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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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第96話 真桜の部屋

「どうぞ、殺風景かもしれないわね。実家の部屋はもう少し女の子らしいんだけど」


 少し照れたように自分の部屋に案内する真桜。

 和室のさっぱりした空間に女の子らしいぬいぐるみがいくつか飾ってあった。部屋はかなり広く、畳の上に可愛らしい黄色地にくまのイラストが入ったラグが敷いてあり、その上にローテーブルが置いてあった。

 居間と道場は毎週来ていたが、真桜の部屋には初めて入った。


「うわーすっごい真桜臭がするね――ぐおぉっ!ぉぉぉ……」


 俺の言葉が終わると同時ぐらいに、とてつもないボディーブローをお見舞いしてくれた……。くっくるしい……。彼女には加減というものを覚えてほしい……。倒れてのたうち回る俺を冷たい目で見下す真桜。


「大げさよ蒼真。鍛え方が足りないんじゃないかしら。明日みっちり鍛えてあげるから」


 俺の脇腹をつんつんと突きながら、羽依がクスクス笑う。


「ちょっと前に匂いのこと言って怒られたのに、懲りないね~蒼真は」


「いやだって、全然臭くないよ。むしろずっと嗅いでいたいような――ぶふぉ!」


「評価されるのが嫌なのよ! ばか!」


 倒れているところを追撃する真桜。やっぱこの子怖い……。



 テーブルの上にファストフードでテイクアウトしたハンバーガーを並べる。お店で食べればもっと美味しく食べられただろうけど、時間も遅いし、なるべく早く落ち着きたかったのもあった。


 俺はてりやきとチーズバーガー。羽依はアボカドバーガーを一つだけ。真桜はその3つを一人で買っていた。


「貴方達それで足りるの?」


 真剣な眼差しで心配してくる真桜。いや、足りるだろう?


 晩御飯のハンバーガーを食べながら、ついさっきの事件の続きを話す。正直言えば気持ちを切り替えたかったけど、流すにはもう少し心の整理が必要だった。


「ほんと一体なんなのかしらね……。この学校って私が思ってるより荒れているのかしら……」


「真面目な生徒とドロップアウトした生徒の2極化の面はあるかもね。進学校で勉強についていけなかったり、部活の推薦で入ったは良いけど、やっぱりついていけなかったりとか」


「今日のは単純に暴行目的だったよね……あのまま最後まで誰も来なかったらどうなってたんだろう……うぅ、怖いよ……」


 隣に座る真桜に、そっと寄り掛かる羽依。真桜の美しい正座姿はびくともしない。体幹すげえな……。


「思い出しちゃったわね……。でも、今日の男とは少なくとも学校では会わないんじゃないかしら」


 まああの内容ではおそらく一番厳しい処置になりそうかな。羽依への脅迫、軟禁。俺への暴行未遂。加えて盗撮と。真桜も盗撮写真は確認していたから言い逃れも不可能だ。


「よくもまあ学校であんなことするよ。きっと後先とか何も考えないんだろうな」


「ホントやだ……。自分の身を守るって難しいよ……。」


「文化祭準備の居残りはやっぱり俺が残るね。羽依も準備の協力したいだろうけど、当日のお給仕を頑張ってもらおう」


「……ごめんね蒼真。お店は任せといてね」


 元気なさげに笑う羽依。この話はそろそろ区切ったほうが良さそうだな。


 そうだ、この前言ってたモデルの話を聞いてみたいな。二人とも本気だったりするのかな?


