね! 蒼真、真桜に負けてるよ!」
「ええ!? 触れ合うってどの程度触れ合ってるのさ!?」
「……すみずみまで」
消え入りそうな真桜の声。顔が真っ赤なのは湯当たりなのか羞恥のせいなのか……。
「すみずみ!? それって全部?」
「お互い頭も体も手で洗ったからね~。そりゃもう全部だよ」
「……仲が良いよねホント」
全く悪びれない羽依に対して、俺はどう言ったものかと思ったが、別にこれっぽっちもヤキモチ焼く気にはならない。
それは女の子同士だからと言うよりも、真桜だからなんだろうなとは思う。
ふと、湯の中で真桜が俺の手を取った。そのまま自分の方に手を引き、太腿にあてがう。柔らかくもハリのある感触に心臓が大きく跳ねた。
はっとして真桜を見ると、俺と視線を合わせず、口を真一文字に閉じて耐えるような表情をしている。無理してないのかな……。
そうしてるうちに、今度は反対の手を羽依が掴み、同じように太腿、いや、やや内腿あたりに手をあてがった。
「んっ、ちょっと小指当たった……」
なんだこの状況……。二人示し合ったのかこれ……。
家族でお風呂だなんて呑気なこと考えてたのは俺だけだったのか……。
考えてみれば若い3人、裸で風呂に入り何事もないはずもない……のか?
だめだ、理性が飛ぶ。俺は試されているのか? いや、もう試すってレベルじゃないだろう。彼女たちが何を求めているのか理解に苦しむ。
「……そろそろお風呂出るね。のぼせそうだ。二人は目を逸らしてくれると嬉しいな」
そう言って湯船から出て風呂場を後にした。ちなみに彼女たちは一切視線を逸らさなかった。
風呂場からキャーキャー言う声が聞こえるが、もう知らん。
――――――――
「んふ、“蒼真の野生が目覚めるまで悪戯作戦”ミッションコンプリート!」
「あはは……。でも、確かに野生化してたわね。あんなふうになるのね……。旅行のときは布団越しだったけど、実物ってすごいわね……」
「ねー! ちょっと触ってみたいなって思っちゃった」
「旅行の時に悪戯しまくってたじゃない。ビクンビクンして怖くなったけど」
「あれねー。寝起きの蒼真、焦ってて可愛かったな~」
「――羽依は嫌じゃないの? 私がその、見たり触ったりするの」
「真桜なら良いの。他の人なら絶対許さないけどね。それに私も真桜とキスしてるんだし、蒼真としても怒ったりしないよ」
「貴方の彼氏なのよ。さすがに戸惑うわ」
「細かいこと考えずに一緒に愛し合おうよ。多分それが私たちの“正解”なんだから」
「――そんな選択もあるのかしらね」
「他の男も女もいらない。――私は二人とも手放さない」
「――強欲ね。でも羽依らしいのかも。私はそんな羽依が好きなんだろうな」
「のぼせそう! そろそろ出よっか!」
「そうね……私はとっくにのぼせてるわ」
面白いとおもっていただけたら、ブックマークをしてもらえると励みになります!




