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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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第95話 トラブル勃発~成長の証

 金曜日。今日は羽依が文化祭準備のため、学校に居残る日だ。俺はお店のバイトに専念するため、一足先に帰ってきた。

 時刻は18時を過ぎた辺りだった。羽依からはまだ連絡がない。


「蒼真、悪いんだけど迎えに行ってあげてくれない?」


 普段はわりと放任主義な美咲さんだけど、夜道の一人歩きのような明らかなリスクには敏感だ。


「じゃあ行ってきます。お店よろしくお願いします」


「悪いね。気を付けて行ってきてね」


 夜の道を自転車で走る。日が暮れるのが早くなった。

 見上げると、紺に染まった空に満月が浮かんでいて、街並みをぼんやりと照らしている。

 ヘッドライトの明かりよりも、月の光のほうが頼もしく思えた。


 さすが自転車は速い。10分かからずに学校についた。羽依はまだ教室かな? 一応LINEで到着の連絡をしておこう。


 教室に入ると羽依がいた。すぐそばに、あまり見ない男子生徒が……詰め寄ってる?


「もう帰りますから、いい加減にしてください!」


「誰も助けになんか来ねぇよ。先輩呼んだから、もう逃げ場なんてねえからな。黙って従えよ。あんまり騒ぐとボコるぞ?」


 ……久しぶりだな、この展開は。

 でも、たちの悪さが今までとは桁違いだ。襲う気満々だけど、ここ学校だぞ? 正気か?