「全く関係ない話だけどさ、二人とも芸能人になりたいって思う?」


 首をブンブン振る羽依。まあそうだろうなとは思った。


「絶対やだ。知らない人に知られるのが嫌。愛想振りまくことが無理。自由がないのもやだ」


 羽依らしいなって思う。心は常に自由だもんな。


「羽依だったらきっと成功するとは思うけどね。でも前にモデルになろうかなって言ってなかったっけ」


「そんなの本気なはず無いじゃん。真桜がそんな事言ってたから併せただけ」


「 私だって芸能人なんて興味ないわ。モデルの話は、綺麗に撮ってくれるなら嬉しいかなってだけよ」


 真桜は綺麗に撮ってほしいのか。わりと乙女なところがあるんだな。容赦ない腹パンするくせに。


「じゃあ蒼真に撮ってもらえば良いんじゃない? スマホで一眼レフみたいに撮れるよね? 料理とか美味しそうに撮ってるし」


 俺の隠しスキルを見抜いていただとっ! 誰にも言ったことないのに。

 相変わらず、よく見てるなと感心する。


「へえ、蒼真にそんなスキルがあるとはね。じゃあ今度撮ってもらおうかな。でも、私が被写体じゃ物足りないかしらね」


「そんなはずないじゃないか! 真桜の脚なんて特に綺麗で魅力的だよ。白く長く伸びた脚は艷やかですべすべしてそう。しっかりとした筋肉がついたふくらはぎがとても素晴らしい。太腿もアスリートのような筋肉だよね。実に理想的だとおもう、なにより――」


「わかった。わかったから。人の足をじっと見ながら力説しないで。足が妊娠するわ」


「あはは! 足が妊娠って真桜すごいねー! どうやって出産するんだろ!」


 羽依がお腹を抑えて苦しそうに笑う。妙にハイになってきてるのはお泊りモードだからかな。元気でてきたようでよかった。


 真桜は正座している足をすっと伸ばし、スカートの裾を少し上に上げて自身の綺麗な御御足を確認する。その何気ない仕草に、思わず目を奪われてしまった。


 俺の目線に真桜はなんとも呆れたような表情をする。


「……遠慮なく見るのね。もうちょっと視線ずらすのかと思ったわ」


「真桜、蒼真は脚フェチだからね。そんなことしたらご褒美だよ~」


 けらけらと笑う羽依に、ジトッとした目で俺を見る真桜。でも、その表情に悪戯な色が浮かんでくる。


「ふうん。そんなに良いものなのかしらね。私と羽依の足だったらどっちが良いのかしら」


「そんなのどっちも良いに決まってるじゃないか!」


 おっといけない、思わず大きな声がでてしまった。でも、二人の綺麗な足に優劣をつけるなんて、神を恐れぬ所業だ。俺にはできん。


 羽依と真桜はお互い顔を見合わせて頷きあう。以心伝心ってやつなんだろうな。内容は定かでは無いが、きっとタチの良いものではない。


「お腹もいっぱいになったし、撮影会やろっか!」


 案の定、そんな羽依の提案から始まった撮影会。

 さっき盗撮で被害に遭ったばかりだというのに、ハート強すぎる……。


 ……いや、これは敢えての“上書き”なのかもしれない。


 同意の上で、綺麗に撮られる写真なら、本来は楽しいはずのものだ。

 ならば、それをあえて“楽しいイベント”にすれば、嫌な記憶を塗り替える助けにもなるだろう。


 なるほど、羽依の考えはもっともだ。

 ならば全力で応えることにしよう。


 先ずは制服姿の二人を撮ってみた。

 可愛らしく腕を前に出して逆さにピース。小顔に見えるらしいポーズを決める。


 正直、こんな飛び切り可愛い二人の姿を撮れる俺はこの上ない幸せだ。将来カメラマンって選択は案外有りなのかも。


 真桜のノートPCに転送して画像をチェックする。


「あら、スマホでもこんなに綺麗に撮れるのね……」


「ね、蒼真の腕ってやっぱり普通じゃないよね。私を撮った写真も工夫してるっぽくて、綺麗なの多いよね」


 特技ってつもりはなかったけど、喜んでもらえるのはやっぱり嬉しい。

 モニターの中で明るい笑顔を見せる羽依はやっぱり可愛い。

 俺だけの特権と思うと、何ともくすぐったく感じた。


 しかし、この可愛さが男を狂わせると思うと妙に説得力を感じてしまう。

 俺の彼女の可愛さは日々記録更新しているようだ。



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