「羽依、迎えに来たよ」


「蒼真!」


 走って俺にすがりつく羽依。体がガタガタと震えている。

 可哀想に、よっぽど怖かったんだろうな……。

 ――怒りで呼吸がしづらい。……冷静になれ俺。


「遅くなってごめん。さあ帰ろう」


「うん……」


 完全に男子生徒を無視した形になった。

 多分上級生。制服を着崩したチンピラのような雰囲気の生徒だ。

 羽依の背中をそっと押して教室の出口に促す。背後から上級生が吠えた。


「おい、まてよ!」


 そう言って肩を掴み俺の顔に拳を叩きつけようとする。


 刹那、身体が応戦体制に入った感じがした。


 放たれた拳を流し相手の体のバランスを崩す。相手の体は受け身が取れず、顎から落ちた格好となった。

 瞬時に対応出来たことに一番驚いたのはきっと俺だ。

 毎週の稽古の成果をしっかりと感じることが出来た。


 相手は顎を押さえてジタバタしている。どうしたものかと思ったが、自業自得だろう。


 痛みで涙を流しながら、男は膝で立とうとするところを、目線を併せるようにしゃがみ込んだ。


「ひっ」


「……学年とクラスと名前を教えろ」


「……3-Cの後藤……です。す、すみませんでした」


 何故か必要以上に怯えている後藤。戦意は完全に喪失しているようだ。


「蒼真、写真撮られた……」


 怯えながらも俺に訴える羽依。後藤は尋常じゃないほど震え始めた。


「……スマホ出せ」


「……」


 握りこぶしをぐっと上に上げると後藤は慌ててスマホを差し出した。

 ロックを解除させてカメラの画像を確認する。


 ――盗撮画像だ。それも羽依ばかり狙ってる。ついさっき撮られた、恐怖に引きつった羽依の顔がそこにあった。


 怒りでどうにかなってしまいそうだ……。そんな俺の表情を見て、後藤はガタガタと震え始める。


「先輩呼んだって話は本当か?」


「……嘘です。ちょっとビビらせようと思っただけです!」


 本当かどうかはわからないが、正直これ以上関わり合いたくなかった。


「貴方達、何してるの?」


 声の方に振り向くと真桜がいた。俺の顔を見てビクッとする。


「蒼真、何があったの? 人を殺しそうな顔をしてるわよ……」


「真桜! 怖かったよお!」


 泣きながら真桜にしがみつく羽依。何事かと怪訝な顔を浮かべる真桜。何となく察したのか、徐々に殺気が浮かんでくる。


 ああ、詰んだなこの男。


 今までの話を掻い摘んで真桜に伝える。


「警察案件よねこれは……。暴行罪に盗撮は迷惑防止条例違反かしらね。蒼真、証人になってくれるわよね」


「もちろん」


 警察と聞き、咄嗟に逃げようとした男を真桜は軽く脚をかけて転ばせた。再び顎を強打して男はのたうち回った。


「真桜、警察は呼ばなくて良いよ。十分痛そうな目にあってるし。写真は全部消してもらうけど」


 羽依の寛大な心で救われたかな? まあ面倒くさかったんだろうな。


 写真はすべて羽依監修の元、消去した。クラウドや家のPCに保存してあるかどうかも気にはなるが、幸い直接的な写真はなかったそうだ。

 まあ今どきの女子は下着の上に一枚履くのが普通みたいだしな。

 そんな自衛が必要な今の世の中。女子は大変だと思う。


 夏休み明けの登校時の写真も発見した。隠し撮り犯が思わぬところで見つかったな。その点だけは結果オーライってところか。


 男を連れて職員室へ向かう。一部始終を当直の先生に伝えた。激昂した先生を尻目に、判断を委ねて俺たちは下校した。

 変に引き止められずに帰れたのは、真桜が居てくれたおかげだろうな。


「あー怖かった……」


「ごめん……。もう少し早く来てあげればよかった……」


「ううん、来てくれてありがとう。 たまたま教室にスマホ忘れて取りに戻ったら捕まっちゃって。きっと一人になるのをずっと見張ってたのかな……うぅ、怖すぎる」


「あのまま俺が来なくても真桜に見つかって結局詰んでたね」


「そうね。羽依が残っているのは知っていたから、途中まで一緒に帰ろうとは思ってたわ。まさか襲われる寸前だったとはね……」


 羽依はさっきまで落ち込んでるように見えたけど、今はちょっと興奮気味だ。シャドウボクシングのマネみたいなことしてる。思ったより大丈夫そう?


「羽依大丈夫? 無理してない?」


「うん……今までで一番怖かった。けどね、蒼真も真桜も来てくれるかなって思ってたの。そしたら本当にそうなって、私って愛されてるなあって思ったらさ、逆に嬉しくなっちゃって!」


 俺と真桜の腕を取り、ぎゅっと寄せる羽依。確かにその表情は怯えた様子も消えていた。


「真桜、今日うちに泊まっていこ?」


「あーごめん。今日は無理なの。お祖父様不在で留守番頼まれてるのよ……」


 申し訳無さそうな顔をする真桜。しかし、すぐに表情が変わった。


「そうだ、貴方達、今日一緒にうちにこない? 私も一人で寂しいから泊まっていってくれたら嬉しいわ」


 俺と羽依は顔を見合わせる。


「いく! あ、でもお店が……」


「お店もそろそろ閉店になるからね。美咲さんに報告がてらその話を言ってみたら?」


 早速羽依はスマホを取りだし美咲さんに連絡する。美咲さんも連絡遅いわ俺が帰ってこないわで相当心配しただろうな……。


「――うん、じゃあ蒼真もね。それじゃあ、戸締まり気を付けてね。連絡遅くなってごめんね、お母さん」


 羽依は満面の笑みを浮かべて俺たちにしがみついた。


「お母さん良いって! 蒼真の事も言っておいたからさ! 3人でお泊り会だね!」


「俺まで良いのかな……」


「蒼真、羽依と一緒に居てあげて。今は気が張ってるけど、落ち着いたらまた怖い思いをぶり返すかもしれないわ」


 確かに真桜の言う通りだ。ここはお言葉に甘えておこう。


「じゃあよろしくね、ついでにそのまま稽古も出来るね」


「ふふ、だったら羽依も一緒に頑張りましょうね。もう襲われても平気なように」


 途端に渋面になる羽依。


「えー筋肉痛辛いからお稽古やだ。私のことは二人が守ってね!」


 やれやれと思いつつも、ちょっと笑ってしまった。

 やっぱり羽依は守ってあげなきゃいけないな。改めてそう思った。

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